第17話 水の超級ダンジョン
辺境伯家の滞在は一泊限りで、早々に追い立てられるようにして辞去することとなった。実家のアクロイド子爵家もバートン準男爵家もスルーである。もっとも、子爵家も準男爵家も、小さな村を治めるだけの質素な一族なので、辺境伯子息御一行が来られても、もてなしようがなくて困ってしまうのである。「立ち寄らずに帰るけどごめんね」と伝えてもらったが、「どうぞどうぞ」という返事が来るに違いない。いわんや平民のセシリーちゃんの実家をや、である。
追い立てられるように、というのは比喩表現でも何でもない。結局、辺境伯家の首脳陣は、一人ずつ順繰りで私たちのパーティーに入り、「是非強化していただきたい」とのことである。私たちの冒険者生活に水を差すようなことさえなければ、一人くらい連れて回るのはやぶさかではない。ただ、帯同は夏休みの間の超級ダンジョン巡りだけにしてもらった。王都の上級ダンジョンの隠し部屋については、情報を公開するかどうかは未定である。スキルの種子を3つほど譲っただけで大騒動になったのだ。いずれどこからか漏れるかもしれないが、それまでは慎重に行こうという閣下とエリオット
さて今回、ジャンケンに勝って晴れてパーティーの6人目のメンバーに加入したのは、現・影の長のフェリックスであった。
「すっげええ!すっげええっすよ、坊ちゃん!」
胸まである黒髪を、左前で一つに結んで垂らしている。黙っていれば目つきの鋭いイケメンなのだが、口を開くと愛嬌のある人懐こい兄ちゃんであった。称号には「ダッシュウッド伯爵家筆頭隠密」とあるが、過去ログを
「はしゃいではいかんぞフェリックス。舌を噛んでしまうからな」
ゴーレム馬車を超速でブッパする閣下が、前方を注視しながら振り返らずに言う。私や
「ほへぇ、あの『兄ちゃん兄ちゃん』って俺の後を付いて回ってた可愛い坊ちゃんが、
フェリックスの頬は緩みっ放しである。閣下、愛されてんな。
これまで念の為に辺境伯家の馬車で移動していた私たちだが、辺境伯家がゴーレム馬車のことを既に掴んでいるようだったので、ならば遠慮なく、ゴーレム馬車を出すことにした。念の為に領都のはずれまで馬車で送ってもらい、街道から逸れた場所から馬車を出す。ゴーレム馬車は、パッと見普通の馬車のように見えなくもないが、閣下が尋常じゃない速度で飛ばすので、人目につかない方がいいだろう。
今回の目的地である水のダンジョンは、北にある山脈の奥地の滝の裏にある。王都からは
「じゃあこっからは
ということで、完全に人里を離れたところで馬車に飛翔スキルを展開。これまで何回か椅子や板で実験してみたけど、大丈夫、ちゃんと飛ぶね。これはゲームにはなかった運用方法だから、成功すると無駄にテンションが上がる。飛翔のスキルは使用者の
風のダンジョンでもそうだったが、ここ水のダンジョンも入るのに水のスキルが必要になる。いや、絶対必要かといえばそうでなはい、風のダンジョンも
水のダンジョンの潜入に必要なのは、水の羽衣スキル。火属性の炎の羽衣と
ところが半年前、閣下の
「ランドスケイプ」
閣下の一声で、滝の底の岩が盛り上がり、形を変え、滝の裏までのトンネルができた。こんだけ大規模に地形を変えると、MPをバカみたいに消費するが、
「さ、レッツラゴー☆」
今回まったく役に立つ予定のない火属性のブリジットが先頭に立つ。なお、フェリックス
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