謎を解明する攻略【ワンガル】#11[中編]
アリシアが操作パネルに触れる。ピッ、という甲高い音のあと、緑色のバーを囲むパズルが表示された。
「これは、緑色のバーを所定の場所に移動させることで解けるパズルでしょうか」
『そのようですね。アリシアちゃんはパズルの専門家のような少女ですから、苦戦することはないでしょう』
***
[ハマると抜け出せないやつだ]
[地味に難しいやつよな]
[いつも適当に動かしちゃうな]
[アリシアちゃんなら秒ちゃう?]
***
アリシアがパズルを操作してものの数秒で緑色のバーは左端に移動する。カチッ、と何かが嵌まるような音がしたあと、重々しくドアが開いた。
「見事、難なくクリアしましたね。圧倒的なスピードでした」
『とっても頼もしいですね』
「この調子なら、謎解きには苦戦せずに進めそうですね」
『ダンジョンの謎解きが戦闘少女の頭脳を上回ることはないでしょう』
画面が再びマップに変わり、ドット絵のアリシアが第一地点のマスへと進んで行く。
――【 敵影アリ 】
――【 索敵開始 】
「さあ、流れるように索敵となりました。謎解きくらいではアリシアちゃんは揺るがないようですね」
『アリシアちゃんの魔力値なら余力を充分に残せるでしょう』
《 敵影確認! 前方に二体! 戦闘開始します! 》
「始まりました、第一戦。開幕一番、アリシアのショットガンがアンデッドに炸裂。エーミィのルーンアックスがスケルトンを真っ二つだ! 戦闘も圧倒的なスピード。戦闘少女の完全勝利です」
『速攻が効いています! 安心して見ていられますね』
《 戦闘終了! お疲れ様でした! 》
***
[アリシアちゃんの勝利ボイス安心する]
[戦闘少女、なんでもできちゃうな]
[逆に何ができないんだ?]
[今回も苦戦しなそうだな]
***
「アリシア、謎解きでの魔力消費はどうだ?」
《 問題ありません。モニカと分担すれば戦闘への影響はほとんどありません 》
「そうか。じゃあ、次に進んでくれ」
《 はい、司令官! 》
ドット絵のアリシアが二マス目に進んで行くのを確認して、星はステータスボードを見た。謎解きでは魔力にはほとんど影響がないようだった。
「無事、一マス目の突破となりましたね。探査機のおかげで謎解きの情報を得たことが効いているようです」
『はい。ダンジョンの内部構造が変化でもしていない限り、謎解きに苦戦することはないでしょう』
***
[探査機が入ったあとに変化している可能性もあるのか……]
[せっかく完成したのになー]
[変化してないといいな]
[そんな大きく変わることはないんじゃ?]
[変化しててもアリシアちゃんとモニカちゃんなら平気なんちゃう?]
***
トントン、と青山が指でテーブルを叩くので、星はマイクのスイッチをオフにする。
「探査機をこちらに呼び寄せられないかな。そうすれば先の構造がわかるんじゃない?」
「なるほど……。モニカ」
星は配信の音声もオフにして呼びかける。配信上では音が流れないようになっているはずだ。
《 はい、司令官 》
「探査機はいまも遠隔操作できるか?」
《 はい。通信機を持っていますので、現在地からも操作が可能です 》
「探査機をこちらに呼び戻すことはできるか?」
《 はい、可能です。こちらに戻らせながら内部構造を探索するということですね 》
「ああ。できるか?」
《 お任せください。次の謎解きには間に合わないでしょうが、中間地点で合流できるようにします 》
「ありがとう。よろしく」
***
[秘密の作戦会議だ]
[何か良い策があるのか?]
[期待]
[机トントンしてた人は協力者なのかな]
[姿を見せないのがなんかカッコいいな]
***
モニカが通信機を操作して、五人は再び歩みを進める。第三地点からでも新しい情報があれば攻略も少しは楽になるだろう。
星はひとつ息をついて、マイクのスイッチをオンにする。
「はい。現在、ダンジョンの最終地点に探査機が待機しています。遠隔操作で先の情報を集めつつ呼び戻すことにしました。合流は第三地点と想定しています」
『少しでも先の情報が集められれば、攻略難易度を下げることが可能のはずです』
***
[そういう使い方もできるのか]
[天才的発想]
[第四地点の謎解きは遠隔でできるのかな]
[また実績が消えたりせんかな?]
[実績が消えてもどんな謎解きかわかってれば楽勝ちゃう?]
***
モニカが操作した通信機が、ピッ、と機械音を鳴らす。探査機に指令が伝わったようだ。
「アリシア、次に進んでくれ」
《 はい、司令官! 》
アリシアのドット絵が二マス目に到達すると、少女たちの前に重厚なドアが立ちはだかる。やはり謎解きの実績は消去されているようだ。
「モニカ、解除できるか?」
《 お任せください 》
モニカが操作を始めた円形のパネルには、六つの赤い点が表示されている。ランダムに光っており、その外側で白い点が機械音とともに回っている。光った赤い点に合わせて白い点を打ち込む謎解きのようだ。
モニカは一度も失敗することなく光を押し込み、ドアのロックを解除した。
「さすがモニカちゃん。あっという間の解除でしたね」
『モニカちゃんが苦戦する謎解きが出現することはないでしょう』
***
[さすモニ]
[タイミング系苦手だ~]
[全部一発だったな]
[見てて気持ちいい]
***
――【 敵影アリ 】
――【 索敵開始 】
アリシアの索敵を待ちながら、星はステータスボードに目を走らせる。魔力値の消費は微々たるもので、ダンジョンのランクは徐々に上がっているが、戦闘少女たちにとって負担はほとんど低いようだ。
《 敵影確認! 前方に三体! 戦闘開始します! 》
「さあ、戦闘少女たちに立ちはだかるはアンデッド、グール、ギミックバット! モニカの斬撃がギミックバットの尾を斬ると同時に放たれたポニーの一矢! リトの光魔法にアンデッドは塵となる! アリシアの一撃にて戦闘終了。戦闘少女たちの完全勝利です!」
『さすがの速攻! 目にも留まらぬ速さとはまさにこのことです!』
《 戦闘しゅうりょ~。お疲れ~ 》
リザルト画面に表示される経験値も徐々に増しているが、戦闘少女たちのレベルを上げるには至らない。すでに多くの経験値を必要とする域に達しているようだ。
「モニカ、次の地点で探査機を回収できるか?」
《 はい。すでにドアの向こうまで戻って来ています。次のドアを開ければ回収が可能になります 》
「よし。じゃあ、アリシア、次に進んでくれ」
《 はい、司令官! 》
アリシアのドット絵が三マス目に移動する。それと同時に、近くに青色の点が表示された。
「あの青色の点は探査機でしょうか」
『おそらくその通りかと。発信機の電波を受信したようですね』
***
[これで見失わないようにできるんだ]
[GPSみたいなもんか]
[便利な機能だな]
[なくして作り直すのは素材的に痛いもんなー]
***
次に待ち受けていたドアには、ひとつの菱形を中心に三点が四か所で角を作る形状の謎解きだった。三点の中にそれぞれ赤、緑、青、黄色の四色がついている。
「これはどういった謎解きでしょう」
『中心の菱形の上下左右に色のついたパネルを移動させるパズルですね。これまでの攻略と同じであれば、上を青、左を赤、右を緑、下を黄色にすれば解けるはずです』
「難しそうですね。僕には適当に回すことでしか解けなさそうです」
***
[かなり難しいやつだー]
[確かに適当に回してクリアするよな]
[動画だったらカットする場面だな]
[次はアリシアちゃんのターンか]
***
「さあ、難しい謎解きとなりますが、アリシアちゃんの手にかかればきっと一瞬の出来事でしょう」
『さほど時間はかからないはずです』
アリシアは迷うことなくパネルを操作する。ものの数秒でレディの言葉通りの配置になったが、パネルは何も反応しない。エーミィが溜め息をついたのが、これが正解ではないということを証明していた。
《 前回の配置とは違うみたいね 》
《 ってことは、どこかでヒントを探さないといけないのか~。めんどくさいな~ 》
《 探査機でドアの向こう側を見てみませんか? 何か手掛かりがあるかもしれません 》
ポニーの提案で、モニカは別の操作パネルを取り出した。モニカが画面に触れると、レディの液晶の右端に探査機のモニターが表示される。器用に操作するモニカの動きに合わせ、画面がくるくると辺りを見回す。探査機のカメラによる映像のようだ。
「ドアの向こう側にヒントがあるとしたら、探査機がなければ見つけることができないように思いますが……」
『探査機がなければ、すべてのパターンを試してみるしかなかったでしょう』
「手掛かりを見つけられれば、時間短縮になりそうですね」
『探査機の強みが出ましたね』
***
[探査機って誰が設計したんだろ]
[かなり重要になってくるなー]
[天才]
[電子工学の発展が活きたな]
[月輔もよくそんな伝手があったな]
[最強の協力者では?]
[それだけの人が向こうの世界を救おうとしてるんだな]
[なんか感動するな]
***
賞賛するレディと視聴者に、惣田が得意げな表情を浮かべている。青山も穏やかに微笑んでいる。彼らの協力が明確に戦闘少女たちの助けになったのだ。誇らしく思うのも当然だろう。いずれきちんと礼をする必要がある、と星は考えていた。
《 司令官。よろしいでしょうか 》
「モニカ。どうした?」
《 この壁際の床に描かれた模様が見えますでしょうか 》
探査機のカメラは床に向けられているが、画面は焦点が合わずにぼやけている。
《 この中央に、おそらくパズルの絵柄が描かれていると思われます。ですが、どう操作してもご覧の通り画面がぼやけてしまいます。何か焦点を合わせる方法をご存知ないでしょうか? 》
星は配信用のマイクを切って惣田と青山に目配せする。惣田が即座にテーブルに設計図を広げた。青山が取り出したのは取扱説明書だ。
「要はカメラのピントを絵に合わせればいいってことだよな」惣田が言う。「カメラの操作は確か液晶だったな」
「スマートフォンと同じような操作ができるはずだから」と、青山。「液晶の中心を長押ししてみたらどうだろう」
「モニカ、どうだ?」
青山の言葉に従い、モニカが液晶の中心に指を当てる。画面に青色の枠線が浮かび上がり、ピッ、という短い機械音とともに、中心に丸い絵柄がはっきりと映し出された。
《 すごい! 》ポニーが感嘆を上げる。《 よく見えるようになりました! 》
《 ほんとね。よくできてるわ 》と、エーミィ。《 こんな簡単な操作で焦点が合うなんて 》
《 これで柄が見えるようになったわ 》アリシアが微笑む。《 みなさん、ありがとうございます! 》
「お役に立てて何よりだよ」
「操作のことは任せてくれよ」
胸を張る惣田と誇らしげに微笑む青山に、星は小さく笑った。彼らも心強い司令官である。
***
[他の司令官がちょっとだけ映るのエモいな]
[秘密の作戦会議エモい]
[声は入れないようにしてるんだな]
[どんな人たちか気になるなー]
[月輔の友達なのかな]
[月輔もあんまり見ない笑い方してたな]
[雑談回とかで登場してくれないかな]
***
アリシアとモニカが絵柄の確認をする中、星は配信用マイクのスイッチを入れる。
「はい。なんとか絵柄が見えるようになりましたね」
『模様は上が赤、左が緑、右が黄色、下が青のようですね』
アリシアが素早くパネルを操作する。模様が揃うと、カチッ、と鍵が嵌まる音のあとに重厚感のあるドアがゆっくりと開いた。その先に、工廠の聖霊たちが丹精を込めて作り上げた探査機が待っていた。どうやら無事のようだ。
***
[探査機こんな見た目なんだ。なんか可愛いな]
[ハイテクそうな見た目してる]
[ただの機械なのがいいな]
[人型も見てみたかったけど]
[美少女型とかできたんかな]
[人型にすると素材がかかりすぎるんじゃ?]
[お前ら期待しすぎだろ]
***
――後編へ続く
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