第87話 時を駆けよう大作戦

 翌朝一番、私たちはみんなでデイモン閣下の執務室に押しかけ、事のあらましをいつメンいつものメンバーに説明した。彼らは、惜しみない協力を約束してくれた。みんな気のいいヤツらだ。そうと決まれば、早速200年前の「ラブきゅん学園ファイブ♡始まりの魔王討伐大作戦♡」攻略プロジェクト、スタートだ。


 まあプロジェクトも何も、やることは前回やった魔王討伐と同じ。界渡りのその日まで、取れるアイテムとスキルはガンガン取って、後はひたすらパワーレベリングである。そしてその間、隙間時間に攻略情報をノートにまとめる。攻略対象全員分はキツいが、キールルートとダヴィードルートだけなら、何とかなるだろう。




 まずは、裕貴セシリーくんに王立図書館の禁書を閲覧してもらって、界渡りのスキルを覚えてもらう。これは時間と空間を超えるスキルなので、覚えたら結構胸熱だ。彼も「ちょ…これ転移魔法の上位互換じゃないっスか!」とやる気満々だ。実に羨ましい。で、どうやって閲覧するかだが、こちらにはエリオットうじ、フェリックス氏、アンナさんの3枚の闇がある。エリオット氏がしれっと精神操作しながら、堂々と禁書庫までのモブを全て黙らせ、チャチャッと解錠。


「俺より全然上手いんじゃねぇか…」


 フェリックス氏がおののいている。エリオット氏がその気になれば、大抵の犯罪は簡単に実行できるだろう。コイツこそが真の魔王なんじゃないか。


 禁書庫のどこにその本があるか、どんな本か、私はもう知っている。棚の上の方の、鎖に繋がれたヤツ。裕貴セシリーくんは、パラパラっと目を通して、「りょ」と一言。難しい言葉が延々と書かれている禁書、これは一定以上のINT(かしこさ)がないと解読できないようになっている。私も一応、その解読に必要なINTは満たしているはずなのだが、横から見ても、何のこっちゃサッパリ分からなかった。彼によると、要は「生地のねじり方を変えると、違う形のパンが焼ける」ようなモンらしい。光の魔力を、こう、時空を曲げるように使うと、時空が曲がるってことだそうだ。意味分かんねぇ。簡単そうに言うんじゃねぇぞ、この上級国民め。


 なお、一度場所を覚えたら、後はフェリックス氏やアンナさんのドラッヘが、影から何度でも忍び込み放題らしい。コイツら…いや、この双子姫も、色々チートだ。


 遠距離かつ遠い過去への大規模な界渡りのチャンスは、年に4回。春分、夏至、秋分、冬至。そのうち、過去に行くのに最も適した日は、冬至だ。9月に皇国に赴き、10月に帰って来た私たち。準備はあと2ヶ月である。




 魔王を一番スムーズに倒すためには、光属性のヒロインが聖女の装備を着込み、パートナーに勇者装備を与え、必要ならその他モブを引き連れて決戦に臨むのが望ましい。だが今回は、双子姫は闇属性に反転させられている。界を渡って過去に戻った時、彼女らもまた光属性に戻るのか、それとも闇属性のままなのかは分からない。ならば、どちらの装備も揃えておかねばなるまい。更に、もし有効打になるなら、他のシリーズの武器も用意しておいた方がいいだろう。私たちは早速、皇国のあの中心制御室に向かった。


 裕貴くんに教えてもらった通りに端末を操作して、私たちは例の魔導兵器に挑む。今回は遊びじゃない。私、フェリックス氏、デイヴィッド様、アンナさん、カイル爺ことキール、そしてヴィンちゃんで。とにかくパパっと高速周回して、アンナさんとキールの武器を取らないといけない。


 そういえば、他の竜と違って、ヴィンちゃんはまだ実戦投入したことがない。彼はどんな戦い方をするのだろうか。場合によっては、彼にも武器を用意した方がいいだろう。


 というわけで、今回は初手をヴィンちゃんに任せることにした。


 けたたましいサイレンの中、ヴィンちゃんはいつもの眠たそうな顔で、しれっと立ち尽くしている。そしてサイレンが鳴り止み、大型魔導兵器が起動したその時。


「ふん」


 彼は、左手で拳を作り、右の手のひらと合わせた。


 すると、その動きに合わせて、魔導兵器たちは横からクシャリと折れ曲がり、ペタンと圧縮されて、消滅した。


「これでいいのか」




 あ…ありのまま、今起こったことを話すぜ!(以下略)


 私を含め、他の一同は、呆然と立ち尽くしていた。あの例の血沸き肉躍る、トキメキのボス戦が、一瞬で色褪せてしまった。私たちがこれまで、必死に上げてきたレベル、磨いて来たスキルは、何の意味もなかった。


 いや、まだだ。まだ終わらんよ。ヴィンちゃんの攻撃が、魔王に効くかどうかは分からない(震え声)。私たちは私たちで、ヴィンちゃん無しで勝利を掴めるように、強きを目指すのだ…(涙声)!


 せっかく魔導兵器を瞬殺したのに、アリスを含め誰も嬉しそうじゃないことに、ヴィンちゃんは「解せぬ」とひとちた。

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