第59話 隠しダンジョン

 その後、何とも言えない雰囲気のまま、みんなでダンジョンへ探索に出かけた。例の如く、初級はすっ飛ばして、中級も上級もすっ飛ばして、やり込みプレイヤー用の隠しダンジョンからだ。なお、無印と同じく、パーティーは6名までなので、グロリア様と隠密二人は別行動。宮殿に戻って、皇妃様に今回の遊学の要件を詳しく伝えてもらう。書状ではどうしても第三者の目が入るから、事前に伝えるわけには行かなかった。


 皇都近くの大きな岩山。ここから皇都が一望できるということで、観光客に人気のスポットだ。だが一行が訪れたのは、観光のためではない。この山のふもとに皇族の霊廟があるのだが、岩壁の一部が隠し扉になっていて、中は超古代文明の遺跡の一部へ繋がっている。ここに国がおこり、都が置かれたのには訳がある。この古代文明の遺構が、人が住みやすい気候を生み出しているからだ。今ではそれを知るものはいない。


 遺跡の中は、ピラミッドのようでいて、近未来のデザイン。侵入者をはばむロボット兵器が、各所に配置されている。コイツらの攻撃が正確無比で厄介なのだが、要は彼らが侵入者を感知し、迎撃ムーブに入る前に撃ち落とせばいいだけだ。例の中級ダンジョンの、ケイブバットを倒すのと同じ要領である。弓術きゅうじゅつを取っておいてよかった。なお、直線的な動きは逆に兵器に狙われやすいため、今回は飛翔フライは封印である。




 ここを攻略するには、自分のレベルを上げ、竜を進化させて、竜を使うのがセオリーだ。なぜ皆が皇国を目指し、竜をパートナーに得ようとするか。それは、竜が成長し、使役者の意図を理解できるようになると、主人の魔力を使って、あらゆるスキルを使用できるからだ。


 普通、この世界の住民は、自分の生まれ持った属性と、その適性に沿って成長する。そして覚えたスキルを十全に使いこなそうと思うと、相当な経験を要する。例えば私のような風属性が、ウィンドカッターのスキルをレベルマックスにして、風嵐トルネードを覚えるためには、55レベル分のスキルポイントをウィンドカッターに全振りしなければならない。だが、他に空歩エアーウォークのスキルを持っている場合、スキルポイントは均等に振り分けられ、ウィンドカッターがスキルマスキルレベルマックスになるのは、レベル110近くになる。飛翔フライ加速アクセラレイトなど、他のスキルも持っていると、それはもっと後になる。この世界の若手の騎士がレベル30、わずか一握りのA級冒険者であっても、レベル80程度。割と途方もないことなのである。しかも、生まれつきの成長適性がAGIすばやさ極降りだと、INTかしこさの数値は1レベルにつき1ポイントしか伸びない。よしんば風嵐を覚えたとて、何度も発動できないのだ。


 ところが、ここにドラッヘが媒介することで、話が変わってくる。竜は主人の魔力や、他の能力値を取り込み、最適化を行なった上、相応の能力を発揮する。例えば先ほどの風のAGI極アジきょくが風嵐の行使を望んだ場合、当人がまだ風嵐を習得できていなくても、竜は主人の魔力相応の、出力を抑えた風嵐を起こすことができる。しかも素早さの値も参照するので、発動までの間が短く、ヒット数も上がる。通常、AGI極には魔法スキルは全く期待できないのだが、竜をパートナーにすることで、活躍の場が大いに広がる。不遇キャラにはこれ以上ない救済策なのだ。使い勝手の悪いNPCが不評だった無印と違い、2ツーの戦闘システムが大幅に改善されたのは、そこである。




 とはいえ、無印で鍛えに鍛え、レベルが400を超えた私には、今更竜などどうでも良かった。狩られる前に狩る。戦闘とは、実にシンプルなものである。普段は一番おしゃべりな私が、迷路のような遺構をサクサクと進み、無言でマシンどもを狩って行く。


 そのうち、最初は機嫌の悪い私をおもんぱかっておずおずとついてきたメンバーも、少しずつ戦闘に参加するようになった。みんな思い思いに、自分のスキルを使って、竜とともに攻撃を加える。特にDEXきようさモンスターのエリオットうじが、無類の狙撃手スナイパーぶりを発揮した。コイツだけは敵に回してはならない。


 途中、小部屋を探索すれば、高性能なポーションや便利な消耗品なども落ちているのだが、それらは全部すっ飛ばして、ボス部屋に到着。中にはマシンドラゴンが鎮座している。火のAGI極、デイヴィッドが真っ先に躍り出て、二刀流で舞い踊るようにドラゴンを切り刻んだ。つぎのまい、目前で見ると、息を呑むほど美しい。危うく惚れてしまいそうになった。背後から彼のワイバーンがブレスで援護するが、ほとんど必要なかったようだ。マシンドラゴンは消滅し、後には、近未来的な銃が残された。


 後でブリジットが、炎の大剣から片手剣の二刀流にしようか、本気で悩んでいた。

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