第36話 土の超級ダンジョン

 まずしばらくは、辺境伯家から一番近い、土の超級ダンジョンを周回場所に決めた。土の腕輪だけがまだドロップしてないし、基本敵は単独湧きだしね。みんな「あの伝説の…」とか「上級どころか超級…」とか「ドラゴン…」とかゴクリしていたが、フェリックスうじは「まあ見てなって。お嬢はとんでもねぇから」と澄ましていた。別にとんでもなくねぇよ。フツーに周回するだけなのに、なぜなのか。


 移動手段であるが、もう辺境伯家の皆様にはゴーレム馬車も飛翔フライのスキルも知れ渡っているため、今は使われていないとりでまで馬車で行き、馬だけ繋いでおいて、そっから飛翔かけてぶっ飛んで行く。


 問題は高所恐怖症のフェリックス氏なのだが、今回は秘策がある。秋に王太子と対戦して気がついたのだが、加速アクセラレイトを使えばいいじゃないか。加速の効果時間は10分だが、レベルマックスだとその間の速度が10倍になる。移動時間を短縮すれば、彼も何とか乗り越えられるのではないか。


 結果、ダンジョンには10分もかからずに到着したが、あわや山に突き刺さる寸前の大惨事。フェリックス氏をはじめ、同乗者のほとんどは泡を吹いて気を失っていた。


 後で裕貴くんがおおよそで試算すると、音速どころか戦闘機より速かったらしい。運転ドライビングセンスに致命的欠陥があるとして、飛翔は私のスキルを使うものの、二度と手綱を握らせてもらえなくなった。ひどい。




 土のダンジョンに侵入するには、最低でも土属性のロックウォールが必要になる。他の属性で入ろうと思ったら、優性属性の火属性の大火力で、入り口の岩の扉をブッ飛ばすくらいしかない。残念ながら、劣勢の風属性や他の属性では、びくともしないのだ。幸い、一の側近さんがロックウォールをお持ちであった。これなら低レベルでも、ダンジョンを塞ぐ岩を壁で持ち上げて侵入することができる。


 すぐにでも飛翔でボスまでスキップして高速周回したいところだが、今回はレベル差のある参加者が含まれるため、飛翔を封印。地竜を一匹ずつ相手することにした。一度立ち回りを覚えてもらえれば、私がいなくても、辺境伯の皆さんで周回できるようになるだろう。


 極端なことを言うと、このパーティーには既にレベル100を超える闇属性が2枚も入っている。闇はレベル70でエリオットうじのお得意「暗黒のいかづち」が習得できるので、スキルレベルマックスにすると、ほとんどのダンジョンで無双できる。INT(かしこさ)の数値にもよるが、火、水、光、闇のダンジョンならボスまで瞬殺して高速周回確定である。だが土のダンジョンは、耐久力のある地竜を一体ずつ相手しなければならない。雷では燃費が悪すぎる。今回はチーム戦の立ち回りを何種類か試してもらおう。




 今回は超初級編、名付けて「火属性装備でチートだポン」である。ポンに意味はない。単に語呂がよかっただけだ。


 皆さんに優性属性の火属性の装備を配り、お着替えしていただく。パーティーに火属性は一人もいないが問題ない。自属性ボーナスは付かないが、全ての装備に最初から火属性のエンチャントが掛かっているため、土属性の攻撃を大幅に緩和し、攻撃が面白いように通るのだ。硬い地竜も例外ではない。


 まずは皆さんで、各自得意な獲物を持って、タコ殴りに行っていただく。戦闘職の皆さんは、各自散開して、得意なレンジからアタックを決めていく。執事さんと側近さんは基本後衛なので、剣に関してはスキルなし、たしなみ程度の経験しか持たないが、恐る恐る脚を狙ってみると、わずかだがダメージが通る。ヘイトは避けタンクの私が稼ぐので、地竜の挙動に注意しながら、自分のペースで慣れてもらう。


 ほどなくして、地竜の体力を削り切り、巨体が消滅。希少金属と、いくばくかのお金がドロップした。ドロップ品は、パーティーメンバーで分配していいことになっている。ここは出現個体数が少ない代わりに、一体にしては結構美味しい金額なんだよね。帰ったら打ち上げやって、みんなで美味しいものを食べてもいいかも知れない。


「ほ、本当に巨竜を、我らだけで…」


「こんなに危なげなく完封するなんて…」


 優性属性、チートですよねぇ。火属性装備は、グロリア様が火のダンジョンを氷嵐ブリザードで無双ぶっこきあそばして、正直一番余っている。ここに来る人は、全員火属性装備を着込んで来れば、ぶっちゃけ余裕で稼げるんだけども、それではあまり訓練にはならないかも。いや、パワーレベリングするだけなら、それでいいのかな。


「!これは、アダマンタイト!」


 お、側近さんよくご存知で。ここ回るとめっちゃ溜まるんだよね。


「そんな…伝説の金属が、こんな場所で産出するとは…」


 そういえば、ゲーム最終盤で解放されるドワーフの里では、アダマンタイトシリーズが売られていた気がする。店売りの中では最高級品だが、ぶっちゃけ属性装備が取れたら下位互換にもほどがあるので、腕輪の収納ストレージの肥やしなんだよね。呆然とする御一行様を促して、さ、次行ってみよう。




 そのあとは、各自今持ってるスキルを組み合わせて、いろんなパターンで戦ってもらった。基本の風属性や水属性のバフ、闇属性のデバフを交えてみたり、あえて前衛後衛を入れ替えてみたり。時には前衛が戦闘不能になり、後衛だけでしのぎ切らないといけない場面もある。前衛も、体力が尽きかけていても仲間にバフだけは送れる場面もあるだろう。なお、土属性ではロックウォールを試してみたが、まだレベルが低いために、地竜に踏み潰されてしまった。ドンマイ。今はロックウォールを展開する場所やタイミングを覚えてもらうのが目的である。土属性は大器晩成、中盤以降グンと伸びるのだ。土を一枚入れておくと、パーティー生還率が格段に上昇する。そしてこれらの訓練を行うのに、硬いけれど動きの緩慢な地竜は、うってつけであった。


 最初は超級なんて、ドラゴンなんてと尻込みしていた彼らも、ようやく調子が出始めた。俺ら案外やれるやん、このスキル結構使えるやん。こういうの、分かりだすと面白いんだよね。そして、レベルが上がると各パラメータに数値を振って、ぐんぐん強くなって行く。そうそう。閣下もエリオットうじも、そうやって楽しそうな顔してたよな。ほんの一年半前のことなんだけど、もう随分前のことのように感じる。


 ここは道順も分かりやすい。落盤や落石、巨岩が転がってくるギミックを正確に回避し、道中で遭遇する地竜を一頭一頭丁寧に倒して行けば、最後にはファフニール様のお出ましである。コイツはちょっと骨が折れるんだけど、立ち回りは地竜とほとんど同じ。地竜よりも素早く硬く、またロックブラストという嫌なブレスを吐いてくるんだけど、火属性装備が大幅軽減してくれる。攻撃には参加しないけど、ヘイトは私が稼ぐから、これまで覚えたことを好きなように試すといい。


 結果、ちょっと時間はかかったけど、無事ファフニールを沈めた。後には土の盾が残された。


「ファフニールに、勝った…」


 クラが立った、的な。


 うん、爺やさんとフェリックスうじ、アンナさんには順当な勝利だろうが、後の二人は戦闘職じゃないもんね。特に、加入時はレベル30台だった側近さんが、ちょっと魂が抜けている。30台にはキツかったかな。ごめんね、てへぺろ☆




 想定よりも少し時間が経ってしまったので、今回は一周でお開き。帰りの馬車は、私が飛翔と加速のスキルだけ担当して、操縦はアンナさんにやってもらった。正直今回のパーティーは、しょぱなの暴走超特急の影響もあり、最初は決死のアタックというか、死出の旅路みたいな雰囲気だったのだが、帰りは和気藹々とした車内となった。


 意外だったのはフェリックスうじだ。帰った直後は、相変わらずの高所恐怖症により青い顔をしていたが、回復した後で、「めっちゃ楽しかった」とはしゃいでいた。前回同行した水のダンジョンでは、ただ付いて回ったきり、何もできなくて複雑だったが、今回は自分も活躍できたこと。隠密は基本単独行動なので、みんなで協力してバトルするのが楽しかったらしい。やー、今回は隠密さんたちにはヌル過ぎて退屈かと思ったんだけど、喜んでいただけたならよかった。


 だけど、闇属性がマジで爽快なのは、光のダンジョンだから。あそこなら、もっと楽しく高速周回できると思う。アンナさんと一緒に、またいつかお誘いしよう。

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