第95話 帰ってきたフェリックス
午後になって、フェリックス
界渡りのスキル、すなわち時空転移は光属性のスキルだ。彼は光属性バージョン、つまり「綺麗なフェリックス」で部屋を訪ねて来た。
「どうせ訪ねて来るなら、まりいたそが良かった…」
「何だよそれ…」
決死の覚悟で200年前に戻り、光属性を取り戻し、仲間と慎重に操作を進めながら、レベルを上げ、スキル取得に励み、禁書を探して界渡りを覚え、やっとの思いで3年掛けて帰って来たというのに、この言われようである。
とはいえ、現王都、200年前のイングラム領にある、氷のダンジョンの情報を持って
「んだよ。俺が帰って来ちゃ悪かったかよ」
「そんなこと言ってないし」
「俺は、帰って来るって言ったぜ。そんで」
彼は、ずい、と距離を縮めて来た。
「…リベンジするってな」
フェリックスには勝算があった。ここを発つ前、彼は闇属性の魔力を持ち、これまで関係した女たちは皆、精神を壊してしまった。だから、アリスを大切にしたいと思えば思うほど、尚更彼女に手を出す訳にはいかなかった。だが彼女は、ほんの口付けだけではあるが、自分の魅了の魔力に
そして無事200年前に
そう、彼は闇属性ではなく、光属性の彼になれるのだ。もう、魅了のことを気にしなくて済む。彼は
レベルもしっかり上げた。もう弱っちいなんて言わせねぇ。これまでロクにお嬢を護れなかった俺だが、これからは俺がお嬢を護る。高所恐怖症についても問題ない。転移があれば、飛ぶ必要すらないのだ。
そうして意気揚々と帰って来たところ、周りにはキスしたことが知れ渡っているわ、他の3人にいきなり結婚を詰め寄るわ、散々な結果になったが、まだだ。俺のリベンジは、まだこれからだ…!
「ちょ、フェリックス
「待たねぇ」
ギシッ、とベッドが軋む音と共に、唇が触れる。アリスにとってはつい先日の続きだが、フェリックスにとっては、3年もの間、待ちに待った瞬間であった。一度唇を離すと、顔を真っ赤にして目を見開いたアリス。改めて頬に手を添えると、彼女はそっと瞳を閉じた。甘いため息と共に、もう一度キスを繰り返す。今度はもっと、深く。
(ああ、この前と全然感じが違う…)
アリスは
そして、あの時送られてきた魅了の魔力を感じなくなった。属性が変わると、こんなに変わるもんなんだ。前はこう、思考に
「…気持ちェ…♡」
「…?」
アリスの様子がおかしい。目はトロンとして、口元は半開きでふふ、えへへ、と笑っている。
「あはぁ…♡フェリックス
「お嬢?!」
へへ、えへへ。アリスが危険なキノコを食べたようになっている。何か変なものでも拾い食いしたのだろうか。フェリックスは急いで彼女を抱き抱え、医務室まで運んだ。
「うーん、中毒症状ではないのですが、何というか」
「何だよ、お嬢に何があったんだよ!」
「…これは魔力酔いですね」
「は?」
「いるんですよ、時々ね。闇属性じゃなくても、こう、魔力が高い者と交わると」
闇属性のように脳や神経に直接作用するものではないから、安静にして魔力が抜ければ大丈夫だろう、ということだったが。二代目、やっちゃいました?という目つきを向けられる。そして「ガッつき過ぎるのも程々に」と一言も添えて。くっそ…
鎮静剤を処方され、気分良さそうにすやすや眠るアリスを抱き抱え、彼女の部屋まで戻った時、ちょうどそこにエリオットがやって来た。
「ああ、遅かったか…」
彼によれば、闇属性の魅了よりも、光属性の向精神作用のほうが、よほど恐ろしいのだそうだ。だから、光か闇か選ぶなら、どちらかというと闇の方がマシだということをアドバイスしに来たらしいのだが…
「…お大事に」
そう言って、去って行った。あそこは
胸の中で幸せそうにムニャムニャ眠っているアリスを抱き抱えたまま、フェリックスは呆然と立ち尽くした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます