030 上位種に勝つための賭け

 一度仮拠点に戻って来た俺たちは、軽食を取りつつ作戦の打ち合わせをする。


 といってもできることは限られているし、当然危険が伴う。


 失敗すれば終わってしまうような、そんな賭けに出るしかない。


 仙人河童の時も、賭けに打ち勝って今がある。


 だが、こうした賭けは本来よろしくない。


 毎回成功すると考えていれば、いずれ破滅する。


 だからこそ、それを理解した上で望む必要があった。


 特にペロロさんは、負ければ言葉にできないことになるだろう。


 不安はある。けど、ここまで来て止まることはできない。


「クルコン君、もしこの作戦が上手く行ったら、何か一つ何でもお願いを聞いてくれないかな?

「ペロロさん、それ死亡フラグだよ……」

「もちろん分かっているさ。代わりに僕も、クルコン君のお願いを何でも一つ聞いてあげるよ! え、えっちなことだって……ど、どんとこいさ!」


 そう言って笑みを浮かべるペロロさんからは、どこか緊張した雰囲気を感じた。


 ペロロさんも不安なんだ。だからこそ、こんな風におかしなことを言ったのだろう。


 なら、それに乗らないわけにはいかないよな。


「そうか、じゃあ、凄いことをお願いすることにする。ペロロさん、覚悟していてくれ」

「しゅ、しゅごいこと……う、うん。がんばる。ぼく、どんなことでも受け止めるよ」

「? まあ、頑張ってくれ」


 少々ペロロさんの反応が気になるが、こうして俺たちは休息を終えるのだった。


 持ち物は最低限持ち、仮拠点を出る。


 ここからは別行動だ。


 作戦上、仕方がない。


 なのでペロロさんと顔を合わせるのは、このイベントでは最後になるかもしれなかった。


「クルコン君、少ししゃがんでくれないかい?」

「ん? ああ」


 ペロロさんがそう言うので、言われた通りしゃがむ。


 するとペロロさんは不意に俺の頬を両手で掴み、口づけをしてきた。


「なっ!?」

「へへっ、これ、僕のファーストキスだからね。最悪の場合を考えたら、ここでクルコン君にあげた方がいいと思ったんだ。僕みたいな可愛い子にキスされて、嬉しいでしょ?」


 突然の出来事に、俺は言葉が出ない。


 だが、その理由を聞いて理解した。


 仮に作戦が失敗してペロロさんが敗れれば、オタオークに襲われることになる。


 だからこそ、友人でもある俺にファーストキスをくれたのだろう。


 正直、うれしい。


 ペロロさんの容姿が優れていることはもちろん、これまでの密着や会話などで少なからず心が動かされた。


 このイベントが終わったら、俺もそろそろ真剣に考えた方がいいだろう。


 だから、絶対に作戦は成功させる。


「じゃあ、またね。絶対に負けちゃだめだよ? 僕も貞操だけは死守するからね」


 そう言って、ペロロさんは一人駆けだしていった。


「俺も、行くか」


 残された俺は一人呟き、自分のすべきことをする為に、移動を開始する。


 おそらくこれが俺たちにとって、イベントでの最後の大一番になるだろう。


 こんな世界に連れてきた神には祈らないが、俺を信じてくれるペロロさんを信じる。


 さあ、行くぞ。


 ◆


 俺の現在位置は、地図にするとこの場所になる。



 山山山山山山山

 山オ果果果河山

 山☆森森森果山

 山森森塔森森山

 山森森森拠森山

 山森森森森森山

 山山山山山山山


 ☆=現在地

 拠=拠点

 塔=中央の塔

 森=森

 果=果物

 河=オタガッパの群れ

 オ=オタオークの群れ

 山=山

 


 俺はここで、ペロロさんが事を起こすのを待つだけだ。


 作戦が上手く行けば、すぐにでも分かるはず。


 実際、これは成功するだろう。


 問題は、俺が上手くいくかだ。


 俺の行動が上手くいくかどうかによって、ペロロさんの生存に大きな影響を与える。


 緊張に胸が張り裂けそうだが、覚悟を決めた。


 勝つ。ただそれだけだ。


 するとそれからしばらくして、状況に変化が生じる。


「がっぱ!」

「ろりっぱ!」

「ががががぁ!」


 木の上から望遠鏡を覗くと、北東から大量のオタガッパたちが現れた。


 どうしてオタガッパたちが現れるのかというと、その先頭に秘密がある。


「どうしたのぉ? 僕一人捕まえられないなんてぇ~、おじさんたちよわ~い! ざぁこ♡ ざぁこ♡」


 オタガッパたちを煽りながら、ペロロさんが走っていた。


 そう、これが作戦の第一段階だ。


 当然オタガッパが進んだ先にあるのは、オタオークの住処である。


「ぶぎぃ!!」

「ろりっ!」

「ぶぎゃぎゃぎゃ!」


 それに気が付いたオタオーク達が、迎え撃つように出てきた。


 よく見れば、統率されたように列を為している。


 おそらく、上位種が命令を下したのだろう。


 そしてオタガッパとオタオークはお互いを認識すると、争い始めた。


 協力して、ペロロさんを襲う気はないようである。 


 よし、賭けに一つ勝ったな。


「ぶぎい!!」

「がっぱ!」

「ぶぎゃぁ! ろりっ!」

「すもうっぱ!」


 オタガッパとオタオークの争いは、統率されている分オタオークの方が有利である。


 そこでペロロさんが、場をかき乱しながらオタオークを刈り取っていく。


 これで、オタガッパの不利は多少軽減されただろう。


 さて、こっちはどうなっているかだな。


 争っている場所はしばらく大丈夫そうなので、俺はオタオークの住処に双眼鏡を向ける。


 上位種の小屋の前には、オタオークが二匹か。


 あれを始末しようとすれば、上位種に気が付かれるだろう。


 まあその途中で、発見される可能性が高いんだけどな。


 オタオークの上位種は、一定の範囲内の鏡から相手を見つけることができる。


 なので如何いかにして素早く接近して、味方が来る前に倒すかが、一番重要なポイントだ。


 あれ?


 すると、見張りのオタオーク二匹が動き出す。


 行く先を追えば、捕らえられているプレイヤーがいる可能性があるボロ小屋に入っていった。


 命令無視か? それとも、上位種の命令? 何のために?


 罠かもしれないが、これはチャンスだろう。


 行くなら、今しかない。


 俺は双眼鏡をしまって木から降りると、その場から駆け出す。


 目的の場所は、上位種のいる小屋である。


 もうそろそろで、範囲内か。


 上位種が感知できる予想範囲内に俺は入り込み、いつ気が付かれてもいいように気を引き締める。


 だがどういう訳か、何の接触もない。


 やはり、あれは罠だったのではないか?


 そんな不安が胸を襲う。


 けれども、ここで止まれるはずがない。


 俺はそのままオタオークの住処に入り込むと、上位種の小屋の前にやってくる。


 ここまで近付いても、オタオークが現れて襲ってくる気配が無い。


 この先に、何が待っているんだ?


 俺は木剣を手に、慎重に進んでいく。


「ぎゅっふ。ろりぃ。ぶひひっ」


 何やら上位種らしき、気持ちの悪い声が聞こえる。


 小屋は薄暗く、周囲にはゴミが散乱していた。


 捕らわれているプレイヤーの姿はない。


 そして少し進んだ先で、俺の視界に上位種が映りこむ。


 まじか……。


 上位種はなんと、大画面でペロロさんを眺めていてこちらに気が付いていない。


 あまりにも無防備な、後ろ姿だった。

 

 だから俺が、尻穴爆竹の串を突き刺すのは必然といえる。


「ぶぎゃっ!?」

「あっ……やっちまった」


 しかし、もう遅い。


 俺はその場から逃げるように駆けだす。


「ろりっ――ぶぎゃらばっ!」


 背後から聞こえた叫びと共に、小屋が吹き飛んだ。


 俺は後ろを振り返り、上位種が生存しているか意識を向ける。


 頼む、あれで倒れてくれ。


 崩壊した小屋を、俺は見つめ続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る