謎を解明する攻略【ワンガル】#11[後編]
探査機の後面をモニカがいじると、二本のベルトが出てくる。それをエーミィが背中に負った。持ち運びができるように取り付けられたベルトらしい。ある程度の大きさがある探査機を脇に抱えていれば戦闘に参加できなくなる。エーミィなら、探査機を背負っていても戦闘に参加できるだろう。
――【 敵影アリ 】
――【 索敵開始 】
「はい。無事に探査機も回収できましたね」
『使い捨てはできませんので、確実に回収したいところです』
「はい。ではアリシアちゃんの索敵結果を待ちましょう」
《 索敵完了! 前方に二体、後方に二体! 戦闘開始します! 》
「前方、アンデットとグールに。アリシアのショットガンが開戦を告げるとともにアンデッドを吹き飛ばします。後方、モニカの速攻でギミックバットがあっという間に地に落ちた! 華麗なステップでグールを撃破するエーミィ・ポンド! 探査機を背負っているとは思えない速さです! リトのライトニングがグールを貫き戦闘終了となります。戦闘少女の圧倒的な勝利です!」
『それぞれの能力を活かせていますね。素晴らしい戦闘でした』
《 準備運動にもならないわ 》
***
[探査機って重くないんかな]
[エーミィちゃんにとっては軽いんだろうな]
[さすが怪力自慢]
[エーミィ! エーミィ!]
***
星はステータスボードを確認する。エーミィは探査機を背負っていることでいつもより体力を消耗し、アリシアとモニカは魔力を消費していた。
「アリシア、戦闘はあと二回、残っているが、みんなの消耗具合はどうだ?」
《 特に問題はありません。主戦が終わっても帰還する余力は充分に残せると思います 》
「そうか。じゃあ、次に進んでくれ」
《 はい、司令官! 》
マップ上に表示されるアリシアのドット絵が四マス目に進む。謎解きはあと一回、残っている。戦闘少女たちなら難なくクリアするだろうが、いままでの攻略より魔力の消費が多いのは確かだ。
「謎解きには戦闘以上の魔力がかかるようですね」
『はい。魔物との戦闘とは違う消耗になります。ですが、戦闘少女のステータスは充分です。探査機の情報では主が変わっていることもないようですし、特に問題はないでしょう』
星も特に心配しているわけではない。いつもより消費が多いと言っても、戦闘少女たちのステータスに響くほどではない。よほどのことがなければ、帰還用の魔道具を使う必要はないだろう。
――【 敵影アリ 】
――【 索敵開始 】
「さあ、索敵開始となりました。ダンジョンの難易度が上がるに連れて、ひとマスの魔物の出現数が上がっていますね」
『難易度に否定するようですね』
《 索敵完了! 前方に三体! 後方に二体! 戦闘開始します! 》
「流れるように戦闘が開始します。アリシアのショットガンに続くエーミィ・ポンド。背負った探査機の重さなど微塵も感じさせない身のこなしです! 後方二体に向かうはモニカ・ソードマン。自慢の速力で圧倒的な実力差を見せつけています! 魔物がいくら束になっても、戦闘少女の完全勝利を妨げる障害には程遠いようです!」
『少女たちの戦闘能力の高さを見せつけられましたね! 花丸です!』
《 戦闘終了、ですね。お疲れ様でした 》
***
[いつ見ても美しい]
[なんか魔物の数が多くない?]
[魔物が多くても圧倒的な能力値]
[安心して見てられる]
***
星は再度、ステータス表を確認する。視聴者の言う通り魔物の出現数が多いが、ステータスにはさほど影響はない。
「アリシア。体力値と魔力値の消費と武器の耐久度はどうだ?」
《 特に問題はありません。主戦を終えても余力を充分に残せるはずです 》
「よし。じゃあ、次に進んでくれ」
《 はい、司令官! 》
通信用マイクのスイッチを切ると、星はひとつ息をついた。
「魔物の出現数が多いようですね」
『はい。ダンジョンの変化に伴い、魔物の出現数はこの先も増えていくと考えておいたほうがいいでしょう』
「はい。さて、最後の謎解きになります」
アリシアがドアの横に設置されていたパネルを開くと、十六個のボタンが整列している。ボタンをひとつ押すと他のボタンも連動するパズルだ。星が最も苦手とする謎解きである。
「ボタンは十六個。すべて押した状態になれば解除ということですね」
『はい。とても難しく感じられるパズルですが、モニカちゃんにかかればどうということはありません』
レディの言葉通り、モニカはあっという間に十六個すべてのボタンを押した状態へと導いた。カチッ、という軽い音が響く。
「アリシア。そこで詳細な探査をしてくれ」
《 お任せください 》
――【 敵影アリ 】
――【 索敵開始 】
***
[秒だったな]
[一番苦手なタイプやー]
[やはりモニカちゃんが最優秀]
[さすモニ]
***
「圧倒的な速度での解除でしたね。さすが速力のモニカちゃんです」
『モニカちゃんに解けない謎はきっとないでしょう』
「頼もしいですね。それでは、索敵の結果を待ちましょう」
探査機の報告によると、主はワイトから変わっていない可能性が高い。戦闘少女がダンジョン内の攻略をしている最中に主が変わっているようなことがあれば、いままでの変異より劇的である。探査機も意味を為さなくなるだろう。
《 索敵完了しました。主はワイト。育成具合は中の上程度と思われます 》
アリシアの言葉に、星は小さく安堵の息をつく。ここで主が変異していれば、それだけで難易度が大きく変わっていたことだろう。
「中の上となると、これまでの主より強いということになりますね」
『戦闘少女たちは上位の魔物にも勝って来ましたし、特に問題はないでしょう』
「慎重になりすぎる必要はないようですね。アリシア、進んでくれ」
《 はい、司令官 》
***
[探査機で育成具合はわからんのかな]
[そこまでの性能は望めないんちゃう?]
[そこまでできたら感知スキル要らずだなー]
[魔力を温存できそう]
***
画面が切り替わり、戦闘少女たちの背中が映し出される。その向こう側に、黒いぼろぼろのローブを纏った人型が待ち受けている。崩れた顔は悲しみと憎しみで歪んでいる。
地を蹴ったエーミィの特攻が開戦の合図となった。
「さあ、始まりました最終戦。まずは切り込み隊長エーミィが重い一撃を繰り出します。それに続くはアリシア・モーメント。素早く躱すワイトに迫るはモニカ・ソードマン! 防壁の魔法でその剣は弾かれます」
『ワイトも中の上となり、戦いに慣れているようですね』
「一瞬の隙を見逃さないリト・ワイズマン! 白い稲妻がワイトを直撃だ! 畳み掛けるポニー・ステラ! しかし流星の如く降り注ぐ矢は防壁に阻まれた!」
『なかなか硬いですね』
星の目から見ても、戦闘少女たちの攻撃が届きづらくなっているのがよくわかった。それもいままでの魔物と比べたら、という程度で、戦闘少女たちの攻撃は確実にワイトを捉えている。
「同時に地を蹴るはエーミィ・ポンド、モニカ・ソードマン! ワイトの行く手を阻み挟み撃ちだ!」
『さすがにこのふたりの速力には敵いませんね』
「続くアリシア・モーメント! 魔弾が確実にワイトを捉えた!」
そのとき、キン、と耳を突き刺すノイズが響き渡った。耳の奥の痛みに星が顔をしかめた瞬間、ワイトが大きく杖を振りかざす。戦闘少女たちの頭上を、禍々しい魔法陣が覆い尽くした。
***
[耳痛え! なんの音!?]
[てかヤバくない?]
[避けれるのコレ!]
[みんなああああ!!]
[逃げて逃げてー!!]
***
星が頭まで貫通するような不協和音に動けずにいるうちに、ワイトが再び杖を掲げた。
(まずい……指示を……!)
なんとか伸ばした星の手をすり抜け、レディがマイクのスイッチを入れる。背筋を伸ばしたレディが、熱い視線で少女たちを見つめた。
「リト・ワイズマン!」
《 はい! 》
凛としたレディの声に気高く応え、リトが杖を振りかざす。禍々しい雨が降り注ぐより一瞬だけ早く、リトの杖から溢れた光が少女たちの頭上を覆い尽くした。激しい衝撃音のあと、画面が白むほどの光が瞬く。それが晴れ渡ると同時に、不快なノイズは消え去っていた。戦闘少女たちは瞬時に体勢を持ち直し、動揺するワイトへ向かって行く。
***
[ひえ~……痺れ千切った……]
[レディさんかっこよ……]
[まさに女神]
[レディさんが指示出したの初めてちゃう?]
[マイクを奪うレディさんかっこよ……]
[レディさんの声もとても良かったけど、個人的にはリトちゃんの返事が最高だった]
[めんどくさがり屋さんの本気が見えたな]
[てか耳がイカれるかと思った]
[中の上ってなると攻撃も複雑化してくるのね]
***
星は画面の少女たちを見つめながら、耳が平穏を取り戻すのを待った。配信を通している視聴者たちはすぐに立ち直った様子だが、星はいまだ頭が回転するような感覚に陥っている。少女たちの攻防を見守るレディは、星の代わりに通信用のマイクに手を添えていた。
***
[月輔、まだ回復せんのかな]
[実況もできないほどの衝撃だったんだな]
[魔物の攻撃を直に食らったわけだからな]
[一般の人間にはキツいな]
***
星が目の奥の痛みと戦っていると、とんとん、と惣田が机を指で叩いた。配信用のマイクを切ったレディに、惣田はステータスボードを見せる。
「リトちゃんのチャージが終わりそうだ」
「ポニーちゃんのチャージをリトちゃんに分けられるんじゃない?」
青山が指差した部分に目を走らせたレディが、また通信用のマイクのスイッチを入れた。
「リトを援護してください。ポニーはリトにエネルギーを分けてください」
《 はい! レディ様! 》
凛と応え、アリシア、エーミィ、モニカがワイトに向かう。ポニーが手のひらを宙に向けると、溢れた光が一本の矢を形成した。意識を集中させるように目を閉じるリトに向け、ポニーは弦を強く引く。
ポニーの矢に光が集結していく中、レディが配信用のマイクのスイッチを入れた。星は咄嗟にカメラをレディに向け、自分を画面から消す。
『わたくしたちはどうやら、戦闘少女の能力を見縊っていたようです。リトが戦いながらチャージしていたことを、わたくしたちは気付いておりませんでした』
***
[えっレディさん実況!?]
[レディさん実況キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!]
[てかリトちゃん!?]
[普通に戦ってたよな]
[これアレ? ポニーちゃんがエネルギー分けようとしてる?]
[まさか、見られるのか!?]
[やべえ、神回じゃん]
[なになに。何が始まるの]
[wktk]
***
ポニーが放った光の矢はリトのそばで弾け、エネルギーとなりリトに吸収されていく。リトの足元から吹き上がる風が、杖の先に集結していった。
『さあ、ポニーのエネルギーがリトに充填されました。そのあいだも攻勢を緩めぬアリシア、エーミィ、モニカ! 素晴らしい連携です。徐々に押されるワイトが少女たちの能力の高さを表しています。さあ、みなさん、ご期待ください!』
《 僕たちに出会ったのが運の尽きだったね 》
***
[リトちゃん! 頼む!]
[頑張れー!]
[期待!]
[いけーリトー!]
***
《 特異攻撃・改!
『決まりましたァー! 天井を覆い尽くす魔法陣から放たれた矢がワイトの体を貫く! 再生の余地はありません! 戦闘少女たちの完全勝利です!』
《 いや~なんとかなったね~ 》
リザルト画面のリトは、心底から安堵した表情で微笑んでいた。
***
[決まったァー!]
[みんな花丸!]
[良いもん見たな]
[特異攻撃“改”キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!]
[なんかよくわからんがすごい技だった]
[久々に改を見られたな!]
[ご飯が美味しい]
***
『みんな、お疲れ様でした。見事な連携でしたよ』
《 ちょっと頑張りすぎちゃったかな~ 》
『花丸です。リトの魔法で回復して、速やかに帰還してください』
《 はい! 作戦終了します! 》
***
[作戦終了ー!]
[みんなお疲れ様!]
[みんな花丸!]
[レディさんの実況プラス特異攻撃改で神回]
[月輔は大丈夫なんかな]
[実況を代わったレディさんもGJだけど、カメラを切り替えた月輔の判断力もさすがだ]
[早めに回復するといいな]
***
『さて。今回は向こうの攻撃が月輔さんに届くというイレギュラーがありましたが、無事、作戦終了となりました。月輔さんも回復してきていますので、ご安心ください。次の攻略は月輔さんが回復し次第、決定いたします。SNSでお知らせいたしますので、どうぞそちらをご覧ください。それではまた次回にお会いしましょう。さようなら』
***
[お疲れ様ー!]
[月輔、お大事になー]
[やっぱワンガルの実況解説には月輔とレディさんが揃ってないとな]
[回復報告待ってるぞ!]
***
レディが配信を終了させると、星は大きく息を吐いた。まだ耳が塞がれているような感覚と目の奥の痛みが残っているが、先ほどより随分とましになった。
「大丈夫? 鷹野くん」
「なんとか……」
「向こうの攻撃がこっちに届くとはなー」
惣田がつくづくと呟くので、星は小さく頷く。これはいままでにはなかったことだ。
「僕たちが平気なのは、鷹野くんがそれだけ向こうと近い存在になったということだね」
「少女たちに対する攻撃だから、威力は相当のものだろうな」
「よく耐えたよ、鷹野くん」
「どうも……」
レディが星の前に湯呑を置く。礼を言ってひと口飲むと、少しだけ体が楽になったような気がした。
「レディさん、ありがとうございます。おかげで無事に配信を終えられました」
「少女たちを見守るひとりとして、当然のことをしたまでです。星さんこそ、配信が終わるまでよく耐えられました」
「レディさんがいなければどうにもできなかったですね……」
「通信を通して攻撃がこちらに届くのは、私も予測していませんでした。この先も同じことが起こる可能性があると考えると、何かしらの対処は必要でしょう」
ワイトがこちらの存在に気付くはずはない、と星は考える。攻撃は戦闘少女たちには通用しなかったが、こちらの存在に気付いていれば攻撃は激化したことだろう。魔物がこちらの存在に気付いた場合、どう反応するかは判然としない。この先、こちらの存在に気付く魔物が現れないことを星は祈るばかりだ。
「星さんは少しお休みになってください。少女たちの帰還は私が待ちます」
「はい……お言葉に甘えさせてもらいます」
「よく休めよ。俺たちも次の作戦のことを話し合っておく」
「ああ、よろしく」
ソファから立ち上がると、足元がふらふらして覚束ない。ただの人間である星には、戦闘少女が相手取るような魔物の攻撃を耐えられるはずがないのだ。
レディが実況を替わったことで視聴者を喜ばせる結果になったが、レディがいなければ、配信を続けることはできなかった。それに加え、レディがいなければ攻撃をまともに食らっていたのではないか、と星は考える。レディは女神である。何かしらの加護のようなものが星には作用しているのだろう。
ドアの向こうから、帰還を告げるアリシアの声が聞こえる。少女たちの無事に安堵しつつ、星はゆっくりと目を閉じた。
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