第22話 闇の超級ダンジョン

 さて、後は雑な説明になるが、光のダンジョンと闇のダンジョンもつつがなく攻略を終えた。そもそもが、光属性と闇属性持ちは希少であるという設定なので、攻略対象以外のNPCが少ない。そしてそのNPCたちは、あまり攻略に使えない。そもそも主人公が光属性なので、光は2枚も要らない。闇属性にしたって、魔王や魔族は大体闇属性なので、有効な攻撃手段にならない。仲間に入れて歩く必要性がないのだ。主人公と攻略対象には伝説の武器防具が用意されているし、光属性と闇属性の武器防具の存在意義はほとんど皆無である。ただ、他の属性の分を用意してある以上、用意しないわけには行かなかったのだろう。他の属性ダンジョンに比べて、作りが簡素というか、工夫やひねりが感じられない。


 順番はどちらからでも良かったのだが、まずは距離的に近い闇のダンジョンから行くことにした。闇のダンジョンは、お察しの通り、放棄された墓地の地下にある。中は大きな空洞になっており、そこにドラゴンのみならずアンデッドモンスターがひしめき合っている。ここの攻略に必要なスキルが、闇属性の闇の衣、もしくは光属性の光の衣である。死臭漂う墓地エリアは、歩くだけで体力を奪われる地形ダメージが設定されているからだ。


 さすがのグロリア様も、近接攻撃で特攻することは控えて、上空から氷嵐をブッパする。ところが火属性ダンジョンの敵のように、一発で殲滅というわけにはいかない。ボスを含め、端の方の敵に何体か討ち漏らしが出る。


 違う、そうじゃない。アンデッドには回復魔法ヒール、お約束である。雑魚敵のドロップもあんまり触りたくないし、しょぱなからボスを狙ってヒールを撃つ作戦に切り替えた。


 後はもう、グロリア様がレベルマックスの完全回復ヒールを撃ってボス撃破、ドロップを拾って入り口に戻される。ヒール、拾う、戻される。ヒール、拾う、戻される。いつもの周回モードに入った。ずっと同じ作業の繰り返しだと途中で飽きてしまうので、時々ヒールをデイモン閣下のゴーレムアタックに変えたり、ブリジットのファイアーボールに変えたりしてみる。ファイアーボールもレベルマックスまで上げると、不死鳥の形をして追尾ホーミングするので楽しい。そしてやはり、一番爽快だったのは裕貴セシリーくんの祝福ブレッシングだ。陰鬱な墓場ゾーンが、一瞬でキラッキラにお掃除される。まあ、再潜入したら元通りのバイ○ハザードステージなのだが。




 ところでここで、問題が一つ。周回してしばらく経つのに、闇属性のアイテムのうち、革鎧だけがドロップしない。物欲センサーというヤツである。序盤にレアドロップである闇の腕輪が出て幸先さいさきが良いと思っていたら、思わぬ落とし穴であった。


 他の属性ダンジョンと同様、闇属性ダンジョンでは闇属性装備を身につけることで、そのダンジョンの特性を緩和する効果がある。闇属性で言えば、闇の衣スキルが常時展開しているようなものだ。これはアンデッドが生者せいじゃにヘイトを向け、一目散に集まって来る習性や、地形ダメージによるエナジードレイン、悪臭などを防ぐ効果がある。もちろん闇属性のアイテムを1つでも装備すれば効果はあるのだが、装備にはセットボーナスが設定されていて、全ての装備を闇属性に揃えた場合、この闇のダンジョンの不快な効果を全て打ち消すことができる。


 闇属性の武器防具は、剣、弓、杖、盾、鎧、革鎧、ドレス、サークレット。このうちデイモン閣下は鎧、他の女子メンバーはドレスをそれぞれ装備している。エリオットうじだけが、革鎧を装備できないでいるのだ。別に無くても攻略は出来るのだが、元々神経質なエリオット氏、この悪臭放つアンデッドには耐え難いものがあるらしい。ゲームでは臭いまでは分からないので、どうせ飛翔フライを使って高速周回するならと、闇の衣のスキルを取って来なかったのが仇となった。




「ならばドレスを身に着けるしかなかろう」


 グロリア様が、事も無げに放つ。ドレスなら余っているのだ。だが、いくら中性的な顔立ちとはいえ、思春期の男子に女装はキツい。うつむいて思案するエリオット氏に、皆口々に「もうちょっと回れば出るかも」「いやもうこの際」「ローブで隠せば大丈夫」「私たちしか見てないし」などと声を掛けるが、痺れを切らしたグロリア様が一喝。革鎧が出るまで死臭を我慢するか、ドレスを我慢するか、どっちかしか無いのだから、さっさと腹を決めろと。


 幸い腕輪があるので、こそこそとドレスに着替えるという屈辱をこうむることだけは避けられる。エリオット氏は意を決して、腕輪を腕に装着し「装備イクウィップ」と宣言した。


 するとどうでしょう。


 紫色の光がキラキラと舞い散るエフェクトと共に、中からゴスロリ美少女が現れたではありませんか。


 色素の薄いブロンドのストレートヘア、風でも起こりそうな長いまつ毛、少し目尻の下がったアメジストの瞳、すっきり通った鼻梁、薄い唇。STRちからパラメータを上げても筋肉が付かないと悩んでいた、スラリとした腕と脚。しかもムダ毛が一切見当たらない、ツルツルツヤツヤのお肌。彼のコンプレックスの全てが、この美の為に存在したと言っても過言ではない。


 当の本人は羞恥のあまりにスカートを抑え、「す、スースーする…」などと言っては、羽織るマントなどを探しているが、その姿まで実にキュート。いつも一緒のデイモン閣下や、彼とすっかり慣れ親しんだブリジットまで、あんぐりと口を開いて放心する中、グロリア様が「おやおや、その姿もなかなか」と目を細めている。


 一番様子がおかしかったのが、裕貴セシリーくんだ。


 いつものその、輝かんばかりに神々しい横顔を、惚れ惚れするくらいに可憐な細い指が覆って。しかしその指の下で、唇の端がニヤァ…っと持ち上がっていた。


「見つけた…」

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