第2話 放送部

 天音は昇降口で上靴に履き替えると放送室に向かった。


 天音は放送部員だった。


 放送室には真央と美里がすでにいた。

 

 マイクの前に座った真央がサンドイッチを食べていた。たまごサンドだろうか、美味しそうだ。


 美里はそんな真央に背を向け、窓からグラウンドを眺めていた。


 ふたりは会話をしていた気配はなく、ただ放送室に流れる静かな空気の一部のようだった。


 放送部員は天音を含め三人しかいない。


 天音たち放送部員はみんな仲が良かった。


 「おっはー」


 天音は気だるげに言った。


 「おっはー、まじで身体ダルイわー」


 真央が言った。


 「えっ真央、身体、ダルビッシュなん?」


 美里が何がおもしろいのか、如何にも、おもしろいでしょと、いったような口ぶりで言った。


 天音は荷物置きに、スクールバッグを置いた。


 「みーさ、おもんないで」


 天音はそう言うと、真央のたまごサンドを横取りしてそれを口に含んだ。


 ハムハムと咀嚼する天音はまるでハムスターのようだった。


 美里はそれを見て「いいなー、あたしにもちょうだい」と甘えるように言った。


 そんなこんなしているうちに朝の放送の時間がやってきた。


 「ピーンポーンパーンポーン」


 「ゴソガサゴソ」


 「皆さんおはようございます。今日は4月11日月曜日です。今日の当番は珍宝天音と石田真央です。今日も一日頑張りましょう」


 美里は天音が名前を言った瞬間、顔を押さえ笑い始めた。辛うじて笑い声はマイクに入らなかった。


 天音が放送部員になって初めて放送して自分の名前を言ったときは学校中で噂になった。今ではこの学校で、天音の名前を知らないものはいない。


 そのことに対して天音は恥ずかしくて消えてしまいたいと思ったが、みんなから顔を覚えてもらえるので学校の人気者になったりもした。


 名前が原因でイジメられるなどはなかった。


 多少からかわれたことはあるが、相手も悪意があるわけではない。


 天音には楽天的な一面がある。


 みんなそんな天音が大好きだったのだ。


 

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