閑話集
第49話 閑話・新年節の祝日
ダダダダダダダ、バタン。
ダッシュウッド城の一角、使用人などが暮らす宿舎棟で、廊下を慌ただしく走る音が聞こえる。緊急時には致し方ないとして、貴族の館で響いて良い音ではない。その騒音を立てた人物もまた、普段そのような粗相を犯すような者ではないのだが
「助けてください!」
そのまま政務棟を駆け抜け、執務室まで転がり込む。着衣は著しく乱れ、シャツのボタンは無惨に引きちぎられていた。これが女性ならば、すわ乱暴かと肝を冷やすところである。
「エリオット、一体どうしたのだ」
部屋の
「エリくん?ここにいるのね?」
「ヒッ…!」
かすかに金属音がしたかと思うと、内鍵はクルリと回転し、補助錠もそれに続いた。まるで一度解いたことのある知恵の輪のようだ。細い腕のどこにそんな
「も〜、デイモン様のお部屋でかくれんぼしちゃダメだぞッ☆」
満面の笑みで近づいてくる、絶世の美少女。その手には、見慣れぬ物体があった。
今日は新年節の祝日。政務棟は一部の常駐部門を残してほぼ無人である。休日ゆえ、本来ならば部屋の
部屋の隅で、エリオットが体育座りで震えている。そこに上着を掛けてやる
「セシリー嬢。その、いつもの
「えー、だって閣下、今年はウサギ年ですよ?」
そう、
「ウサギ年とは何なのだ」
「裕貴くん、器用だよねぇ。ちゃんと襟とカフスも作ってある」
「徹夜で作らされた姉貴のコスプレ衣装…あの時の苦労は、この時のためにあったんス…」
どこか遠くを見ながらつぶやいている。
「でもエリオット
「だからパニエスカートまで用意したのに」
「配慮の方向が違うっスよ…」
ブリジットがお茶をすすりながらツッコむ。
コンコンコン、ガチャ
「おお、揃っておったか。皆に新年の
グロリア様が晴れやかな笑顔で執務室を訪ねて来られた。彼女は実家や王都などを飛び回っているため、領都を空けることが多いが、滞在する間はいつも執務室に遊びに来る。そのまま応接セットに収まり、事のあらましを聞いて、「なるほどのう」と。
「セシリーよ。こういうことは、双方の合意が必要じゃ。相手があのように嫌がっていることを、無理強いしてはならぬぞえ」
「はい…グロリア様」
さすがのセシリーも、シュンとしている。
「そしてエリオットよ。お主が忌避感を感じるものは仕方ないが、何もそれを着て往来に出よということではなかろう?二人で密やかな秘め事を共有するのも、夫婦関係を深めるコツじゃ」
グロリア様がいたずらっぽくウィンクを送る。彼女が言うと、秘め事という単語が更に
「さあ、その様子では差し支えるであろう。部屋に戻って身支度を整えてまいれ。デイモン」
「心得ました、母上」
デイモンに付き添われて、エリオットは一旦自室へ戻って行った。
「セシリーよ、こういうものは、段階を踏むのが大事なのじゃ」
「グロリア様…!」
「よいか、まずはカチューシャ。そして誰も見ていないからと、下着から替えさせる。少しずつ、少しずつじゃ」
「分かってらっしゃる…!」
アリスが目を輝かせている。
「なぁに、時間はたっぷりあるのじゃ。従順に躾けて行く過程もまた、オツなものよ」
そうして艶やかな唇に、舌をチラリと這わせる。ぞっとするほどの妖艶さであった。辺境伯もそうやって従順に躾けられたのだ。この人が義母になるのだということに、ブリジットは目眩を覚えた。
「して、その衣装じゃが」
※昨年の新年向け小話です。今年向けに書き直そうかと思いましたが、ドラゴンはバニーには勝てなかった。ご笑納ください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます