第4話

指先の力は普段と変わらない。

特別に力を込めたワケでもない。

ただ、指が弾く時、一瞬だが、熱の様なものを感じた。

東條要人にとっては、当たり障りない指先の力ではあった筈なのに。

それでも、この威力は通常ではない。

まるで外から力が加わったかの様な、異常さを感じた。


「…これが、指弾強化?…スキルって言うのか、これ」


ステータス画面を確認する。

他に何かないかを探すが、これ以外にめぼしいものは無かった。


「…レベルが上がる事で、スキルが獲得出来た…」


レベルが上がる条件は、恐らくはゾンビを倒す事なのだろう。

ゾンビを倒せば倒す程に、スキルを獲得出来る。


…もしも。

と言う感情が脳内に溢れた。

スキルと言う力。

もしかすれば、この状況を打破する事以外にも。

摩訶不思議な、超常の力すらも操れる可能性があるとすれば。

そうであるのであれば…きっと、妹の東條美月妃も救えるのではないのだろうか。

そんな事を思ってしまう。

…それは、希望だと思った。


「…美月妃、お前を救えるのかも知れない」


スキル。

これを集めれば、きっと。

ゾンビになった東條美月妃を、元に戻せるのかも知れない。

一縷の希望が生まれた事で、東條要人は立ち上がる。

此処で、燻っている場合ではない。

ポケットに入れていた、小銭を取り出した。

そして、東條美月妃を抱き上げながら歩き出す。


「ゾンビ、ぶっ殺して…レベルを上げる…そして、スキルを得る」


男子便所から出ると共に、東條要人は廊下の方を見た。

廊下には、ゾンビが蠢いている。

それを確認すると、手の平の中に詰め込んだ小銭を器用に動かして、親指に小銭を乗せる。

そして、小銭を弾いた。


「…」


だが、最初は空振りした。

ゾンビには当たる事無く、廊下の壁に小銭が当たり、小銭が壁に突き刺さる。


「(命中率は低いのか…)」


先程、ゾンビの眉間に当てる事が出来たのはまぐれだったらしい。

東條要人は歩きながら、ゾンビに近付き、小銭を弾いていく。

距離が五メートル、三メートル、一メートルと近付き、漸く、小銭がゾンビの頭部に直撃して、後ろ向きに倒れた。


「(…ノーコンだな、俺は)」


ゾンビになった生徒が死んだ、しかし、レベルが上がる事は無い。


「(まだ殺さないと、レベルが上がらないのか)」


幸いにも、廊下にはまだゾンビが居る。

直接、殴って殺した方が早いが、それだと、東條美月妃を手放してしまう。

出来るだけ一緒に居たいので、片腕でも扱える指弾で、何とか倒して行く。

そして、廊下のゾンビを指弾で倒した事で、再びレベルアップの音が脳内に響いた。


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