White Rose #Alto x Soprano




 今日も 1日 仕事で疲れた。

 

 久しぶりの外回りで ポカやって お客様には許してもらえたけど 帰ってから 三原主任にボコボコ……。

 ヤレヤレだ。


 隣にいる亜樹の温もりと 髪の甘い香りを感じながら 沈み込むように 眠りの世界に落ちていく……。

 

 明日は 金曜日。

 もう1日 頑張れば 休み…。

 もうちょっとだ……。



 


「……んっ」



 

 微かな呻き声が 耳に入り 少し意識が 覚醒する。


 


「んぁ……っ」


 


 薄目を開けると あたしに背を向けて 寝ている亜樹が ナニやらモゾモゾ 動いている。



「あぁ……っ ダメ……ん 声 出ちゃう……」


 

 アラアラ?

 まあ 長い付き合いだし なんとなく見当はつく。

 小さく声をかける。



「亜樹?」


「――――――ッ!」

 


 亜樹の小柄な身体が 小刻みに震え 強張る。



「寝ちゃってて ゴメン。女の子気分の日だったんだ? 我慢できないなら 我慢できないって 言えばいいのに……」



 あたしの夫の 亜樹は性同一性障害。

 心は男だけど 身体は女。

 戸籍は男性に直したけど 性別適合手術は受けてない。


 生まれてきた身体は身体として 大切にしたい。

 それが亜樹の想い。

 そのことは 夫婦で何度も話し合って あたしも納得してる。


 2人で決めたこと。



「……だって 疲れてるみたいだったし。瞳の言う通り ボクも 明日 朝から仕事あるしさ」



 亜樹は 背中を向けたまま。

 ボソボソ呟く。

 恥ずかしいのか?

 拗ねてるのか?

 相変わらず 面倒臭い男。


 

「それにしても 新婚のこんなに美人の奥さんが 横に寝てるんだよ? 襲ってくれても 全然 大丈夫なのに…」



 冗談っぽく 笑って許すけど。



 亜樹があたしを 襲わなかった理由。

 それが 女の子気分の日。


 亜樹は 身体は 普通に女だから 生理もある。

 それで 生理の2~3日前に『女の子気分の日』ってゆーのが あるらしい。

 たぶん ホルモンバランスか なんかの影響なんだと思うけど。

 大学生のころ 同棲するようになって 月に1~2日ほど そーゆー日があることに気がついた。


 あたしも 生理前はムラムラするときあるけど 亜樹は それが強いみたい。


 要するに 生理前の亜樹は 女の子モード。

 襲うより 襲われたいんだ。


 

「亜樹 おいで。ぎゅって してあげる」


「……ん」



 身を寄せてきた 亜樹をハグしてあげる。

 でも なぜか 相変わらず背中を向けたまま。


 ……たぶん なんか言いたいことあるけど 言い出せないんだな。

 ホント 面倒臭い…。


 

 女の子気分の日の亜樹は まさに『女の腐ったような』性格。

 ……あたしも女だけど。


 

 ハッキリと言いたいこと なかなか言わない。

 ウジウジ同じような思考を繰り返す。

 そして すぐ泣く。

  

 

 亜樹とは 高校生のときから恋人同士。

 かれこれ 8年の付き合い。

 それはもう 何回も 何回も ケンカした。


 原因のほとんどは 亜樹の女の子モード。

 ……あたしが お腹 空いてたとか 眠かったってゆーのも けっこうあった気もするけど。

 あと ヤキモチも……ね。



「ん。好きだよ」



 大好きな栗色の後頭部にキス。

 ホント いい匂い。

 同じシャンプー使ってるハズだけど 亜樹の髪の匂いって 甘い香り。


 いきなり本題に切り込むと 大抵 拗れる。

 8年間の経験での学びだ。

 ……面倒臭いけど。


 でも 夫婦だからな。

 寄り添ってあげないと……妻として。


 ホント いつも 優しくて 寄り添ってくれてるし。



 まあ 女の子モードの亜樹は エロエロモードでもある。

 しかも ちょっとマゾっ気UP。

 ……たぶん 本人 気づいてないけど。

 


 虐めてあげたら 本音を漏らすに違いない。

 瞳ちゃんのエロエロ尋問タイム。

 ナ~ニ隠してんのかしらね?

 あたしの可愛い旦那様は。

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