第111話 見つからないコメ

 そんなこんなで、観測地点には時折立ち寄る感じにシフトして、はや一年。私たちは、コメが栽培できそうな温暖な気候の地域に絞って、しらみ潰しに旅を続けていた。街並みはどう見てもアジアンチックなのに、出回っているのは大概小麦。しかし私はめげない。きっと必ずコメはある。海鮮丼が私を呼んでいる!




「コメ、みつからないね」


「うう、そうなんだよユウキちゃん。もうかれこれ二年は探してるんだけどさぁ…」


 一歳半になったユウキちゃんは、もう普通にぺらぺらと話が出来る。そもそも生まれた時から既に、物心がついていたっぽい。だって「彼」は、世界を超えてエリオットうじに逢いに来たんだもの。元のセシリーちゃんのヤンデ…愛情深さを思い返せば、それは当然のことかもしれない。


「ああユウキ。今日もユウキは可愛いですね。さあ、目線をこっちに」


 当のエリオットうじの方も大概だ。彼はカメラ魔道具を常に胸に提げ、バッシャバシャ撮影している。彼のDEXきようさの高さを見込んで、5ファイブの面々が200年前に旅立つ時、私が思い出したレシピを元に、彼には沢山の魔道具やポーションを作ってもらった。それはいいんだが、彼はあれから趣味が高じて魔道具作りにのめり込み、更にユウキちゃんの誕生でそれが加速した。今やダッシュウッドはポーションだけでなく、魔道具のメッカ。耳の早い考古学者やエルフ族などがエリオット氏の功績を聞きつけ、続々と集まって来ている。私が予測した通り、錬金術学園はダッシュウッドの領都に設立されそうだ。そして彼は、学園長へ押し上げられようとしている。


 ———そういえば、「ラブきゅん学園4フォー♡愛の錬金術大作戦♡」では学園長ルートもあったような。学園長、ブロンド長髪のイケオジだったような。ははっ、まさかね。




「それにしても、ユウキは聡い子だし、エリオット様に懐いちゃって、なんだか子育てしてる実感があんまないんスよね〜」


 ブリジットは大きな腹をさすってボヤいている。間もなく第二子を迎える予定だ。グロリア様抜きのプライベートだと、昔の冒険者モードに戻るようだ。


「ユウキもユウキだ。エリオットに嫁ぐと言って聞かん。ユウキは渡さん!」


 自分よりもユウキちゃんに懐かれるエリオット氏に対抗心を燃やす、デイモンパパン。彼らはセシリーちゃんの記憶を失っている。初子ういごがどちらにも似ず、どこから遺伝したのかピンクブロンドで、特徴的な黒子を持って生まれて来て。それを帰国したばかりの私たちが、「裕貴君が」って泣いてわめいて。彼らはずっと混乱したまま、しかし私たちの途方もない話をまるっと信じてくれて、ユウキちゃんを愛情深く育てている。


 そのうち、生まれて間もないユウキちゃんが人語を操り出してから、私たちの話が真実であったと証明された。彼女は、一部の人しか知り得ないセシリー時代の記憶を語り出し、ダッシュウッドに残された様々な資料に言及。異世界の知識とテクノロジーは、かつてグロリア様を魅了し、ギャラガー侯爵家の再建に大きく貢献したものだが、これでグロリア様の孫馬鹿に火が点いて、彼女は現在、ダッシュウッドの押しも押されぬアイドルである。


 そんな彼女にカメラを向けながら、エリオット氏は時々遠い目をしている。


「ユウキ。いつかあなたが好きな人に嫁ぐ日が来たら、その時は———」


「やぁだ!エリオットがいいの!」


 まだよちよち歩きのユウキちゃんが、エリオット氏に駆け寄って転ぶ。


「ああ、危ないですよユウキ!怪我でもしたら」


「エリオット、おれのこときらい?あきちゃったの?」


「そんな訳!!」


「おれ、エリオットにずっとあいたかったのに。エリオットじゃなきゃやだぁ」


「ユウキ…!!」


 わんわん泣くユウキちゃんをエリオット氏がひし、と抱きしめる。まあね、彼らの蜜月と、裕貴君の半年の失踪、からの再会。しかもお互い重度のヤンデレ。気持ちは分からなくもない。


 しかし、これが大体一日3回。両親の前で。しかもユウキちゃん、一歳半。ロリどころじゃない。犯罪だ。


「くうぅ、ユウキ…!」


 ハンカチを噛んで悔しがるデイモンパパに、


「はいはい、そろそろおねむですね」


 ユウキちゃんが泣き疲れて眠るのを見越して、寝床の用意をするブリジット。ああ、私、リゾートを建ててまで、何を見せられているんだ。

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