第51話 46話閑話・式の夜
※46話、結婚式後の小話になります。
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式の夜。
ダッシュウッド城の一角、通称離れと呼ばれている、小ぶりな別館の主寝室。ダッシュウッド子爵ことデイモンが、右往左往しながら悶々としていた。
「お疲れ様、というべきか、綺麗だ、というべきか…それでは少し下心が」
彼はもうずっと長い間、初夜について妄想していた。そう、
まあ、それはそれで結果オーライだ。急遽白馬で連れ立って、丘の上の大木の下でプロポーズを行い、改めて了承を取り付けた。しかしこう、なんというか、次善策というかセリフのストックというか、想定していたシチュエーションやパターンを、全て失ってしまった。
デイモンは、徐々に行きたかったのだ。自分の思いを匂わせつつ、外堀を固めてから自分の良さをアピールし、じっくりと。なぜなら、如何に優秀な辺境伯家の子息といえど、女性とお付き合いしたことのない、DTであることには変わりないのだから。
普通の貴族家では、
その、彼が尊敬してやまない父であるが、唯一どうしても理解できないのが、母との関係だ。兄に言わせれば、「あれはあれで仲が良い」とのことであるが、絶対に父と同じ
できないならば、時間をかけて準備するしかない。「君の全てを」いやちがう。「これから私たちは」これもちがう。人生において、初夜は一度きり。ここでしくじっては
「デイモン様?」
「のわっ!」
至近距離からブリジットがデイモンの顔を覗き込んでいた。
「い、いや、ブリジット。今日の君はその、とても綺麗で」
「それは何度も聞きました」
ブリジットは苦笑している。実際、今日の彼女は世界中のどの
「き、今日は疲れたろう。もう休んでは」
全く気の利いた言葉が出てこない。焦って変なことを口走らないか、それだけが気になって
「それなんですが…実はお嬢様が」
ここへ来て、なんと元主人のアリス嬢が、「ブリジッドをを」と泣き崩れ、今も手がつけられない状態なのだとか。昼間からずっと号泣しっぱなしだが、どこにそんな水分があるのか。
「そういうことなので、客間で休んでいいですか?」
「あ、ああ、いいとも。おやすみ」
では、と一言残して、ブリジットは去っていった。
新婚初夜、広い寝室に一人。こんなはずでは。
そうだ。間もなく皇国に使節として赴くことになっているし、そこでその、ブリジットの身がアレならば、色々差し障るに違いない。うむ。しかも、皇国が新婚旅行になるという意味では、逆にこれがチャンスなのではないか。うむ。
デイモンは、明日早速皇国のデートスポットをまとめるよう、諜報部に指示しようと決めた。
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式の夜。
「はー、終わったねぇ☆」
「そうですね、ようやくです」
二人してベッドに腰掛け、一息つく。
ここはダッシュウッド城の宿舎棟、家族用の一室。これまでは個人用の部屋を宛てられていたが、今日からはしばらくここが彼らの住まいとなる。本当は、城下に手頃な家を借りるつもりだったのだが、彼らもダッシュウッド家の要人であるため、それなりの場所と邸宅にすべきだと言われ、今のところ計画は白紙になっている。間もなく皇国に使節として赴く予定であるし、帰国してから改めて検討することになるだろう。
「今日…そのさ。あれで良かったの?」
「ええ。両親のことは、これまで何度も悩みましたけど、これで良かったと思っています」
そう言いながら、エリオットはどこか切なそうに瞳を伏せている。彼のこういう
「もう、今日から俺がエリオットの家族だかんな!」
ベッドに膝立ちになり、強引にエリオットを抱きすくめる。いつもなら真っ赤になって大慌てで逃れようとするエリオットが、そっと背中に腕を回し、胸に顔を
「ユウキ…」
プチッ。脳の中で、何かが弾けて切れる音がした。アカン、もう辛抱たまらん。
ドサ。
「ちょっ、ユウキ?」
ブチ、ブチ。血走った目をした裕貴が、乱暴にエリオットのシャツのボタンを外していく。
「…初夜に何するかくらい、お前だって知ってっだろ。俺がどんだけ我慢してきたと思ってんだよ。今夜こそ逃がさねぇぞ」
これが美少女から発せられるセリフでなければ、事件である。いや、美少女から発せられるからこそ、事件であった。なお、彼らの間では、恒例行事とも言う。
「ダメ、ダメですユウキ!」
「何がダメなんだよ、今日から俺たちは夫婦なんだからな。もう待たねぇ」
「もうすぐ皇国に赴くでしょう!その時に、ユウキの体に差し障りでもあったら」
確かにそうだ。遠い皇国まで移動するのもそうだし、出先で何かあっては色々困る。何せあちらで体調でも崩し、そこで子供が出生でもしようものなら、皇国が国籍を主張し、難癖つけて出しゃばってくる可能性もあるのだ。
「…チッ」
まるでならず者が
「もう…エリくんがそういうなら、特別だぞッ?☆その代わり…」
翌朝、エリオットは枯れ木のようになって出勤してきた。周りは「相当激しかったんだろうな」と生温かい目で見守っていたが、後から鼻歌を歌いながら出仕してきたセシリーが抱いている、分厚いクロッキー帳を見て、全てを察した。
中には、ウエディングドレスならぬ光のドレスをまとった美少女の、悩ましい姿が描かれていたという。
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