第39話 38話閑話・それぞれの独白
✳︎✳︎✳︎ デイヴィッド ✳︎✳︎✳︎
「すっ…げ…」
デイヴィッドは、目の前の
その後、おびただしい魔物が現れた時も、動揺一つせず、弟や母に迷わず指示を出し、怪我人の一人も出さず、初手で完封した。
正直、これまでの人生で、欲しいものは何でも手に入った。やりたいと思うことは何でもこなせたし、達成したい目標もすべて叶えてきた。ぶっちゃけ、人生ってチョロいもんだと思ってた。
そんなデイヴィッドが、人生で一番感動した。こんなに心が震えたのは、初めてだと思った。
だが違った。あれが一番じゃなかった。
彼女はあの時、本気の一部も出していなかったのだ。風のドレスが、細剣が、彼女の風属性スキルと呼応して、淡く輝く。そして、目にも止まらぬスピードで、竜の弱点を確実に狙って叩く。
自分が父とは違う特質を持っていることは、気づいていた。いくら鍛え上げようとしても、父や弟のような体格は手に入らなかった。その代わりに、自分には圧倒的な剣速があった。剣速だけなら誰にも負けない。自分は自分の剣を極めよう。そして、若くしてある程度、極めたつもりだったのだ。
だが違った。圧倒的な剣速とは、彼女のものを指すのだ。
心臓が苦しい。掴まれたというより、もはや握りつぶされそうだ。この感情をどう表現したらいいのか、デイヴィッドには分からなかった。
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✳︎✳︎✳︎ フェリックス ✳︎✳︎✳︎
嫌なものを見てしまった。デイヴィッド様の横顔、あれは男が女に本気になる時の顔だ。
お嬢というのは、不思議な女だ。生まれる前に、この世界を物語として遊んだことがあるという。前世では、恐らく今の俺と同じくらいの人生を生きていただろう、ということだが、中身がまるで子供と変わらない。面白そうなことに飛びつき、美味しそうなものに目がなく、面倒そうなことからは
彼女の婚約者役の選定では、辺境伯家の中でもそれなりの腕があるということで、俺に決まった。デイモン様によれば、彼女の過去世において、周囲は黒目黒髪ばかりだったというから、それもあるだろう。要は、彼女を落として囲い込め、ということである。長い任務が始まった。
俺と同じくらいの年齢まで生きていた、というのは
彼女の侍女のブリジットによると、「彼女は野鳥と同じ。捕まえようとすると逃げるから、巣箱と餌を置いて見守るのが良い」とのこと。デイモン様は、彼女が
俺はある時から、任務としてお嬢を落とすことは諦めた。何なら、お嬢が望むなら、辺境伯家から逃してやってもいい。願わくば、その時は俺も一緒について行きたいが、一定以上の距離に踏み込まれるのを嫌うお嬢について行くという意味でも、隠密を抜けるという意味でも、厳しいだろう。
辺境伯家は、まだ彼女を囲い込むことを諦めてはいない。特にグロリア様は、お嬢をお気に入りだ。どんな手段を使ってでも、逃すつもりはないだろう。デイヴィッド様はその感情を
ダニエル様も、
「何ということだ…」
とため息をこぼしている。アーネスト坊ちゃんは、ただ涙を流して、地竜が倒れ伏すのを見ていた。
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