第104話 再会

「ユウキ…ユウキ…!」


 エリオットが、子供のように泣きじゃくっている。こんな彼、初めて見た。


「エリオット…」


「ユウキ…あなたは、私と家族になるんだって言った…!私を置いていなくなるなんて、許さない…!」


「ごめん…」


 胸がいっぱいで、何も言えない。覚えててくれたんだ、俺のこと。俺も、ずっと君が忘れられなかった。


「…会いたかった、エリオット…」


 気がつけば、俺の目からも涙が溢れていた。俺たちは、そうしてそのまま、ずっとステージの上で、抱き締め合っていた。


『忘れられない人が、私と同じように、私のことを忘れられないと思ってくれるなんて、なんて素敵なことだろう』


 あの時聴いた歌の最後の部分が、心の中でこだました。




 その後、少し落ち着いて来た彼と話をしようと思った途端、遠くでアラームの音がした。まだこっちに来て、ほんの少ししか経っていないのに。


「ごめんエリオット、俺、帰らなくちゃ」


「そんな、嫌だ、待って」


「また明日来るから…約束」


「ユウキ…!」


 彼はなかなか俺を離してくれなかった。俺も、離れたくなかった。


「明日また、この時間に、ここで待ってて」


 接続が切れる。エリオットの腕の中で、彼が俺を呼ぶ声を聞きながら、俺は現実に戻って来た。




 タイマーは、二時間にセットしていたはずだ。そして、時計を見ると、確かに二時間経っている。体感、十数分といったところ。あちらとこちらでは、時間の流れが違うようだ。エリオットには「明日」と言ったが、あちらの明日は、こちらでは何日か後になるだろう。次は一日時間を取って、もっと長く潜ることにする。脳への負荷を考えると、一日二時間が限度なんだけど、そんなことは言っていられない。


 エリオット、やっと逢えた。俺のこと、覚えていてくれた。俺には、それだけで十分だった。




 私の腕の中で、ユウキはあの水龍のように、ふわりと消えてしまった。確かに今、ここにいて、体温も匂いも感じたのに。


 ユウキがいなくなって、私は、前日にあんなこと言うんじゃなかった、もっと彼が大事だってちゃんと伝えておくんだったと、何度も後悔した。だけど、今日も結局、駄々をこねて彼を困らせるだけだった。胸が苦しい。いろんな思いが噴き出して、どうしたらいいか分からない。


「ユウキ…」


 彼は明日、また来ると言った。私は、それを待つしかなかった。

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