第7章 ユウキを探そう大作戦

第98話 消えたユウキ

「もう、今日から俺がエリオットの家族だかんな!」


 結婚式を挙げた当日、ユウキは私にそう言った。私にはそれが、たまらなく嬉しかった。その言葉が、私とユウキの繋がりを、確かなものにしてくれたと思う。


 あれから私たちは、同じものを見て、同じものを食べて、笑ったり、手を繋いだり、見つめ合ったり。ただ同じ部屋で、別々に本を読んだり。時にはつまらない喧嘩もした。私も彼も、随分わがままになった。そして仲直りするたびに、前よりずっと安心して、そばに居られるようになった。


 この日も、ちょっとしたことで言い合いになり、私は書斎で眠ることにした。よくあることだ。一晩経って頭を冷やしたら、また仲直りできる。明日は仕事終わりに領都に出て、彼の好きな甘いものでも買って帰ろう。そう思っていた。


 朝、目が覚めると、そこには誰もいなかった。




「…ユウキ?」


 寝室は、まるで最初から誰もいなかったかのように、しわ一つないシーツと枕。こんなに朝早くに、音も立てずにベッドメイキングをして、どこへ行ったのだろう。リビングにも、バスルームにもいない。


 とりあえず、いつも通りに身支度を整える。シャワーを浴び、身なりを整え。彼は朝食の時間になっても、姿を現さなかった。まだ怒っているのか。昨日はちょっと言い過ぎただろうか。仕方なく朝食を用意しようとキッチンに向かい、気づく。


 食器が足りない。一揃いしかない。


 どういうことだ。そういえば、さっきバスルームで違和感を感じたと思ったら、彼のものがなかったような気がする。胸騒ぎがして、バスルームまで引き返すと、彼の持ち物は何も見当たらなかった。それどころか、クローゼットも、本棚も、どこもかしこも。


 そんな…いや、腕輪マジックバッグに入れれば、それは不可能ではない。彼は全てを持って、どこへ出掛けたのだろう。


 嫌な予感がして、早速登城する。執務室にはまだ誰もいなかったが、時折執務を手伝う彼のデスクに、何か書き置きでも残っていないかと。すると、彼が使っていたデスク自体が存在しなかった。書棚にも、彼が手掛けていたはずの書類の一枚すら、残されていなかった。


「エリオット、早いな」


 ドアが開き、あるじのデイモン様が出勤してきた。


「デイモン様。ユウキの行方をご存知ありませんか」


「…ユウキ?」


 彼は不思議そうな顔をした。


「ああ、妻のセシリーです。今朝から見当たらないもので」


「エリオット。妻とは、何のことだ」


「え…」


 言葉を失っていると、デイモン様の妻のブリジット嬢、そしてパーティーメンバーのアリス嬢が出仕してきた。


「おっはよ、エリオットうじ


「アリスさん、おはようございます。あの、ユウキがどこに行ったか、ご存知ありませんか」


「…ユウキ?」


 同じ反応だ。


「ブリジットさん、妻のセシリーがどこに行ったか、ご存知ありませんか」


「エリオット様…その、奥様、とは?」


 この人たちは、とぼけているのか。そうだ。ブリジット嬢の耳には、デイモン様が贈られたピアスがある。私たちも同じものを身につけている。これでお互いの居場所が分かるようになっているのだった。


 だが。


 一度身につけたら二度と外せないはずの聖銀ミスリルのピアスは、私の耳には存在しなかった。そしてこの時気づいた。二人が礼拝堂で誓いを立て、交換したはずの指輪も。


 顔から血の気が引いて行くのが分かる。身体中から冷たい汗が吹き出し、動悸が止まらない。


「…エリオットうじ、どうしたの?」


 アリス嬢が、不思議そうな顔をして、私を覗き込んでいた。

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