第67話 シナリオにない緊急イベント

 ダンジョンにアラーム音が鳴り響き、照明が落ちて、非常用に切り替わる。


「ちょ、お嬢様、何なんですかこれ」


「わかんない。こんなイベント、見たことないし」


 無印に続いて、2ツーも散々周回した。見逃したイベントがあるとは思えない。だが、見たことはなくとも、良いことが起こる雰囲気ではなさそうだ。とりあえず、ダンジョンに残る生徒を脱出させた方がいいんじゃないだろうか。


 このダンジョンは、三層構造。今いるのは地下二階。通って来たところはマッピングが済んでいるので、そこに生徒がどれだけ残っているか分かる。


「裕貴くん、一階の誘導をお願いできるかな」


 同じプレイヤー組の裕貴にも、マップを見る権能がある。


「オッケー、任せて!」


「エリオットうじ魔弾の射手デア・フライシュッツね!」


しかと」


 ラグビーボールのように投げて寄越した小銃をキャッチして、裕貴くんと階段を駆け上がる。


「私、下見てくる!閣下とブリジットは、ここお願い!」


「よかろう。城砦シタデル!」


 閣下がスキルを展開。最近色々試してみて、フォート以降のスキルは、規模を自在に変えられることが分かっている。戦闘中不壊の城砦なら、ひとまず生徒の安全は確保されるだろう。


「あ、アリスちゃん、僕も行くよ!」


 デイヴィッド様が、私の後を追って駆け出した。




 道中、三階への階段までは、生徒は見当たらなかった。三階に降りると、2パーティー7名を発見。


「あ、いたいた。みんなこっちー!」


 アラームに戸惑う生徒たちに大声を張り上げ、全員に飛翔フライ加速アクセラレイトを掛ける。


「いっくよぉ!とりゃー☆」


 みんな一斉に二階へお引越し。


「「「ぎゃー!」」」


 訳も分からず吹っ飛ばされる7人。私運転下手だけど、今は非常事態なので、許してちょんまげ。途中追いかけてきてくれたデイヴィッド様を飛び越え、二階の城砦まで一っ飛びして、中に放り込んだ。すぐさま三階のデイヴィッド様のところまでトンボ返り。


「君、本っ当に速いね」


 デイヴィッド様が笑っている。並々ならぬ緊張感の漂う戦場で、逆にワクワクしているのが分かる。ああこの男、本当に私と気が合うヤツだ。


 ダンジョンが異変を起こした場合、十中八九、ボス部屋で何かが起こっている。危険が起こるとすれば、ここが一番危ないのだが、


「じゃ、行こっか」


 これから向かう先は死地かも知れないのに、彼はこないだのデートの続きでもするかのように、私の手を取った。




 一階に駆け上がった裕貴セシリーは、マップで15名の生徒を確認。


「みなさーん!すみやかに避難してくださーい!」


 大声で叫んで回る。素直に避難に応じる者もいれば、


「ッは!女如きが何用か!」


 困ったお子ちゃまも混じっている。大抵が皇族だ。エリオットが臣下の礼を取り、彼らに申し出る。


「閣下、非常事態です。どうかお戻りを」


「何だお前。俺に盾突こうと言うのか。王国の貴族風情ふぜいが、生意気な」


 おいやめろ。後ろの妻から殺気が漏れている。


「…まあそうだな。その女を寄越せば、聞いてやらんでもない」


 皇族が下卑た笑みを浮かべたその瞬間、周囲の空間で青白い光の渦が巻き起こった。1、2、3…10どころではない。


「だから言ったのにもう!なんか来ちゃったよ!エリくん」


「皆様、


 エリオットの紫色の瞳が、淡く光った。




 突如現れた岩の建造物の中で、ジュリアンははた・・と正気に戻った。助かった、命拾いした。やがて、何名かの生徒が追加で放り込まれて来たが、皆事態が飲み込めず、騒然としている。見回すと、ほとんどが少尉級ロイトナント中尉級オーバーロイトナントばかり。皆で生還するためには、俺が何とかするしかない。


「お前、怪我をしているではないか。治癒ヒール


「あ、ああ、かたじけない」


 ジュリアンは夢中で治癒を施した。中には「他国の者などに、施しは受けない!」と拒絶した身分の高そうな少女もいたが、「馬鹿者!淑女に傷跡でも残ったらどうする!」と、有無を言わせずスキルを行使した。お付きの女騎士もそうだ。大体この国の者たちは、竜に頼りすぎて装備が貧弱すぎる。「君たちは淑女だろう!もっと自分を大事にしないか!」


 中には水属性のドラッヘを従えている者もいた。そうだ。何も考えずに治療していたが、女性には女性に当たってもらうべきだったかも知れない。


「君、治癒のスキルは使えるか。女性の手当を頼みたい」


「は、はい…!」


 二階の生徒12名、三階にいた生徒7名。自分を含めて、全員の安全は、自分たち自身で守るしかない。そういえば、この建物を展開した騎士は、外にいるようだが、大丈夫だろうか。ジュリアンは、小窓から外の様子を窺った。




「…来るっスよ。装備イクウィップ!」


 ブリジットが、炎の鎧と炎の大剣を身につける。アリスにセットボーナスの重要性を繰り返し説教されるので、一応兜と弓も装備している。一方デイモンは、土の腕輪を取得していないため、風の腕輪から剣と盾のみを取り出した。鎧を着るには時間が足りない。


 周囲には、無数の敵出現演出スポーンエフェクト。他のメンバーが向かった先でも、同じことが起こっているに違いない。ここは二人で守り切るしかない。


 やがて、二人の周囲に、通路を埋め尽くすほどのマシンが現れた。

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