第19話 辺境伯夫人
翌々日、一行は帰路についた。1日目、ブンカーでよく眠れなかったっぽいフェリックス
ロックウォールのスキルは、レベル5から簡単な建造物が建てられるようになる。レベル5のトーチカは、かまくらのような簡単な構造。レベル6のブンカーは小ぢんまりとした隠れ家。レベル7の
いつも上級ダンジョンの隠し扉の向こうでは、ブンカーを展開してまったり過ごしているのだが、逆にブンカー以上だと迷宮では建てられないんじゃないだろうか。塔で高さギリギリくらいだろうか。そういえばラストダンジョンも、山の中腹に埋もれた神殿であり、内部に大規模な建造物を建てるスペースなどないのだが、ボス戦では普通に城砦使ってたな。あれはどういう仕組みなのだろう、うちゅうのほうそくがみだれたりしたのだろうか。
砦の2階には、ちょうど6人分の個室があった。ブンカーでは二段ベッド3部屋だったので、かなりの居住性アップである。長期に渡って滞在するなら、プライベート空間はありがたい。しかも今回は男3女3パーティーなので、どうしても一室が男女混成になってしまう。気を遣ったフェリックス氏はリビングで就寝となった。慣れないパーティーに加入したばかりの1日目、そして寝心地が悪くて良く眠れなかったであろう2日目、彼に元気がなかったのはそのせいだと、閣下は考えた。
ところが、砦にお引越ししてもフェリックス氏の沈痛な面持ちは変わらなかった。いつもは人懐こい大型犬(見た目はドーベルマン)のような彼なのだが、やり込みゲーマーの高速周回がお気に召さなかったのだろうか。ともあれ、2日で400回くらい周回したので、ここは一旦お開きにして3日目の朝に帰領。まあ、ウチ水属性いないしね。水のダンジョンに来たのも、次の火属性ダンジョン攻略用に水属性装備があれば便利かなーっていうくらいで。
そういえば、水属性を攻略するのに、先に風属性装備を揃えたんだけれども、あんまり役に立たなかった。水属性の攻撃をかなりの割合で防ぐので、一応みんな一式装備して行ったんだけどね。結局全部雷でドカーン、祝福でドカーンだったもんね。遠い目。
閣下のスキルで滝の周りを元通りに戻して、ゴーレム馬車で帰還。行きと違い、帰りは勝手が分かっているので、30分ほど短縮して帰ってきた。お通夜のようなフェリックス氏を引っ提げて、堂々の到着をすると、館の中からゴージャスな美人が出迎えた。
「デイモン、よく戻りました」
「母上、ただいま戻りました」
この方が辺境伯夫人なのね。初めまして。
隣のフェリックス氏が震えている。エリオット氏も硬直しているようだ。あれ、なんかマズい雰囲気?
出立前と違い、館の中の雰囲気は異様だった。まず水を打ったかのように静まり返っている。誰も目を合わせようとしない。あんなに我先にパーティーに入りたがった隠密さんたちが、みんな青い顔をして、心なしか指先が震えている感じがする。
「して、攻略はどうでしたの?」
応接室で、夫人がニコニコと私たちにお茶を勧め、土産話を聞きたがった。だが奇妙なことに、私には尋問にしか聞こえないのだが。
「はい母上、おかげさまで
唯一デイモン閣下だけがにこやかに応対する。おかしいって。実の親子だからって、この空気に耐えられるのおかしいって。詳細は後からフェリックスに聞きます、とおっしゃったが、その一言でフェリックス氏が目に見えてガタガタ震え出した。
「恐れながら奥方様」
「エリオット、発言を許します」
「水のダンジョンで、伝説の水属性装備を一式集めて参りました。こちらを献上致したく存じます」
あ、エリオット
「まあ…まあ…!」
それから空気は一変した。この場にBGMは存在しないのだが、葬送行進曲から結婚行進曲に切り替わったかのよう。テーブルの上に広げられた、水の腕輪、水の槍、メイス、杖、盾、胸鎧、ローブ、ドレス、サークレット。水属性の装備はみな、水晶のような上品な光沢と華やかさがある。夫人は早速メイドを呼び、ドレスを身につけようとしたのだが、一旦引き止めた。同じ属性の腕輪に収納して装備したいアイテムを設定しておくと、一瞬でお着替えが出来る無駄な変身モードがあるのだ。この変身モード装着者を3人集めると、戦隊ごっこが出来るという謎イベントがあるのだが、レアドロップの腕輪を引き当てるのが超難関で、このイベントの回収はセーブ&ロード必須の鬼難易度だった。一応これ乙女ゲーだぞ?そのイベント必要だったろうか。
「
夫人が唱えると、そこに氷の女王が現れた。元が美女な分、ドレスやサークレットが神懸かって似合う。ところで手に持っているのが杖ではなく盾とメイスなのは気のせいだろうか。
「デイモン、そして皆、よくやりました。フェリックス、後で褒美を取らせましょう」
「勿体なきお言葉」
館の隠密さんたち皆さんが、ほっと胸を撫で下ろしているのが感じられる。フェリックス氏に至っては、目尻に涙が浮かんでいる。何だかよく分からないが、何かが一件落着したようだ。めでたし。
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