第68話 それぞれの戦場
体が動かず、頭が働かない。
一階の通路の片隅で、皇族とその一行が、周囲の成り行きを見守っていた。彼らの前には、白と黒の二頭の見事な竜が立ち塞がり、
「
白い羽のエフェクトを
「っはぁ、気持ちェ…♡」
次の湧きを待っている間、背中を振り返ると、エリオットがフライシュッツで次々と敵を撃ち落としていた。あちら側には避難が遅れた生徒がいるので、無差別攻撃を行うわけにはいかない。自分が担当したら、エリオットに暴言を吐くような
それにしても、彼の狙撃の腕は感嘆に値する。以前、超級のダンジョンに挑んだ時、彼は暗黒の
エリオットの何が凄いかというと、この無数のマシン共を、すべて弱点を狙って一撃で仕留めていることだ。アリスが「マシンの弱点はレンズの上の赤い光点」と言っていたが、その小さな光点を恐るべき正確さで、素早く撃ち抜いている。
シュン、シュン、シュンシュン。
「すっげ…全部
まさしく超絶技巧。アリスが彼のことを「
しかもよく注意して見ると、彼はわざと何体か逃し、皇族の目前に迫ったところで撃墜している。そういえば、わざわざフライシュッツを使わなくても、暗黒の雷でいいはずだ。横顔がちょっとニヤッとしているので、意趣返しだろう。こういうちょっと腹黒いところも、可愛い。
さて、次のが湧きそうだ。
皇族たちは、目の前で起きていることが信じられなかった。他国の末端の卑しい貴族が、信じられないスピードで敵を狩っている。しかもこれらの敵は、学園の実習用ダンジョンで湧くものではない。軍の施設に展示してあった、上級ダンジョンのマシンの模型に酷似している。そのマシンを、男はなぜか国宝の
なぜか体が動かず、頭もよく働かず。彼らはただ茫然と、その光景を見守るしかなかった。
「うるああ!あーしの火力、舐めんなっス!」
ブリジットが
大剣一振りで二体三体と粉々にし、次の一振りで通路の残りを一掃しようとした、その瞬間。ふいに体の軸がぶれ、すぐそばで金属がぶつかる音がした。
「ブリジット、大事ないか!」
「君の後ろは私が守る。気にせず剣を振るうがいい」
デイモンは一瞬微笑むと、すぐに彼女を降ろしてマシンに向かった。彼の剣は正しく美しい。彼の兄が流麗なイタリック体だとすると、彼はゴシック体のよう。正確に、止め、跳ね、振り下ろす。今まで剣を振り回すのに夢中で気づかなかったが、周囲は彼のゴーレムで守られていた。
「デイモン様…」
はっ、いけない。ここでうっとり
「うし!あーしの底力、見せてやるっスよ!」
デイモンは、背後で覇気を取り戻した妻の声を聞き、微笑んだ。
その様子を、城砦の中に取り残された者たちは、固唾を飲んで見守っていた。何という圧倒的な戦闘力。時折マシンが砦まで突破して来るが、砦の前にはデイモンの地竜が待ち構え、尾でそれらを薙ぎ払っていた。
「そんな…まるで
先ほどの、小柄な少女がこぼしている。まだあどけない。初等部の者だろうか。肩には
「そんなことはない。確かに彼らは強いが、我らは我らの戦い方がある。君は自分の手で、君の
半ば自分に言い聞かせるように、ジュリアンはつぶやいた。彼らの強さを疑ったのは、単に自分の弱さを認めたくなかったからだ。彼らの強さは本物だった。自分には、とても太刀打ちできなかった。だがここで挫けてはいけない。もっと強くならなければ。
そんなジュリアンの横顔を、少女は何とも言えない表情で見つめていた。
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