第93話 歓迎パーティー
「おい、お嬢」
ドアの外から声がする。私はいつもの居留守だ。だが
「入るぜ」
結局入って来るんじゃないか。
「おい、もう歓迎パーティー始まるぜ」
「…もう、どんな顔して行けって言うのさ…」
そう。午前中、あれをやらかしたばかりだ。夕方までこうして引きこもってたけど、もうこれからこの城でどう暮らしていいのか分からない。
「俺だって、散々冷やかされたんだぜ?」
「ごめんって」
だってもう会えないと思ったんだもん。とはいえ、こうして再会したからって、フェリックス
「…いよいよ国外逃亡しかないか…」
「何言ってんだよ。さっさと着替えて、行くぜ」
どうせ今日は、事情を知るたった一部だけの者が出席するパーティー。そんなにかしこまった盛装は必要ない。
しぶしぶベッドから起き出した私を確認すると、メイドさんがわらわらと入室してきた。フェリックス
「お、やっと来よった」
少し遅れて、そっと会場入りしたところ、グロリア様に目ざとく見つかった。
「駄目だよ、主役が遅れちゃ」
ウィンクを投げながら、少し雰囲気の変わったデイヴィッド様。そっか、フェリックス
「いえ、主役とはあなたですよ、アリス殿」
エルフの大使、キールからも。ああ、この人本当にキールだ。この姿形、そしてこの声は紛れもなく…
「ふおおお…『みゅっちー』…!」
そうだ。この声は、みゅっちー様だ。嘘、何で気付かなかったんだろう。美麗だ。神ビジュアルも神ボイスも、美麗過ぎる…!
「…アリス殿?」
「みゅっちー!みゅっちーだ!握手してください!ついでに結婚してください!!!」
「は?」
一同が呆気に取られている。そして、会場の向こう側で私の声を聞きつけた
「みなさん、気にしないでください。アリスさんはちょっと不治の病にかかってるだけなんです」
「だって裕貴くん!みゅっちーだよ?!結婚しかないっしょ!!!」
「あの…アリス殿の容態は、かなり良くないようですが?」
「末期です」
「ああっ、その
鼻息荒く彼に詰め寄る私を、フェリックス氏が羽交締めにし、裕貴くんがみゅっちーを庇って間に入っている。何をする!生キール、生みゅっちーが、そこにいるというのに…!
「…アリスちゃん。君、フェリックスと良い感じじゃなかったの…?」
デイヴィッド様が呆れている。てか、デイヴィッド様も…髪が伸びて、雰囲気変わっただけじゃない。声もちょっと、変わっている。もしかしなくとも、彼はまさしくダヴィード…!
「…みゅうまたそ…!」
「あ、言われてみれば確かに」
デイヴィッド様とダヴィードは、元々かなり似ていたので、微妙に気付くのが遅れてしまった。元の甘いマスクよりも少し精悍に、そして元々スッと通る綺麗な声だったけど、こうして聞いてみると、まさしくみゅうまたそ。
「みゅうまたそ!みゅうまたそだ!結婚!結婚してください!!!」
「ちょ、アリスちゃん?」
「お嬢、なんつー馬鹿力…!」
「アリスさんが限界突破した!ヘルプ!」
ブリジットが応援に駆けつけた。彼女は外見に見合わず、能力値をほぼPOW(ちから)に極振りした脳筋だ。
「はいはい!お嬢様!どうどう!」
「みゅうまたそおおおお!!!」
感動のみゅうまたそとの邂逅は、ブリジットに引き摺られ、秒で終了した。
「…結局お嬢は、誰でもいいのかよ…」
フェリックス氏は黄昏ている。
「誰でも良いわけないでしょ?!みゅっちーに、みゅうまたそだよ?!」
「フェリックスさん、これ不治の病なんで」
「はいはいお嬢様。大好きなローストビーフですよ。どうどう」
「む…」
口に運ばれたローストビーフを、条件反射でもぐもぐしてしまう。悔しいけど美味い。
「あら、アリス様。この度は、本当にありがとうございました」
そこにアンナさんがやってきた。そういえば、デイヴィッド様とカイル爺は、ダヴィードとキールに戻ったわけだが、アンナさんもフェリックス氏も、元の姿には戻らなかったんだろうか。
「私共は、ちょっと特殊でして」
界を渡って向こうに着くと、彼らは否応なしに元の体に戻ったらしい。その時、ダヴィードとキールの属性はそのままだったが、フェリチャーナとフェリーチャは光属性。そして、元々国王もしくは王妃が魔王の手先だったということで、彼らは元々半分闇の性質を持っていたため、難なく元の体に入り込めたのだが、同時に魂には200年後の記憶と経験値が含まれていたため、どちらの姿を取るのか、選べるようになったという。
「この姿が変えられる作用のおかげで、攻略が捗りまして」
そう。ダヴィードルートとキールルートでは、一部伏線や黒幕が変わる。どちらのルートの情報もノートに書き記して渡したのだが、彼らが元の世界に遡行した結果、どちらのルートも融合した、新たなルートに変わっていたようだ。彼らは隠密として培った闇属性スキルも十二分に活かし、見事それらを解き明かして、三年掛けて攻略し、こうして帰って来たという。
「…てか、アンナさん、フェリチャーナになれちゃうんですか?」
「はい」
彼女はにっこり笑うと、翠の右目が輝き、体が一瞬金色の光の塊になったかと思えば、一回り小柄な少女が現れた。あー、なるほど。髪の色はちょっと違うけど、背格好と髪型は私にそっくりだ。デイヴィッド様が、私と見間違うわけだわ。
「お初にお目にかかります、アリス様。改めて、この度は」
こ…この声は…
「ぱやみん!!!」
「は?」
「ぱやみんだ!ぱやみん!可愛い!!結婚してください!!!」
「お嬢、女でもいいのかよ?!」
「だってぱやみんだよ?!尊みがやばたにえんだよ?!」
「ほ…本当だ、ぱやみんだ…ッ!」
背後から、別のミイラが現れた。
「ぱやみん!!俺と結婚してください!!!」
「ええっ?!」
祝宴は大混乱と化した。
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