第6章 始まりの魔王討伐大作戦

第82話 始まりの魔王討伐大作戦

 皇国からの帰り、マッハ3+αヴィンちゃんで飛ぶ馬車の中で。


「これで、2ツーとやらが終わったわけですが。まさか3スリーとか、続きがあるわけじゃないですよね?」


 万年ツッコミ男、エリオットうじ


「大丈夫だよぉ、エリオット氏。ええとね、3スリーは今から5年後くらいだったはずだよ」


 3スリーこと「ラブきゅん学園3スリー♡愛の離島開発計画♡」は、西の大陸の更に南西、とある令嬢が無人島に漂着し、その島を開拓していくアドベンチャー型乙女ゲーである。


「なんか、よくあるスマホゲーみたいですね…」


「もはや『学園』とは…」


「あ、開発途中で学校は必ず建設するから…」


 島をどんどん開発して行くと、そこに漂着民などが新たに住人として加わって行く。更に文化レベルが上がると、そこに街が出来、交易が発展し、攻略対象が現れ、共に力を合わせて島を治めて行くのである。


「ええと…3スリーがあるなら、4フォーがあるとか言いませんよね?」


「よくぞ聞いてくれました!」


 アリスの勢いに、一同がる。


4フォーの主人公はね、なんとセシリーちゃんの子供たちなんだよぉ☆」


 4フォーこと「ラブきゅん学園4フォー♡愛の錬金術大作戦♡」は、無印のヒロインことセシリーの子供たちが錬金学校で錬金術を学び、その過程で出会うライバルやら教師、彼らを支援する商人などが攻略対象となる。なお、このゲームの最大の売りは、子供は男女一人ずついて、どちらを選んでもプレイが成立するところ。ギャルゲーと乙女ゲーが混然一体となり、しかも薔薇ルートや百合ルートも存在する。一つ一つのストーリーはあっさりしたものだが、その豊富なルートに結構なヒットを博した。最初は小ぢんまりとしたコンシューマーゲームだったのが、拡張パックを連発し、最終的にはソシャゲにまで発展した。課金に課金で泣かされたタイトルだ。


 話を振った裕貴くんセシリーちゃんは、顔を真っ赤にして口を抑え、エリオット氏の袖をぎゅっと引っ張っている。エリオット氏も真っ赤だ。ゲーム開始に向けて、是非励んでいただきたい。


「…あれ、でもお嬢様、そのゲームをやったことがあるっていうことは、錬金術のことも?」


「そうそう!錬金術って面白いんだよぉ。その辺に生えてる草を、こうチョチョッと組み合わせると、初級ポーションとか出来ちゃうんだよぉ☆」


 そして、たかがポーションとはいえ、市場では割と良い値段で取引される。錬金術とは、レシピさえ知っていれば、濡れ手で粟の美味しいお仕事なのだ。たとえ初級ダンジョンで産出するアイテムであっても、数と種類を揃えれば、立派な製品になる。なんせこのゲームはルートが山のように存在するのだ。育成とかそういうのに時間を掛けるのではなく、一通りキャラの育て方と稼ぎ方を覚えたら、後は片っ端から美味しいアイテムを錬金して、どんどん攻略キャラを落として行くのが、正しいお作法である。


「…アリス殿。君はブリジットを学園に入れるために、ダンジョンで荒稼ぎをしていたが、もしかしたら、錬金術の方が、稼げたのではないだろうか…」


 …はっ!その発想はなかった…ッ!




 しばらく立ち直れなかった私が再起動した時には、既にダッシュウッド領は目前だった。


「…で?4フォーがあったんだから、5ファイブもあったなんて、言わねぇだろうな?」


 先刻休憩がてら運転を交代し、車内に戻って来たフェリックスうじ


「ああ…5ファイブはねぇ…200年前の話だから、見れないんだよぉ…」


 魂が抜けたまま、生返事をする。


 5ファイブこと「ラブきゅん学園ファイブ♡始まりの魔王討伐大作戦♡」は、今から約200年前、魔王が初めてこの世界に襲来した時の物語。無印のスピンオフ作品だ。当時の旧王朝の双子の王女、フェリーチャとフェリチャーナのダブルヒロイン。攻略対象によって黒幕が変わる、ちょっとサスペンスチックな部分も含まれている。これまで5作の中で、一番話が作り込まれていると言ってもいいだろう。相変わらず絵師は神だし、声優陣も豪華だ。4フォー実入みいりが良かったものと思われる。


「魔族の皆さんが、この惑星に入植しようとして、その先遣隊の手先が城の中に入り込んでてね…」


 約2年前の、この世界のように。王女とその攻略対象は、力を合わせて黒幕を明かし、魔王を封印するんだけども、魔王は魔王で界渡りの宝玉ビーコンを神殿ごと埋めて、200年後の本格的な再入植に備えるっていう、そういうストーリー。まあ、その200年後の再入植は、こないだ私たちが防いだわけですが。えっへん。


 それにしても、神絵師が進化に進化を重ね、5ファイブのヒロインは、それはもう神がかった可愛さだった。快活な妹姫のフェリーチャ、彼女はふわふわのウェーブがかかったブロンド。物静かな姉姫のフェリチャーナ、彼女はストレートのブロンド。瞳は紫と緑のオッドアイ。フェリーチャの右目が紫、フェリチャーナは左目。二人の胸元には蝶の羽のようなあざがあり、これも左右対称。二つ組み合わせると、四つ葉のクローバーの形になるようになっている。


「フェリーチャ…蝶の羽の痣…」


 そうつぶやいて、フェリックスうじが黙り込んだ。馬車はふわりと、ダッシュウッド城に到着した。

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