第71話 風変わりな青年
寮に戻ってはみたものの、
砂漠の国の夕陽は美しい。いつも空気はカラッとしていて、砂嵐なんかも起こらない。砂漠の真ん中にあって、水は泉から
一人で飛ぶ空の上は、爽快だった。高度を上げ、皇国を後にして、上空から西の大陸を見て回る。西に進めば進むほど、明るくなっていく。地球のような大きな都市は見当たらないが、ポツポツと人の住む場所は確認できる。改めて、一年半前に魔王を倒してよかった。無印の主人公セシリーが、あのハーミット男爵令嬢と共に魔王軍に
30分ほどして、そろそろ来た道を引き返そうかという時に、上空で人影を発見した。この世界に、私や先代の爺やさんみたいに、
「人の子がこのような場所にまで、何用か」
おや。ちょっと変わった人かな。
「ちょっと散歩にね。お兄さんも?」
「我は常にこうしておる。…そなた、速いな」
「まあね!ちょっと競争する?」
伊達に
「我より速き者がおったとは…」
いやあそれほどでも☆
「じゃあ、夕飯なんで、帰るね。またね!」
ばいばーいして、屋上に降り立った。
屋上に降り立って、さあ食堂に向かおうとすると、息を切らせてフェリックス
「お嬢…!」
の”お”お”お”お”ん”!!何事?!
「一体どこ行ってたんだよ、馬鹿野郎!この国から突然気配が消えて、俺は…!」
あ、やっべ。ネックレスしたままだったわ。そりゃ心配するか。
「ごめん、ごめんって!ちょっと散歩してただけだから」
苦しい。ギブ。彼の腕にタップするが、一向に解放される気配がない。これは締め技だろうか。
「これ、その者が苦しんでおる。やめぬか」
背後から声がする。どちら様?
「お嬢。コイツ、誰」
声を聞いて視線を上げたフェリックス
「や、さっき会った知らない人」
「そんなもん連れて来んなよ!」
「知らないよ、付いて来てたなんて!」
あわあわと言い争いをしているのを、彼は不思議そうに見ている。
「そなたたち、どうしたのだ」
「どうしたもこうしたも、お前だよ!」
「あのー、どうして付いて来ちゃったのかな?ここ女子寮なんだけど☆」
彼はちょっと
「ジョシリョウ、とは何だ。我はそなたが面白いと思って、付いて来た」
あれぇ。普通に王国語
「お前…お嬢を狙ってんのか」
フェリックス氏が、剣呑な表情で、腰のナイフに手を伸ばす。
「狙う?いや、我はただ」
フェリックス氏、刺激すんなよ!ここは友好を装って。
「そういえばさ、お兄さん、何て名前?私アリス」
「我に名はない。ヒトは我のことを、ウェスタリーズ、ヴェストヴィンデなどと呼ぶ。好きに呼ぶがよい」
「西、風?」
フェリックス氏が首を傾げる。
「あー、名前いっぱいある系の人?じゃあとりあえず、ヴィンちゃんでいいかな?」
どうせ偽名だろうから、愛想笑いしながら、適当に呼んでみる。すると、ヴィンちゃんと私が、
『
脳内で
「大丈夫っスよ、セシリーちゃん。お嬢様も、心配されてるって分かってるっスよ」
「…そうなんだけど…」
「お互いごめんなさいでいいじゃないっスか。ほら、もうすぐ夕飯だし、お腹が空いたら帰ってくるって」
ブリジットと、そんなことを話していた矢先。
「ただいま〜…」
アリスが寮室に戻ってきた。ただし、見慣れぬ若者を連れて。
「どちら様?」
先ほどまで、どうやって和解を切り出そうかと思案していた
「…というわけで、えっとあの、さっき契約した
人差し指同士をつんつんと突き合わせながら、もじもじと紹介した。
「アリスさん!もうそれ、異世界で一番やっちゃいけないヤツ!!」
裕貴くんがまた怒りだした。ですよね。知らない人に、名前を付けちゃいけまテン。
「だって竜とは知らなかったんだもん!」
「アリスよ。この者は、何を怒っておるのだ」
「あー、彼女、ちょっとお母さん的な?」
「もう、夕食の時間終わっちゃいますから、食堂行きますよ」
とりあえず、ブリジットが問題を先送りして、事態の収拾を図る。
彼を連れて女子寮の食堂に行くわけには行かないので、私は体調不良ということで、二人が夕食を運んできてくれた。ヴィンちゃんは本当に竜なようで、食事は要らないという。
私は食事を摂りながら、後の二人はテーブルに着いて、ヴィンちゃんに色々質問を投げかけてみた。
「お名前は?」「ヴィンちゃん」「どちらの方?」「いつもああして漂っておる」「何をする人?」「いつもああして漂っておる、あと人ではない」「どうしてここに?」「アリスと契約を交わしたゆえ」
住所不定無職。お
このようにして、私は成り行き上、めでたく
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