第89話 戦闘訓練
度々光のダンジョンを訪れ、彼らのレベルも無事300を超えた。強さ的には多分、問題ないだろう。取れるスキルも全部取ってもらって、スキルの
「魔王に圧勝とか、さすがお嬢は言うことが違うぜ」
フェリックス
このゲームに限らず、ちょっとしたバフやパッシブスキルは、地味に侮れない。自分は今後使うつもりがない、格闘術、槍術、斧術、盾術、それから魔力操作など。しかしこれらの中に含まれる守備力上昇や回避力上昇、カウンターなどのスキル、こういうのがチリツモで、いざという時に助かることがあるのだ。通常ならば、取得するスキルを絞って、それを磨いた方が強いのだけれど、レベル上げ放題、スキルの種子使い放題の状況において、それは当てはまらない。
とはいえ、一流の剣士であったり戦闘職である彼らにとっては、ちょっとした感覚のズレやバランスの欠如が、命取りになるのだろう。私たちは、風のダンジョンで最終調整を行うことにした。彼らはどちらかというとみんなソロプレイヤーだけど、ボス戦は連携が重要だ。魔王のステータスは分かっているので、みんなでバフデバフを手分けして大技を繰り出せば、数手で倒す程度の組み立ては出来ている。トルネードドラゴンでは、仮想的としては弱すぎるが、落ち着いて練習を繰り返すという意味では、うってつけだ。もちろん私もついて行く予定だが、彼らの雪辱は彼らだけで晴らす方が良いだろう。私とヴィンちゃんは、彼らの後ろで
更に、
やがて風のダンジョンで周回を繰り返していると、無事風の腕輪もゲットした。これでキールも腕輪持ちだ。私たちの
冬至まで、あと五日に迫った。彼らの遡行地点は旧王都の神殿近く、遡行時点は、ゲーム開始時、ラスボス戦の三年前に決めた。開始直後の伏線に、どうしても踏まないといけないものがあるからだ。三年の攻略期間はちょっと長いけど、これまでの無印や
「さあ、いよいよもうすぐだね!」
いつメンにも、錬金やら何やかんや手伝ってもらって、なんだか学園祭のような盛り上がりである。出来ることは全部やった。魔王なんぞ、指先一つでダウンだ。まだゲームの中でしかお会いしたことはありませんが。
「その事なんだけどよ、お嬢」
改まって、四人組から話がある、って呼び出されたんだけど。
「アリスちゃん。僕らね、僕らだけで行こうって、決めたんだ」
え…
「私とヴィンちゃんは、みんなの邪魔したりしないよ?」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。そういうことではありませんのですじゃ」
自分たちだけで雪辱を果たしたいとか、そういうことではなく。彼らは、時間遡行した後、無事にこの世界線に帰って来れるか、そこを懸念していた。確かに、現在は200年前に前王朝が滅んだ世界で、200年前に魔王を倒してしまった世界線のその後とは違う。そんな世界に、私もさることながら、界渡りのスキルを持つ裕貴くんを連れ出すわけにはいかない。そして、裕貴くんには一方通行であちら側に送ってもらうだけにすると、彼らは帰って来る手段を持たない。
「そんな…」
「これは、みんなで決めたことなんだ。悪ぃな、お嬢」
彼はニッと笑って、私の頭をくしゃくしゃにした。
「フェリーチャ、あなたは残っても良いのですよ」
アンナさんは困ったような顔をしているが、
「姉上、今更だぜ。ここまで来て、俺が引き下がれるかよ」
フェリックス
「アリスちゃん。僕、本当に君に感謝してるんだ。君がいなければ、殿下を護る力を身につけることも、雪辱を果たす機会も、得られなかった」
デイヴィッド様が、これまで見たことのない、優しい目をしている。そんな、彼とは良い友達になれそうだったのに。
「てか別に、私この世界に帰れなくていいし!」
そりゃ、ブリジットも裕貴くんも閣下もエリオット
あれ?もっと、何だ?
「アリス。時間は、
ムキになって彼らに詰め寄ろうとした私を、ヴィンちゃんが背後から制した。
こうして、私は憧れの200年前の世界に旅立つことは、できなかった。
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