第64話 ショタ枠
「見つけたぞ!アリス・アクロイド!」
皇国の、市場に響く、王国語。
目を凝らすと、人混みの向こうに、蒼い髪の少年が見える。少年というか、小柄な青年というか。
ショタ枠だ。ショタ枠が来た。
彼はジュリアン・ジョイス。宮廷魔術師団長の息子、すなわちジョイス伯爵家の次男である。無印こと「ラブきゅん学園♡愛の魔王討伐大作戦♡」の攻略キャラの一人。主人公セシリーの一学年下、水属性の
それにしても、天下の往来で、人のことを指差して、大声で呼び捨てにするなど、何と躾けのなっていない
「ジョイス様、ごきげん麗しゅう」
咄嗟に猫を被り、皇国の礼儀に
「うるさい!取り繕ったって無駄だ。お前がオーネだな、この王国の恥晒しめ!」
オーネ、という言葉に周囲がザワザワする。ピキッ。コイツ、脳内
「至らぬ身ゆえ、どうぞご
優雅に
「ちょっといいかな」
デイヴィッド様が割って入る。
「何だ貴様」
「君、ジャスティンのところの弟君だよね。兄上は元気かな」
あくまでにこやかに、だが目が笑ってない時の声だ。
「なぜ兄上のことを」
「ああ、申し遅れたけど、僕はデイヴィッド・ダッシュウッド。君のお兄さんと同期だね」
ジュリアンは、今更ながらに連れの男をまじまじと見た。肩には
「そしてこちらは、アリス・アクロイド・ダッシュウッド。僕のパートナーだ。意味、分かるよね?」
ジュリアンが、言葉を失っているのが分かる。後ろからお付きの者がやってきて、「申し訳ありませんダッシュウッド様!坊っちゃまにはきつく言って聞かせますので!」と、スライディング土下座を決める。
「ふふ。君にはもうちょっとお勉強が必要だと思うよ。
お付きの爺やさんは、土下座をしたまま。ジュリアンは、「お、おい爺!」とオロオロしているのを尻目に、
「さ、行こうかアリスちゃん」
デイヴィッド様が私を立たせ、ニッコニコしながらエスコートし、そのまままっすぐホテルまで帰ってきた。彼は満面の笑顔だが、ほとんど無言だった。
「あっはっは、潰しちゃおっか、ジョイス」
デイヴィッド様が楽しそうだ。だが周りの空気は氷点下。おかしいな、彼は火属性のはずなんだが。
「兄上が…荒ぶっている…」
デイモン閣下が青い顔をしている。
「まあ待てデイヴィッド。王家は落陽ぞ。ほどなくジョイスも消え去るであろう」
グロリア様がデイヴィッド様を宥める。そもそもジョイス家に影が差したのは、今に始まったことではない。彼らは二十数年前、元王妃派に乗り換え、ハーミット家に
決定的な暗雲が立ち込めたのは、6年前。次期宮廷魔術師長と噂され、鳴り物入りで貴族学園に入学したジョイス家の長男ジャスティンを、3年間完膚なきまでに叩きのめし、ワンツーの座を
ここしばらく周辺国との争いもなく、腕を鈍らせている宮廷魔術師団とは裏腹に、常に国境に睨みを効かせ、小競り合いを繰り返しながら、決して王国の地を踏ませないダッシュウッド。
なお、グロリアはグロリアで、別の思惑がある。世が世なら、今頃彼女が率いていたであろう、筆頭侯爵ギャラガー家。それをまあ、よくも長年に渡り、コケにしてくれた。ハーミットは
ああ、無印のラブきゅん学園で、ジュリアンが次男にも関わらず、引きこもった長男に代わって宮廷魔術師を目指すのは、こういう理由があったんだ。彼は甘えた系の年下キャラ、いじらしくも重責を背負って頑張る姿が愛らしいのだが、攻略対象でも何でもない今、単なる
一方その頃。
「終わりだ…ジョイスはもう、終わりですじゃ…」
ガタガタ震えながら、ブツブツつぶやく爺やに、ジュリアンは困惑していた。彼の肩には
それよりも、あのアリス・アクロイドだ。彼女のことは、
ジュリアンはジュリアンで、アリスとデイヴィッドに対し、暗い闘志を燃やしていた。ジュリアンの戦いは、これからだ!
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