Blue Ocean #Base x Soprano

NLです。

紺野♂x 亜樹♀










 俺の名前は 紺野。

 下の名前は 言いたく無い。

 なんか 名前負けしてる気がするし。

 〈ひーくん〉って呼ぶヤツもいるけど それも 正直あんま好きじゃない。

 普通に「紺野」って 呼び捨てにしてくれたら それでいい。



「ひーくん おかえりなさい!」



 アパートのドアを 開けると明るい声。

 俺のこと「ひーくん」って呼ぶ 唯一の女。


 紺野 亜樹。


 俺の嫁さんで 俺の天使。

 ……恥ずいけど 本気で思ってる。


 亜樹と俺は 高校生の時に出会った。

 亜樹は 光岡中央の聖心館お嬢様

 俺は 紫水館っていう底辺私立半グレ

 

 小学校からバレーやってた俺だけど 中学時代に大きな故障抱えて バレーを辞めた。

 近くの行ける公立ってことで藤工 受けたけど落ちて 萩生谷の紫水館へ。 

 一応 ボクシング部には 入ったけど 仲間とバカやったりヤンチャしたりする無目的な日々。


 そんなある日 偶然 出会ったのが亜樹だった。

 たまたま早めの列車に乗った日に見かけたカワイコちゃんツインテール

 まあ 正直 可愛いとは思ったけど 俺と関わりのある人間とは思わなかった。

 向こうは天上人聖心館で 俺は地べたを這いずり回る半グレ紫水館

 接点なんて あるワケない。


 だけど その日は違った。

 真っ赤になって半泣きになってる亜樹。

 見れば サラリーマンのおっさんが スカートに手を挿し入れてた。

 目の前が ふっと暗くなり 身体が自然に動く。

 気がついたら 俺はおっさんを ぶちのめして這いつくばらせてた。


 次の日 いつも通りの時間に桜橋駅に行ったら 改札口で亜樹が待ってた。

 その次の日も。

 こんな時間に電車乗ってて遅刻しないの?って聞いたら『毎日 遅刻してるけど どうしても紺野くんに会いたいから』って答え。

 俺のせいで お嬢様 留年させるワケにはいかない。

 俺の方が 早い電車で 学校行くことに。


 とはいえ 早く学校 着いてもすることがない。

 しゃーなしに ロードやったりシャドウやったり。

 ボクシングの基礎練やってた。

 そして 気がつけば チームのエースに。 

 インターハイ出て 国体出た。

 

 5年前にプロテストに通った。

 10戦して8勝2敗。

 6回戦に上がって足踏みしたけど 9戦目で勝って ついにA級になった。

  

 その間 亜樹は ずっと側にいてくれた。

 A級になったらプロポーズするって決めてたから ずいぶんヤキモキさせたと思うけど この夏 無事 結婚式を挙げることができた。



「どうしたの ひーくん? ボーッとしちゃって?」


「やっぱ いつ見てもカワイイなって」


「なーに?見とれてたの?ホントにー? それより お・か・え・り」



 そう言って目を閉じる。

 俺は186㎝ 亜樹は147㎝ その差40㎝(亜樹に言わせると㎝だけど)。

 膝を曲げて 唇を重ねる。



「ただいま 亜樹」


「うん。おかえり。もうちょっとで ご飯できるから。ちょっとだけ 待ってて」


「ん。いつも ありがとな。今日は 何?」


「えーっと ねぇ……」


 

 亜樹の返事を待たず 奥の部屋に引っ込み アウターをハンガーに引っ掛ける。

 俺の仕事は警察官。

 プロボクサーで警察官だ。

 いや 警察官でプロボクサーかな?


 警察官は兼業禁止なんで俺はファイトマネー貰わずにリングに上がってる。

 ヤンチャで勉強のできなかった俺が 警察官になれたのも晶のおかげ。

 高校時代 テスト前になると亜樹が勉強見てくれた。

 勉強するのは嫌だったけど 亜樹に会えるのが嬉しくて 頑張った。


 元が元だし そんな賢くなるハズもないけど 紫水館でなら成績上位に入れるようになった。

 そうしたら 小さい頃の夢だった「お巡りさんになりたい」っていうのを もう一度口に出せるようになった。


 俺 バカだし警察学校のテストに落ちた。

 それでも亜樹は「ひーくんなら大丈夫」って言ってくれて 勉強付き合ってくれた。

 おかげで2度目のテストで警察学校に入って警官になって ボクシング再開してプロに。


 その間 ずーっと傍にいてくれた。

 マジに感謝しても 感謝しきれない。



「ひーくん 今日はねぇ こないだ絵が売れたから 磯崎まで行って 大粒の生牡蠣 買って来ちゃった」



 リビングに戻る テーブルに料理を並べながら 亜樹が言う。

 


「生牡蠣? 」


「そう 生牡蠣。ちょっと高かったんだけど この前の絵のお金でね」



 ……生牡蠣って 俺 食べたこと無いんだけど。

 でも そんな俺に 亜樹は天使の笑顔。



「友達に 素敵なレシピ教えてもらったから やってみたかったんだ。楽しみにしててね?」


「……ああ うん。ありがとな」



 テーブルにつくと 亜樹が手際よく 料理を並べていく。


 イカとキノコのリゾット。

 野菜のカクテルソース添えの生牡蠣。

 サーモンとアボガドのサラダ。

 ドレッシングは 松の実を使ったオリジナル。 



「すっごい 豪華……」


「うん。さっきも言ったかもだけど 絵が売れて いいお金になったし。いつも お世話になってるから ちょっとだけお礼」


「……お礼なんて 俺 なにも…」


「ううん。ひーくんのおかげ。もし あの時 ひーくんに会って無かったら アタシは 今でも親のロボット。歌も絵もやめちゃって きっと 息が詰まって死んでた。今のアタシがあるのは 全部 ひーくんのおかげ……」



 亜樹は 今 近くにある音楽教室で講師しながら 油絵描いたり PCでイラスト描いたりして 稼いでくれてる。

 出会った頃の亜樹は 歌も絵も親に反対されて 自信失くしかけてたらしい。

 歌も絵も ホントに上手いから 俺は ただ 思ったこと言ってただけなんだけど……。



「ゴメン。リゾット冷めちゃう。いただきます しよ?」




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~~




 俺が 洗い物やら片付けやら終わらせて 風呂に行こうと脱衣場に向かうと 亜樹が 洗面台の前で ドライヤーを当ててた。

 いつもは 後ろで纏めてる 長い栗色の髪を下ろしてる。

 下ろし髪も 見慣れてるハズだけど なんか ドキッとする。



「ひーくん 片付けありがと。お風呂 ゆっくり浸かってね」



 結婚した時に貰った 青のチェックのペアパジャマ。

 その下に隠された控えめな胸の膨らみが 鏡越しに目にはいる。

 亜樹が 鏡越しに 俺の裸の上半身見てる。

 ヤバッ 勃起ちそう……。


 10日も禁欲してるから お互いかなり溜まってる。

 慌てて視線を逸らし 下を脱ぐと 浴室に逃げ込んだ。



 少し ゆっくり湯船に浸かり 心を落ち着ける。

 なんて言うか ちゃんと愛し合いたい。

 劣情に任せて 襲っちゃったみたいなことは したくない。


 風呂から上がると リビングに亜樹の姿はない。

 もう寝室に行ったらしい……。


 戸締まりを確認して 照明を落とすと 俺は寝室に向かう。

 なんか ガラにもなく緊張してる自分に気づいて 苦笑する。

 亜樹の〈初めて〉をもらったとき 俺は もう童貞じゃなかった……。

 亜樹と初めてした時の方が ずっと軽いノリだったのに どうしたんだろうな 俺は。

 


 寝室に入り ベッドサイドに腰掛ける亜樹を見て 息が止まる。


 亜樹は……。

 俺の天使は……。


 透ける薄絹でできたベイビードール姿。

 肌も露な ランジェリー姿で 妖しく微笑んでいた。



「あ 亜樹 それ……」


「えへへ~。ひーくん 喜んでくれるかなって思って買っちゃった……」


 

 

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