第2話
先に目を覚ましたのは、東條要人だった。
便器の隅で、彼女を抱きながら眠っていた。
酷い頭痛が、彼の頭を襲っていた。
だが、そんな事はどうでも良い。
「美月妃…?」
名前を呼ぶ。
身体を揺さぶる。
強く彼女の体を抱き締める。
だが反応は無い。
動く気配はない。
冷たいままだ。
眠る様に眠る彼女の顔を見る。
死んでいると認識して、東條要人は再び泣いた。
「ぁ…ぁあッ」
脳内で頭痛が響く。
何処まで五月蠅く、声が響き出す。
彼女を想う事すら出来ない自分に腹立たしく感じる。
「うるせぇ…うるせぇッ!黙れッ、黙れよッ!」
耳元で羽虫が飛ぶ音が聞こえた。
体中が沸騰して破裂しそうになる。
だが、そんな痛みすら煩わしい。
歯を食い縛る。
彼女を抱き締めたまま立ち上がる。
「はぁ…っ…クソ、ッ」
音が鳴り止まない。
それは個室の外から聞こえて来る。
蠢く者、ゾンビの行動、その動き。
それが酷く、耳障りだ。
「…待ってろ、美月妃…ちょっと、黙らせてくる」
自分だけ生き残った。
彼女を想いながら死にたいと思っている。
だから、その願いを叶える為に、東條要人は拳を握り締める。
外に出る。
既に、男子トイレには複数のゾンビで溢れていた。
東條要人を認識すると、餌であると思ったのか、牙を剥いた。
「うるせぇ…美月妃が、ゆっくり、眠れない、だろうがッ」
頭の中を押し込む様に、親指で額を押す東條要人。
頭痛を気合と根性で無理やり押し込めると、拳を握り締めてゾンビに向かう。
何度も何度も。
ゾンビに咬まれようが引っ掛かれようが関係ない。
既に、彼の肉体は死に掛けている。
だからこそ、傷など些細な問題だった。
この音を止める事が出来るのであれば、なんでも良い。
静寂を求めて、ゾンビの頭を潰して音を消していく。
そして…荒く呼吸をしながら東條要人は返り血を浴びていた。
「はぁ…はぁ…ッ」
呼吸を繰り返した末。
ようやく、頭の中の雑音が消えたかと思えば。
『レベルが上がりました』
…ゲームの様な音声が、頭の中で響いた。
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