第23話 光の超級ダンジョン

 話は少し前にさかのぼる。


 王都の上級ダンジョンの一角、隠し扉の裏側のゾーンで、放課後の部活のごとくまったりとレベルアップ生活を楽しんでいた私たちは、やがて身分の差を超えて、仲良くなって行った。春休みの風の超級ダンジョンアタックなんか、もはやサークルの遠征というか、修学旅行のようなノリである。


 修学旅行といえば恋バナ。特にブリジットが、女子3人で恋バナをやりたがった。ただし、裕貴セシリーくんは前世が理系男子。私の前世の話はみんなにオープンにしてあるが、彼の場合は前世と性別が異なるため、みんなには内緒で通すことにした。


 彼の恋愛観について、ブリジットやみんなの前では濁していたが、二人の時にチラッと本音を漏らしたことがある。


「俺、この世界に来て、長い事女子として暮らして来ましたけど、やっぱ野郎と恋愛とか無理なんスよね…。かといって、百合ってのも今世の自分セシリーからすると抵抗あるし」


 だから今世では、恋愛は諦めて聖女やれってことなんスかね、なんて寂しそうに笑っていた。


 笑っていたのだが。




 その日から、裕貴セシリーくんがエリオットうじにグイグイ行くようになった。


「私、ずっとお姉様が欲しかったんです…」


 と言っては、ふわふわ○っぱいを腕に押し付けて、ボディタッチの嵐。


「男のならイケる!」


 というのが、のちの彼のげんである。スレンダーな金髪ストレート、どこか鬱屈としたうれいのある雰囲気、あざといほどのフリフリのゴスロリドレス(これは闇属性ドレスがそういう装備なのだが)、もう全てが彼のドストライクだったそうだ。この人生では恋愛を諦めていた彼女、ここでリビドーがブチ上がりである。


「俺がどんだけDTこじらせて来たと思ってんスか。DT舐めんな」


 ということで、DTがよろめきそうなあざとい攻撃を、これでもかと繰り出してくる。ああ、これぞ女に嫌われる女。由緒正しき乙女ゲーのヒロインの完成形である。


 なお、これまでやんわりと恋バナをかわされてきたブリジットは、「そりゃあ身近に狙った男子がいたら話しづらいよね」と納得していた。そしてグロリア様と共に、「コイツなかなかやるやん」という目で温かく見守っている。主人であるデイモン閣下も微笑ましい目線を投げかける。外堀は秒で埋まっていた。


 エリオット氏は、形ばかりの遠慮というか抵抗を繰り返すが、誰がどう見ても試合開始と同時に陥落していた。一回表に二桁失点のコールドゲーム、お色気のオーバーキルである。これまで実家で冷遇され、縁談や恋愛に縁のなかったエリオット氏に、神絵師渾身の美少女からの猛烈アタックに抗うすべなどなかった。


 その他、枚挙にいとまのないエピソードはまた別途語ろうと思う。




 光のダンジョンもまた、簡素なダンジョンである。とある廃教会で祈りを捧げると、いつの間にか雲の上の世界のようなところにワープする。魔王を倒すために冒険してるんだから、無条件で武器防具くらい提供してくれてもいいんじゃないかと思うんだが、意訳すると「魔王を倒せるかどうかいっちょ試してやる」「ついでに鍛えてやる」みたいなメッセージが流れて、いきなりボス戦みたいな感じになる。ここは白い神龍がボスであるが、周りに天使がワラワラと現れて、一斉に合唱を始める。いや、これはボス戦を盛り上げるギャグなのではなくて、混乱と威圧の精神攻撃なのだ。この攻撃を防ぐために、光の羽衣もしくは闇の羽衣が必須のダンジョンとなっている。


 しかしやはり、ダンジョン全体が見渡せるとなると


「暗黒のいかづち


 なりますよね〜。


 神龍や天使の口上が終わる前に全体攻撃で無慈悲に瞬殺、ドロップ品に変わっていただく。今回はボスも合唱団の皆様も、割と固まって出現スポーンして下さるので、回収も楽であった。私、ブリジット、裕貴セシリーくんの庶民トリオで拾いにかかる。


 光属性の装備は、剣、弓、杖、盾、鎧、ローブ、ドレス、サークレットであるが、どれも神々しさ満載、ドレスに至っては白くシンプルなので、見方によってはウエディングドレスっぽくもある。属性装備で能力補正がかかる裕貴セシリーくんが装備すると、それはもう可憐な天使の爆誕であった。しかしいささか、光シリーズはキラキラすぎるため、他のメンバーは闇装備を着込んだまま攻略を続けている。


 なお、あの後無事に闇の革鎧がドロップしたのだが、革鎧とは名ばかりで、どちらかというと黒の革ジャンとレザーパンツ。闇シリーズはなかなか攻めたデザインである。厨二病真っ盛りのデイモン閣下とエリオット氏は、もっぱらこの闇の革鎧を愛用するようになった。


 ちなみに、各属性装備は着用者に自動的にフィットするように作られているので、装備しようと思ったら誰にでも装備できるのだが、なんとグロリア様まで革鎧を装備されるようになった。彼女のゴージャスな美貌に、ゴスロリドレスも似合っていたのだが、この体に吸い付くようにピッタリフィットする、革スーツの悩殺力がヤバい。なんというか、ファビュラス姉妹というか、フージコチャンというか、見てはいけないけど目が離せないような美しさである。この世界の成人結婚出産は早く、なんだかんだ言ってまだ三十路な彼女、現役どころか世の女性のモテりょくを全てを持って行きそうな勢い。こっちはこっちで、別の女神の爆誕である。


 最近もっぱら前衛に出たがるブリジットは、禍々まがまがしい闇の鎧を装備しようとしたが、みんなに止められた。元々メイドとして王都に上京してきたので、メイド風ゴスロリドレスがこの上なく似合っている。ちなみにグロリア様のお世話をするのもブリジットだ。元々王都で玉の輿に乗るか、大きな家のメイドとして勤めに出ようと思っていた彼女、元筆頭侯爵家の姫をして太鼓判が押せるサービスが提供できる。元主人として鼻が高い。


 私ですか?もちろん普通にゴスロリドレスですが何か?凹凸控えめな謙虚なボディに、モロにボディラインが響くシンプルな光のドレスや闇の革鎧は厳しいものがある。あちこちにリボンやフリルをあしらった装飾的デコラティブなドレスは、そんな私にも優しくフィットするのであった。泣くな私。


 その後、腕輪が落ちるまで周回を繰り返した。その頃には既に全員分に余る光属性セットが手に入ったので、各属性超級ダンジョンの攻略は、これにてお開きである。もうすぐ夏休みも終わりますしお寿司。


 あ、閣下の土属性の腕輪はまた今度ね。

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