第86話 答え合わせ(3)

「アリス様、何をおっしゃって…」


 アンナさんが驚いている。


「せっかくこうしてさ、200年後にみんなで集まって、魔王倒そうってやって来たわけじゃない?だけどさ、私みたいなのがポッと湧いてきて、魔王倒しちゃって、申し訳ないっていうか…」


 みんなを見回しながら、言う。特に彼に。


「今度こそ、フェリチャーナ姫のこと、護り切りたいんでしょ。デイヴィッド様」


「!!」


 彼の目に、力が宿る。そうだ。負けず嫌いの彼が、一度敗れたまま、それで良いわけがない。


 解散しようとした会議は、少し延びた。




 それからは、私の記憶と彼らの記憶のすり合わせだ。200年前に彼らが辿ってきた魔王討伐攻略ルートは、大体合っている。だがしかし、


「宝物庫にあった宝錫ほうしゃくは、手に入れていない、と」


 細かいところで、必要アイテムを見落としている。ゲーマーからすると、「そこヒントあったのに」というところでもあるが、現実世界では見過ごしてしまっても仕方のないところだ。しかも、このゲームは攻略対象によって、城内に潜む裏切り者まで変わる。見たところ、彼女はエルフの大使キールとも、近衛騎士のダヴィードとも、そこそこ親密だったようだ。彼女らの目がオッドアイなのは、王もしくは王妃が既に魔王の手先なせいなのだが、キールルートとダヴィードルートでは、手先である人物が王か王妃か変わる。宝錫を手に入れるためには、彼らの目を掻い潜って、引き出しの底に隠された鍵を手に入れなければならないのだが、引き出しから鍵を手に入れるチャンスには、必ずどちらかが居室にいるという設定だ。敵じゃない方が部屋にいる時に、鍵を取りに入らねばならない。


「そんな…父上と、母上が」


「で、その小さい鍵を使って、宝物庫の中の向日葵の絵の裏にある鍵穴に」


「待ってアリスちゃん。そんなの普通分かんなくない?」


 うん、分かんないと思う。5ファイブはボリュームのあるストーリー、プレイヤーにとってはルートごとに飽きさせない展開があって、何度周回しても面白いのだが、何度でもセーブしたところからやり直せるプレイヤーとは違い、現実世界の人間には、そんなややこしいストーリーや、至る所に散りばめられた伏線回収など、たまったものではない。


 彼らの話を総合すると、恐らく戦力面では、魔王討伐に必要十分な力を持っていたと思われる。そして、ノーヒントノーコンティニューで、かなり惜しいとこまで行った。最後の最後、聖女と勇者の装備とか、あといくつか必要なアイテムを取っていれば、完全に勝利していただろう。


「じゃがしかしアリス殿。こうして今、貴方様が知る正解を披露していただいても、我らが再び魔王に相対する機会など、既に…」


「あるよ」


 その場の全員が、息を呑んだ。




 無印「ラブきゅん学園♡愛の魔王討伐大作戦♡」。私たちは、裕貴セシリーくんの提案により、魔王が復活する1年前に、魔王再降臨の依代よりしろである界渡りの宝玉ビーコンを砕くことで、復活を阻止した。だがしかし、本来はあそこで、こちらから時空を超えて、時空の狭間で魔王を迎撃し、最後に宝玉を砕くのだ。聖女セシリーが覚える禁呪というのは、その界渡りのスキル。すなわち、時空魔法というのは、この世界では光属性に入る。


 裕貴くんに手伝ってもらえば、200年前の彼らの時代に渡ることができる可能性がある。




 みんなでその足で、デイモン様の執務室に行く。だけど裕貴くんはもう教会に出掛けていて、不在だった。改めて明日の朝、いつメンいつものメンバーに相談があるということで、集まってもらうことにする。


 改めて、私と四人。みんなまだ、私の言うことが信じられなさそうだ。顔に「心の準備が」って書いてある。だがもう、準備もへったくれもない。ここに5ファイブのメンバーが四人、揃っているのだ。今度こそ、進化に進化を重ねた神絵師のスチルと、隠しキャラの美声が聴けるかもしれない。諦めていた200年前の世界に旅立つチャンス、掴まいでか。


「お嬢…結局その、スチルとかってヤツかよ…」


 フェリックスうじが呆れている。


 美麗スチルを賭けた俺たちの戦いは、これからだ!




 魔王なんてあんなもの飾りです。お偉い方にはそれが分からんのです。

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