第14話 ダッシュウッド辺境伯
すっかりにこやかになった影さんたちと、応接間で和気藹々とお茶していたが、ここで仲良く待っていても仕方ない。とりあえず、緊急首脳会議をしている辺境伯の執務室まで出向いてみることにした。
「こちらでございます」
綺麗なメイドさんの先導で、執務室に通される。ステータスを覗いてびっくり、レベル100超えの『アサシン』である。閣下また凹んでた。初恋のお姉さんだったらしい。
「おいアンナ、誰も通すなと」
言いかけて気付いた。執務室にいる筆頭執事、一の側近、影の長、皆の様子がおかしい。エリオット
「父上、人払いをお願いできますか」
デイモン閣下が告げると、辺境伯は真剣な眼差しで頷いた。
「というわけで、我ら5名で魔王を倒して参りました」
「魔王…」
辺境伯は、絞り出すような声でつぶやいた。いきなり魔王討伐なんて言われても、彼も困ってしまうに違いない。
「お前が上級ダンジョンに出入りしていたのは知っていた。超級ダンジョンに挑もうとしている話も聞いていた。だがまさか、魔王などと…」
「あ、魔王はリポップ寸前で仕留めましたんで、実質ノーダメで☆」
おいブリジット、お前は黙ってろ!
「王家の丘に封印されし巨悪の伝説は知っていたが、まさかお前たちが」
「はい、そこのセシリー嬢が神より遣わされた聖女らしく、彼女の強力な法力で、
「せせせ聖女なんて!」
「この度の学園での異常、宮廷からの失踪者、王家の丘の崩落、すべてお主らが関わっておったとはな…」
「というわけで、この種子もほんのお裾分けなんで、お気になさらず☆」
「だからブリジット、あんたちょっと!」
「えーだってお嬢様、あーしら結構世界救ったみたいな?だしここの人らもチョーヨワだし、あーしらレベルダブルスコアだし、そんな気にすることなくね?みたいな?」
最近ブリジットが猫の皮を放棄した。冒険者として強くなり、無理して貴族に嫁入りする必要がなくなったせいか、あれだけ完璧だった礼儀作法をかなぐり捨て、挙げ句の果てには一人称「あーし」である。それでも最初、辺境伯家に着いた時には一応慎ましやかに振る舞っていたのだが、辺境伯家の精鋭も自分たちのレベルの半分に届かないと知るやいなや、鮮やかな手のひら返しである。
辺境伯は、しばらくうつむき加減で何やら思案していたが、やがて意を決したように視線を上げ、私たちを見据えながら、ニヤリと笑った。
「なるほど、お主らもなかなかやるな。デイモン、エリオット、良い面構えになったぞ」
やはり人が好いだけの人物ではないらしい。割ととんでもない私たちを相手にして、それを余裕で受け止める胆力があるようだ。
その後は、ざっくばらんな話し合いになった。閣下とエリオット氏は、辺境伯家を継ぐ意思はなく、卒業後は冒険者になりたいこと。もちろん、身につけたスキルで辺境伯家の繁栄を支え助けることに是非もないこと。できれば自由に活動したいので、ここにいるアリス(私)やブリジット、セシリーともども、王家や教会、他の国家などからの身分の拘束や横槍を防ぎたいことなど。色々と都合の良い要求を並べたような気がするが、辺境伯は「あいわかった」と豪快に笑い飛ばした。大した御仁である。
「それで、このスキルの種子なんだがな」
スキルの種子は、かつて100年ほど前にオークションで取引されたきり、今や伝説のアイテムであり、国宝として王家にいくつか保存されていたようだが、いつの間にか失われた秘宝らしい。多分歴代の王家の誰かが勝手に使ったんだろうな。
「というわけで、王家に譲ってやってもいいか」
「ええ、持て余すようなら王家に献上していただいても構いませんよ」
「そんなんいっくらでもあるんで、どーぞどーぞ☆」
おいブリジット!
「…いっくらでも、とは?」
顔色をなくした辺境伯。視線を泳がせる私に、他の4人の視線が集中する。
「えーとあの…今のところ…17,000個くらいあるっていうか…」
てへっ☆
あ、ヤバい。辺境伯が泡吹いてひっくり返った。
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