第5章 愛の龍王討伐(?)大作戦

第57話 イケオジを求めて皇国へ

 皇国まで、書簡を送って返ってくるのに2ヶ月半かかった。大体輸送に片道1ヶ月、皇国の中での対応に2週間。皇妃と親交のあるダッシュウッド家からの知らせということで、おそらく最優先で対応されたと見られる。遊学の受け入れを確約した上で2週間など、異例中の異例だ。グロリア様様々さまさまである。


 この世界には、正確な地図は存在しない。地図自体が軍事機密だからだ。なんとなく、こっちの方向に、こんな感じの国や地域がある、みたいな。だから、皇国の正確な位置も距離も、おおよそでしか分からない。大貴族の火急の書状の運搬に、海路も込みで一日200キロくらい運ばれるとして、距離にして6,000キロくらいじゃないか、というのがみんなの見立てである。皇国は遠い西の砂漠の国、張り切ってレッツラゴー。


 方向も分からないのに直線で飛ぶわけには行かないから、まずは手紙の運搬経路通りに進む。デイモン閣下のゴーレム馬車、ちょっと大きめバージョンに乗り込み、飛翔フライを掛け、時折加速アクセラレイトしながら、港、列島、街道、主要都市を辿る。加速使用時の速度は、およそマッハ3くらい。マッハ1とは時速1,224キロらしいから、1時間で3,672キロ程度進めることになる。実際は、加速は発動時間10分、クールタイムが10分発生するため、加速を目一杯使って、1時間に2,000キロほどの移動だ。結果、ランチや休憩を挟んで、およそ5時間で皇国に到着。朝出て昼過ぎに到着である。


 なお、裕貴セシリーくんがマップ画面から確認して計算したところでは、直線距離にして5,000キロくらい。ちょうど東京からネパールの距離らしい。まっすぐ帰れば、帰りは3時間くらいで帰れるだろう。


 懸念していたフェリックスうじの高所恐怖症は、御者席でアンナさんと交代で操縦し、比較的低空を飛ぶことで、大幅に緩和された。隠密ペアの運転は、加速や減速、上昇や下降もスムーズで、誰も気分が悪くなることはなかった。




 今回ゴーレム馬車を選んだのは、向こうで無駄な荷物を減らすためだ。馬車の車両を使っても良かったのだが、あっちに着いたら着いたで馬を借りないといけないし、滞在中はどっかに置かせてもらわないといけない。閣下のゴーレムスキル、マジ優秀である。今回は皇都近くの町外れに着陸し、事前に手配しておいた竜車という大型の爬虫類が牽引する乗り物に乗り、そのまま皇城まで案内された。


「遠路はるばる、ようこそ皇国へ。グロリア、久しぶりですわね」


 通された広間で、皇妃自ら出迎えを受けた。流暢な王国語である。対して、グロリア様が


「久しぶりじゃ、アグネス。しばらく世話になるぞ」


 と、これまた流暢な皇国語で返答する。さすが一流貴族は違う。


 事前にうっすら期待していた通り、私と裕貴セシリーくんには、異世界言語理解のオプションが働いているようだ。もっとも、裕貴セシリーくんは事前に皇国語を勉強し、「これドイツ語っスね」と言っていた。確かに、2ツーの登場人物はみんな、ドイツ語風な名前だった気がする。てか、理系が二外だいにがいこくごペラペラっておかしいだろう。ちなみに他の6人も、皇国語程度は難なく使えるっぽい。このスーパーサヤ人どもめ。


 ともかく、今日はこのまま皇城で宿泊。数日の準備ののち、来週からは早速皇国の学園に潜入である。イケオジが私を呼んでいる!

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