第84話 答え合わせ(1)
たったこれだけの状況証拠を前に、二人で唸っていても仕方ないので、とりあえず翌日、フェリックス
フェリックス氏には、「絶対部屋に男を入れるな」と釘を刺されたが、ヴィンちゃんのことについては「ぐぬぬ」って言ってた。
自分と契約した
「ヴィンちゃんは、人生の一回や二回、百年二百年くらいなら待つって言ってくれるよ?」
「…随分スケールのデカい話だな…」
「あと、赤い竜と黒い竜が、私のこと
「ぶっ」
フェリックス氏が真っ赤になって吹いた。慌てて何か言おうとして、
「…まあ、俺が
「分かったってば」
そう言って、彼は去って行った。
翌日、フェリックス氏が先代さんにアポを取ってくれだのだが、案内された先は、諜報対策の施された、例の軍議室。そしてそこにはデイヴィッド様と、奥さんのアンナさんもいた。彼は私に向けて陽気な笑顔を向けた後、
「で、カイル。父上でなく、僕に話って、何かな」
顔つきも声色も変わる。改めて彼こそが、次期辺境伯だって思い知らされる。隠密を集めてこの部屋を使うってことは、そういうことらしい。てか、先代さんって、カイルって名前だったっけ。最初会った時に鑑定したっきりだ。
「昨日のアリス様とフェリックスからの質問、それにはデイヴィッド坊っちゃまにも関わりがありましてな、これを機に話しておこうと思いましたのじゃ」
彼はフェリックス
「同じ形の痣…」
「まだ思い出さぬか、
一時停止したデイヴィッド様が、見る見る目を見開いて行く。同じ様子だったフェリックス氏が、震える声で搾り出す。
「…姉上…なのか…」
アンナさんは、いつものミステリアスな笑顔とは違い、ちょっぴり困ったような、泣きそうな顔をして、微笑んだ。
「フェリーチャ。久しいですわね」
「そんな、まさか…フェリチャーナ殿下…」
デイヴィッド様は、何かに取り憑かれたようにフラリと立ち上がる。
「ふふ、ダヴィード。私はもう殿下ではありませんよ」
彼の目からつうっと涙が伝う。そしてアンナさんの足元に
「殿下。
「もう良いのです、ダヴィード。お前はよく仕えてくれました」
ヤバい。たった数分間で、情報量が多すぎる。
改めて円卓に着き、アンナさんことフェリチャーナ殿下とカイルさんから説明をいただく。なお、デイヴィッド様は最初
彼らは200年前、一度魔王に敗れた世界線の、
アンナさんことフェリチャーナ殿下と、先代こと前王朝に駐在したエルフの大使、キール。彼は天文学に優れ、時折星読みの間に行くとアドバイスをくれるキャラであるが、同時に攻略対象の一人である。忍び寄る魔王の影にいち早く気づき、内々に調査と対処を進めていたのは、彼らの世界線では、この二人だったみたいだ。やがて近衛騎士ダヴィードを仲間に加えて魔王の討伐に挑んだわけだが、失敗。最後はフェリチャーナが、自らの命と引き換えに魔王を封印した、ということだ。だがしかし、
「我らが魔王を刺し切れなんだ場合、200年後にはまた魔王は復活する。それで我らは、200年後の今に合わせて、こうして集まりましたのじゃ」
フェリチャーナとキールは、魔王戦に先んじて、自分たちが魔王を倒し切れない可能性と、その先の未来を見据えていた。ゲームの中では、そんなシーンは無かったはずだが。魔王戦の中で倒れたダヴィード、そして魔王に捕まる前に時空を超えて逃がした妹姫のフェリーチャ、この二人が、200年後の復活の時に合わせて、また生まれて来る。その彼らを無事に保護して育てるために、キールは魔王戦から140年後に、人族として生まれ変わって来た。
「私はこれで7度目です、アリス様」
アンナさんことフェリチャーナ姫は、穏やかに笑った。200年の間、これで7回目の人生だそうだ。ちょっと待って、一回当たりの人生が、短くないか。
「ええ。最初のうちは、農村に生まれて口減しに遭ったり、騙されて奴隷にされたり致しまして…」
なんせ世間知らずでしたので、とアンナさんがちょっと照れたように笑う。いやそこ笑うところじゃないから。とにかく、前世からゲームの記憶を引き継いで転生した私と同じように、全ての記憶を保ったまま、彼女はこれで7度目の転生をして来たらしい。思ったより壮絶な話だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます