第106話 裕貴からの伝言
エリオット
あの時ヴィンちゃんが裕貴くんに向けて
「それが良いことかそうでないか、我には分からぬがな」
界を渡ること、つまり二つの世界にまたがって存在することは、肉体や魂に対して負担が大きく、存在を曖昧にしてしまうのだそうだ。
ヴィンちゃんの言っていることは、難しくて分かりにくい。だけど、彼らが今こうして幸せなら、良いことなんじゃないかって思ってしまう。
そんなある日、制御室の端末に、裕貴くんから私宛にメールが届いた。エリオット氏のIDで入ると、私宛のメールは見られないみたいだ。メールには、今日から三日後の深夜、こっそりここに来て欲しいって書いてある。エリオット氏には言えないような話でもあるのだろうか。私は、了承の旨を返信した。
約束の日、私たちは音を立てないように、制御室に入って来た。するとそこに、タイミングを合わせたかのように、裕貴くんが現れた。積もる話はたくさんあるが、界を渡るのは彼にとって負担だって、ヴィンちゃんが言ってた。エリオット氏を起こさないように、手短にこっそりと話をすることにした。
「アリスさん。前、上級ダンジョンの隠し部屋こと、wikiに書いたって言ってたよね」
その話をもとに彼が調べたところ、確かに氷の隠し部屋についての書き込みを発見。ユーザー名は、A1_ice。この書き込みをしたユーザーは、界隈では有名で、乙女ゲー攻略ブログなんかがあったらしい。うっわ、私ハズい。
しかも、裕貴くんのお姉さんが、私のことを知っていたらしい。私は彼女と大学の同期だったそうだ。
「氷室有里子さん、それがあなたの名前だったよ」
そして彼の話の本題は、そこではなかった。
「俺、もう時間がないんだ」
彼は詳しく言いたがらなかったが、彼の寿命が迫っていた。エリオット氏と再会してから、まだ一ヶ月半くらい。あちらの時間で、一年も経っていない。
界を渡るのは負担が大きいーーーヴィンちゃんが言ってたのは、そういうことだったんだ。
「俺、絶対に、そっち行くから。だから、俺を見つけてくれないかな」
それが、裕貴くんからの、私たちへの最後のお願いだった。
「うん、まーかせて!」
私の答えは、それ一択。
「初代だって俺を見つけたろ。安心しな、嬢ちゃん」
「案ずるな」
フェリックス氏もヴィンちゃんも、いいヤツ。
裕貴くんは、安心した様子で、穏やかに笑った。
「じゃあ、お願いね。エリオットのこと、どうかよろしく」
そう言って、彼はふっと姿を消した。
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