第41話 もう一つの青春
辺境伯の首脳陣たちを一通り土の超級ダンジョンにお連れしたあと。元のパーティーメンバー4人は、色々忙しそうにしている。
「式で手作りのドラジェ配ろっかって相談したらぁ、ダァがぁ」
裕貴くん、お花畑が東京ドーム25個分くらいに拡張している。ダァ言うなダァ。
「いやーこれ、癖になるんっスよね…♡こっち来てやっと、ギャルの気持ちが分かるっス♡」
彼氏持ちマウント半端ない。当のダァは真っ赤になって
「ユウキ、ダァはちょっと…」
と控えめに抗議しているが、
「やだぁだってエリくんはぁたしの素敵なダァだよぉ?」
ふわふわ○っぱいを押し付けて黙らせる。恐ろしい
「暇が嫌なら、書類仕事とか手伝ったり、縁談を進めたりしたらどうっスか?」
ブリジットがジト目で提案してくる。コイツは早速デイモン閣下の秘書2号のようにくるくると働いている。もうすぐ夫人に収まるんだから、のんびりしてればいいのに、根が働き者というか、止まると
「縁談って言われましても、フェリックス
「アリスさん、前世はやっぱOLだったんスかね。営業とか?会計とか?」
「うっ…謎の頭痛が…」
「その割には、書類仕事任せたら速いんスよねぇ…」
そうなのだ。結局、学園時代のサロンのように、デイモン閣下の執務室に集まることが多いのだが、雑談のついでに、お茶のついでに、何だかんだと仕事を手伝わされる。こんなことではいけない。バカップル2組にマウントを取られ、おめおめと社畜をやっている場合ではないのだ。
「エリオットはともかく、バカップルは心外な」
デイモン閣下が迷惑そうに反論する。
「だぁってさぁ、閣下も最初からブリジット狙いだったんでしょお?それなのに毎回『次回の迷宮攻略が』とか『ダッシュウッド領に帰ってからの』とか要らん理由ブッこいて対策会議なんて装っちゃってさぁ。それ、ブリジットに全然通じてませんから」
「何っ?!」
「策士策に溺れるってやつ?ブリジット、スレたフリして恋に夢みる乙女なんで、ちゃんと口説いてあげなきゃダメだよ?」
「そんな…バカな…」
「ちょ、お嬢様、何言っちゃってんスか!」
「ブリジット、あんた『貴族の女は所詮政略結婚』とか言ってるけど、昔から枕元にこっそり恋愛小説隠してんの知ってるから。あと、閣下があんたにぞっこんなの、周りからはバレバレだから」
エリオット
「デイモン様がいろいろ理屈をつけて回りくどいことを言い始めたら、大体言い訳ですから」
「男は言葉より行動っス。土の剣があれば別にファイアエンチャントなんて要らないのに、わざわざ掛けてもらいにあんなに近づいて、涙ぐましいっス」
「きっ貴様ら、いつから」
誰に対しても礼儀を重んじる閣下が「貴様」呼ばわりする。
「最初からっスよ」
「ええ、最初の最初からです」
「閣下分かり易すぎだよぉ」
対するブリジットは口を押さえて真っ赤になって、そっぽを向いている。そう、何だかんだ言ってコイツが一番乙女なのだ。
「…なんだか俺ら、お邪魔虫みたいっスね?」
「デイモン様、私共はこれから倉庫に在庫を確認に行って参ります」
さりげなくエリオット
というわけなので、今回はお庭番の爺やさんとペアで水のダンジョンまで周回アタックに来ました。
「アイツら酷いでしょお。私だけボッチなんだよぉ」
「やれやれ、フェリックスも修行が足りんのう」
ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。
同じ風属性なせいか、爺やさんとはすごく気が合う。いや、年の功で話を合わせるのが上手いんだろうが、こう、スッと人の懐に入り込んで、探りを入れるのに長けているというか。この辺が情報収集のプロフェッショナル、隠密のレジェンドたる
二人なので、馬車を使って移動なんてまどろっこしいことはやめて、
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、これは愉快でございますなぁ」
爺やさんは弓術にも長けていて、かなりの遠距離からウォーターフォール・サーペントたちを次々と狩っていく。さすがの
「して、アリス殿。あなたはどうして、我らにこのような力をお授けくださるのか?」
滝のほとりで休憩時間、ふと爺やさんが、真面目な表情で切り出した。
「どうして、って言われましても…暇だから?」
「暇…」
だってそれ以外に答えなんてないじゃないか。もう爺やさんも知ってるみたいだから簡単に説明すると、私はこの世界を何度も遊んだことがあり、キャラの強化法方も運用方法もあらかた熟知している。魔王も倒しちゃったし恋愛パートもいつの間にか終わっちゃったし、次の作品まで時間があるし、やることと言えば周回やり込み要素くらいしか
「そういうことではありませんのですじゃ…」
爺やさんによると、私のやってる周回なんて、恐らくこの世界のどこを探しても見つからない。1日で一生涯でも貯めることのできない経験を積み、ものの数日で一握りの人間しか到達することのできないA級冒険者のような強さを得てしまう。デイモン坊ちゃんは一瞬で立派な砦をお建てになり、ご学友の皆様も然り。グロリア奥様まで、世界に何人も使えない超上級浄化スキルを披露なさった。これは只事ではないのですぞ…だそうで。
うーん、そうは言っても、最初は魔王倒すのでいっぱいいっぱいだったし、暇になってみれば、この世で一番の娯楽はレベル上げとキャラ育成くらのもんだし。
ほら、ゲームでは自由に育成できるのは主人公と攻略キャラだけで、後のNPCはAGI極ならAGI極、万能型なら万能型で、自動でポイントを割り振られるので、友情エンドや残念エンドを見るためには、彼らをそのまま生かして運用するしかなかったんだよね。だけどさ、「コイツもっとこっちにポイント振れたら面白いのに」とか、「このスキルもうちょっと伸ばしたいのに」とかあるじゃない?それが、今の世界だと、パーティーを組んだ人たちのステータスは自在に振れるようになって、なんかハマっちゃったっていうか。
「なんかさ、ブティックのマダムが、「お客様にはこちらがお似合いでございますよ」みたいな感じ?」
「まさかのファッション感覚ですかな…」
うん、下手したら魔王ソロで倒せそうなキャラが何人も育ったらマズいのは分かるんだけど、どうにも他に趣味がございませんで…てへぺろ☆
「まあいいですじゃ。アリス殿が特別な野心があってのことではないのは、こうして一緒にパーティーを組ませていただいて、重々承知ですじゃ」
だがしかし、やはりダッシュウッド家においても他の勢力から見ても、私は超重要人物としてマークされているらしい。学園祭で大立ち回りしちゃったからなぁ。なので、私のレベルが高いのは承知の上だが、常に隠密を一人付けさせていただきたいのだが、というのが、爺やさんが今日二人パーティーを希望した主な理由らしい。彼らの言い分も分からなくないし、隠密の皆さんは気のいい方々なので、特に反対もない。
「そういうわけで、主にフェリックスが御身の護衛に当たりますが、いかがかな」
「ああ、婚約者風の護衛ってやつですね、オッケーです☆」
「くれぐれもよろしくお願いしますじゃ」
ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。
「だけど彼、高所恐怖症なんで、そこだけちょっとどうにかならないかな〜なんて」
「やれやれ、フェリックスも修行が足りんのう…」
爺やさんが遠い目をしている。フェリックス
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