第109話 青い砂浜リゾート

 翌日、私は再び無人島へ向かった。今回はフェリックスうじの正確な転移によって。なお、王都から帰還されたグロリア様と、アンナさんも一緒だ。グロリア様は好奇心旺盛なお方、3スリーの舞台がどんなものか、一度見てみたいとのこと。アンナさんは転移のサブ要員と、グロリア様のお世話係ということで。彼女はもう隠密メイドではなく、ご長男で次期辺境伯デイヴィッド様の奥様なのだが、筆頭侯爵家の長女と亡国の王女。ハイスペ女子同士、気が合うらしい。嫁姑がめっちゃ仲良しだ。ダニエル様とデイヴィッド様親子が、悔しくてハンカチを噛むくらい。


「我らギャラガーも海の民じゃが、ここはほんに楽園じゃな」


「長い旅をして来ましたが、このような南の島は初めてです」


 いや、確かにプライベートビーチみたいなとこだとは言ったよ。青い海、白い砂浜、もう完璧リゾートって言っちゃった。だけど、お二人してその見事なバディを惜しげもなく晒して、際どい水着で攻めて来るの、やめてくんねぇかなぁ。


「何だ、お嬢も着替えねェのか?」


 そう言うフェリックスうじは、競泳用のようなシンプルな水着。だけどそれが妙に卑猥だ。てか、なにか。君は彼女らの完全下位互換のわたしが、引き立て役になっても平気なのか。なおグロリア様からは、私のボリューム控えめボディを可憐に飾るひらひら水着を贈られたが、私の気は一向に晴れない。アンナさんが「まあ、お似合いですのに」なんておホザ…慰めてくれるけど、女子の「可愛い」ほど当てにならない社交辞令もあるまい。実に腹立たしい。モブとはいえ、前世に忠実な体型設定など、マジでクソッタレだ。


 アンナさんとフェリックス氏の200年前双子ペア、そして海の女グロリア様の華麗な泳ぎを堪能しつつ、私は風属性同士、ヴィンちゃんと木陰でココナッツウォーターをちゅーちゅーする。ちなみにヴィンちゃんは、ふんどしスタイルで泳ぎ出そうとして、非常に焦った。水着は一応彼の分も用意してあったんだけど、着替えろと言うと、褌を一瞬で水着に変えてしまった。彼の服は、どうやら彼の魔力で出来ているようだ。そもそも龍神自体、物質的な生き物ではなくてエネルギー体らしい。彼も脱いだらフェリックス氏とはまた違う系統のナイスバディだった。西洋系細マッチョvs東洋系細マッチョっていうか。心臓に悪いので、自重していただきたい。




「して、アリスはここでどうするつもりかえ?」


 ひとしきり遊んだ後、グロリア様からツッコミが入る。私がしたいことというのは、ここで漂流してくるヒロインを待ち、同様に流れ着くイケメンとラブを繰り広げるのを出歯亀でばがめし、あわよくばカメラに収めて繰り返し愛でることだ。ついでに彼らがこの島を開拓し、交易を始めたあかつきには、高確率で米が流れて来る。コメ、それは甘美な響き。憧れの銀舎利生活だ。


 なお、グロリア様にはこれらのことは何度も奏上してある。彼女が聞いているのは、いつ流れ着くかも分からない漂流者を、一体どうやって待つつもりなのかということだ。


 私は、フェリックス氏やアンナさんに頼んで、毎日様子を見に来るつもりだった。ダメなら私とヴィンちゃんとで飛んで来る。ノーコンアバウトコンビなので、かなり迷うと思うけど。だけど、彼女が言いたいのはそういうことじゃない。


「ですよねぇ…」


 私たちが現在拠点にしている洞窟は、いずれ主人公の令嬢たちが最初の棲み家にする予定だ。今回は晴天に恵まれ、腕輪ストレージからビーチパラソルとビーチチェアを出し、木陰にセットしてリゾート風な雰囲気を醸している。だけど、もちろん天気の良い日ばかりではないし、何よりここでずっと張り付いているとかなり不審だ。流れ着いた令嬢が怪しんで、上陸を躊躇ったらどうしよう。いや、漂流の最中にそんな余裕はないかも知れないが。


 いずれにせよ、ゲームの進行を妨げないように、この浜辺から目立たない場所に監視用の拠点を建てたらどうか。彼女が言いたいのは、そういうことだった。




「と、言うわけじゃ」


「心得ました、母上」


 それから10分もしないうち、デイモン閣下が連れて来られた。以前閣下に相談した時には、「執務が忙しいので後で」とスルーされたままだった。実際、閣下は子爵位を継ぎ、ダッシュウッド領内のインフラ整備で忙殺されている。奥さんのブリジットも、奥方業とユウキちゃんの育児で手一杯。そしてそれにも増して、エリオットうじが写真魔道具を片手に子爵邸に乗り込んで、毎日ユウキちゃんをでろでろに可愛がっている。つまり、誰も遊んでくれないのだ。


 しかしグロリア様の要請なら、閣下は秒で駆けつける。そして、グロリア様の細かい要望に忠実に、外観は極力目立たず、しかし内装は品良く過ごしやすいしつらえの要塞フォートを、あっという間に建ててしまった。マザコンめ。


「ほほほ、息子とハサミは使いようじゃ」


 グロリア・ギャラガー=ダッシュウッド。ダッシュウッド辺境伯家の最高権力者にして、実質王国の裏ボスだ。恐るべし。


 なおこの要塞は、ダッシュウッド家のお忍びリゾートとして人気を博すこととなった。ここに来られるのは、自力で飛べる私とヴィンちゃん、それから光属性で界渡りが使えるフェリックス氏、アンナさん、そして彼らに連れて来てもらえる要人に限られるが、彼らは入れ替わり立ち替わり、海で遊びがてら様子を見に来てくれる。いつものおとぼけ三人組で暇を持て余していた私にとっては、非常に有り難い。


 浜辺を見下ろす高台を利用した、とても人工物には見えない邸宅で。私はダッシュウッド家の愉快な仲間たちと共に、ヒロインを迎え撃つ。来年か再来年か分かんないけど、私の戦いはこれからだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る