第33話 爆ぜろ
草とはどこにでも生えているものである。
感動的なスチルの回収劇が、翌朝には学園中で話題になっていた。
ただし、セシリーちゃんのこれまでの猛攻は、既に皆に知れ渡っているところ。しかもしばらく前、学園祭での息の合った鎮魂スキルに、観客の全てが釘付けになったばかりである。お似合いカップルの恋愛イベント発生に、女子生徒は「きゃあ〜♡」となり、男子生徒は「セシリーちゃん…(泣)」となった。
その日から、
何それ悔しい。腹立たしい。
「お嬢様、もう廊下の角からハンカチ
ブリジットが呆れている。やかましいわ。お前だって閣下がいるだろうよ。
「お嬢だって、俺がいるじゃないっスか…」
うるさい黙れ。フェリックス
「ハニトラは酷い」
「だって、小娘にイケメン宛がって辺境伯家に引き留めとこうって、そういうことでしょ。もう書類上で結婚でもなんでもしてあげるからさ、花街のお姉さんとでも遊んで来なよぉ」
「お嬢はどうしてこんな、色恋に関して
「いや、あーしの知る限り、それはないっていうか」
うーん。二人は考え込んでいる。
本日は卒業記念パーティーのドレスを買いに、ショップまで足を伸ばしている。秋の舞踏会で、コルセットで
よく考えれば、あの属性ドレスはどれも着用者の体に自動でフィットして、動きを妨げず、かつボディラインも美しく見せてくれる。よく出来たドレスである。ああ、元王妃をギャフンと言わせるために、あの時舞踏会で風のドレスを着なければよかった。一流貴族は同じドレスを何度も着回したりはしないのである。まあ、あれを着て行ったから、いろいろ一件落着したんだけども。
とりあえず、闇属性ドレスの
ただ、オーダーとは違い、リボンや締め色、チョーカーなんかは、黒のベルベットに変更されていた。シックな感じで格好良くはあるが、今の
「まあ、お二人ともお似合いですよ」
マダムが、フェリックス
「あんまりペアで色がちぐはぐだと、不自然っスよ。せっかく
そういって、ブリジットが肘でつっ突いてくる。なお、彼女はデイモン閣下の瞳の色に合わせた、スカイブルーのドレスだ。いつもはポニーテールできゅっとまとめた火属性っぽい赤毛が、背中まで豊かにウェーブしていて実にきらきらしい。まるでディ
なお、学園の屋上は人気の告白スポットとなり、夕食後の屋上で舞踏会に誘うカップルが多発。雪の積もる屋上は足跡だらけになり、順番待ちの行列まで出来る始末。学園側も、貴族の縁談は大事なものだと理解しているので、見て見ぬふりを決めている。こうやって、学園の伝説って作られて行くものなのだ。
伝説を作った当人は、
「あれから二人きりになると、ユウキって呼ばれるようになったんス…♡」
裕貴くん、絶賛お花畑中である。その
「あなたが私のドレス姿を評価してくださったのも、なんとなく分かる気がします。その…いけないことをしているようで…」
だそうだ。うん。貴腐人のお姉様方が、泣いて喜びそうなシチュエーションだね。
「姉貴がいたら、絶対ネーム切りに来るっス…」
「あ、お姉さん、そっちも行ける方なんだ」
「俺、永遠のタダ働きの
裕貴くん、いつもの遠い目だ。その分だと、売り子やら、最後尾のプラカードやら…あ、遠い目が更に遠くなって行く。彼の苦労がしのばれる。
「ここにいらしたら、きっとエリオット
「…ッ!その発想はなかった…ッ!」
裕貴くんがガバッと立ち上がり、「アリスさん、マジでありがとうございます!ありがとうございます!」とドップラー効果を起こしながら、猛ダッシュで去っていった。その後、彼らの間に何が起こったのか、推して知るべしである。
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