第60話 皇妃様との謁見

 遺跡を何回か周回して城に戻ると、ただちに皇妃様の部屋へ通された。中ではグロリア様と隠密ペアが待っていた。皇国側は、皇妃様と凛々しい感じの女官さん。彼女の腹心っぽい。


「このレポートの内容は、まことですの?」


 皇妃の手元には、無印のラブきゅん学園について、パーティーのみんなに説明した時と同じように、事前にまとめた2ツーのノートがあった。えっ、そんなことで呼ばれたん?


「いや、あの内容で呼び出しがかからない方がおかしいというか」


 毎度恒例、エリオットうじの小声のツッコミである。


「恐れながら皇妃様。ダッシュウッド男爵夫人の情報は、我々が想像する以上の精度です」


 デイモン閣下が答える。ダッシュウッド男爵夫人って誰だっけ。あ、私だ。


「あ、えーっと、どこか分かりにくいところ、ありましたでしょうか」


 頭をポリポリ掻きながら愛想笑いする。


「分からないところだらけです、男爵夫人」


 女官さんにぴしゃりと言われた。なぜなのか。




「そうなんですよ、その宰相さんが黒幕でね、でもその黒幕の黒幕が、あの学園長さんなんですよぉ」


 皇妃も腹心も、言葉を失っていた。目の前のこの、ほんの小娘が、何でもない様子で爆弾発言を繰り返す。


「学園長さんってほら、小さい頃熱出して倒れた時に、前文明のホムンクルスと入れ替わって。宰相さんのお子さんも今ご病気ですけど、学園長さんに治せるよって言われててぇ、でもそれって、記憶を移植したホムンクルス化なんですよねぇ…」


 一体この娘は何を言っているんだ。彼女の言葉を、騎士爵夫人セシリーが理路整然と補完する。


「人工生物、超古代文明…本当にそんなことが…」


「だってほら、さっき遺跡周回してきましたし」


 ゴトリ。どこからともなく、男爵夫人が変わった形の金属杖を取り出し、テーブルに置く。


「!これは…」


 紛れもなく、国宝として宝物庫に納められている、魔弾の射手デア・フライシュッツだった。そればかりか、ほらこれも、これも、と次々に置かれる。光の盾レフレクスィオーンも国宝であるが、後は見たことがないものばかりだ。


「やっぱ光の剣リヒトシュヴェーアトでジェイごっこだよねぇ」


 夫人が小さな筒の横にあったボタンを押すと、光る刀身が現れる。


「夫人、これは一体どこで」


「だから、あの山の近くの遺跡だって」


「そんな…ただちに調査に向かわせねば」


「あー…あそこ結構堅い要塞なんで、大将級ゲネラールを6枚フルで行かないとキツいかなって」


 なん…だと…。


 大将級の竜ゲネラールドラッヘを持つ者など、この世界に何名もいない。皇国軍の全軍から集めても3名。国内の冒険者で1名。あるいは、国外で活躍する冒険者の中で、大将級まで進化させた者がいるかどうか。


 確認のため、彼らのドラッヘの召喚を許可する。なんと、大将級が4体、中将級ゲネラールロイトナントが1体。旧友のグロリアと、腹心の2名も、中将級を従えていた。彼らは一体…


 そんな中、例の男爵夫人が、うつむき加減であらぬ方向を向いている。


「して、そなたのドラッヘは」


 皇妃の問いに、グロリアが答える。


「その者には、竜の加護は降りなんだ」


 応接室に、何とも言えない沈黙が漂った。




「ううっ、いいじゃん…竜なんていなくてもさぁ…」


 アリスがボソボソといじけている。


「まあまあ、お嬢様。光の剣リヒトシュヴェーアト集めて、ジェイごっこするんでしょ、ほら」


「違うんだよぉ、光の剣はファションアイテムなんだよぉ。レアドロレアドロップのクラウ・ソラスが出るまで帰れまテン」


 そのファッションアイテムが、国宝に未収蔵の国宝級アイテムなわけであるが。の攻撃力では、各属性剣を上回るが、属性ボーナスが加算されると、自属性の装備の方が優れている。ちなみに光の剣とクラウ・ソラスは光属性であるが、光の剣は光のダンジョンシリーズのように、属性ボーナスやセットボーナスは付かない。無印の装備と2ツーの装備は、互換性が乏しいようだ。


「とりあえず、光の剣を18本集めて、9人で二刀流ジェイごっこするでしょ?クラウ・ソラスはコレクターズアイテムだよ!」


「あ、俺、ジェイごっこはいいんで…」


 裕貴くんが控えめに挙手。


「私も、剣よりもフライシュッツがいいです」


「いやぁんエリ君かっこいい〜♡」


 はい、2名脱落。


「槍は出ぬのか」


「レアドロでゲイボルグが落ちますよ!」


 ハズレは光の槍リヒトシュペーアである。


「私は短剣の方が…」


 そういえば、アンナさんは暗器や飛び道具が得意だったな。


「道中の小部屋に、消耗品のナイフメッサーがいっぱい落ちてるんで、取りながら周りましょうか」


 応接室を出て、一行がワイワイと客室へ向かう。応接室に残された皇妃と腹心は、小一時間で三年分くらい老けた気分を味わっていた。


 コイツら一体なんなん。


 グロリア、あんた結婚してからどないなっとん。


 てか、学園長が黒幕の学園に、アンタらホンマに明日から入学するん。


 そして、夫たる皇帝や首脳陣に、一体どっから話したらエエねん。


 彼女らの戦いは、始まったばかりであった。

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