14話 1人から2人へ

 2人は疲れた体に鞭を打ち、夜になるまで歩を進ませる。できるだけ神殿都市カムプラから距離を取った後、ようやく休み始めた。


 この間に、神殿都市カムプラには様々な情報が届いている。その情報はローランの協力者が流していた。


 ラフマ・ヴェールは発見された。

 しかし、より望まれている教会への移動を希望し、辺境を目指し旅立った。


 聖女の双子の妹。そんな立場を苦しく思っていたのだろうと皆は受け止めたが、今や聖女として扱われるようになった、ラフマ本人は違う。

 1度話がしたいと、ミゼリコルドを連れ戻してくれるように頼んだが、その願いは届けられた手紙を見て取り消された。


 短い手紙の内容は、


『ボクはボクの道を行くね。でも、いつでも助けに行くからさ』


 なんともミゼリコルド《兄》らしい言葉を、彼女は受け入れるしかなかった。



 協力者によって用意された平民らしい服に着替えているマーシーは、疲れからウトウトとしながら、ローランに頼む。


「髪を切ってよ。もう、伸ばしておく必要ないからさ」


 人の髪を切ったことがないローランは、苦労しながらも長い髪を切り落とし、整えていく。

 頭が軽くなっていくのを感じながら、マーシーは言う。


「ボクやラフマが聖女って言われたのはさ。別に、信仰が篤かったとか、回復魔法が優れていたとか、それらしかったからじゃないんだよね」

「聖女に選ばれた理由があるということか」

「なぜか分からないけど、ボクらと話をしている人は、口が少しだけ軽くなるんだよ。特に後悔していることとかは、打ち明けやすいのかな? 懺悔室に向いてるよね」


 これは最高機密であり、軽々しく話して良いことではなかった。

 それをマーシーが口にしているのは、眠気で口が滑ったからではない。

 ローランを信用しているということを、彼に伝えるためだった。


「だから、さ。おにいさんも教えてよ。どうせ一緒に旅してくんだから、隠しごとは少ないほうがいいと思うんだ」


 マーシーは元聖女らしく優しい笑みを浮かべる。

 自分は打ち明けたのだから、そちらも打ち明けてほしいということではない。

 ローランが何か重荷を背負っていることには気づいているから、その荷を分けていいんだよとの心遣いだった。


 どうにか不格好ながらにも整えられたマーシーの髪を見つつ、ローランは息を吐く。

 しばしの沈黙の後、ローランは決意した様子で胸元を開いて見せた。


「それ……勇者に現れるっていう聖痕でしょ? でも偽物だよね。そっちの聖剣みたいな、ただの剣と同じでさ」

「分かるのか?」

「なんとなくだけどね」


 マーシーは聖なる力の有無を感じ取ったのだろう。

 これではいずれにしろ、いつかは気づかれていたなと、ローランは苦笑いで話し始めた。


「俺は勇者の替え玉だ。まだ魔王には気づかれていないようだが、うまく引き付けて旅を続け、可能な限り生き延びることを使命としている」


 真の勇者であるエリオットが力をつけるのが先か、それともローランが死ぬのか先か。

 過酷な使命を聞いたマーシーは、フニャッと笑った。


「じゃあ、ボクがおにいさんを生き延びさせるよ。おにいさんがボクを生き延びさせてくれたようにね」

「その必要は無い。君は君が生きることだけ考えればいい」

「はいはい、そうですね。ボクが勝手にすることだから気にしないでいいよ」


 なにか言葉を返すより前に、コテリとマーシーの体がもたれかかってくる。すぐに寝息が聞こえ始め、ローランは額に手を当てた。

 子供に守られるような情けない真似はできない。もっと強くなる必要がある。

 決意を改め、拳を強く握った。

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