第10話 ヒーラー勧誘

 引き続き、翌日の日曜日もダンジョンである。




名前 アリス

種族 ヒューマン

称号 アクロイド子爵長女

レベル 49


HP 900

MP 200

POW 90

INT 20

AGI 360

DEX 20


属性 風


スキル

ウィンドカッターLv1

スカイウォークLv3

アクセラレイトLv9


E アイスピック

革の鞭

革鎧

キルティングジャケット(防寒効果・中)

革のマント(緑)


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 70


スキルの種子5個(計100P)使用済み




名前 ブリジット

種族 ヒューマン

称号 バートン準男爵四女

レベル 49


HP 3,200

MP 700

POW 320

INT 70

AGI 50

DEX 50


属性 火


スキル

ファイアボールLv5

ファイアエンチャントLv5

炎の羽衣Lv2


E 両断の剣

E 革鎧

E 皮の丸盾

E キルティングジャケット(防寒効果・中)

E 革のマント(赤茶)


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 160




名前 デイモン

種族 ヒューマン

称号 ダッシュウッド辺境伯次男

レベル 44


HP 500

MP 3,100

POW 50

INT 310

AGI 40

DEX 40


属性 土


スキル

身体強化Lv2

剣術Lv2

鋭敏Lv1

ロックウォールLv6


E 鋼の剣

E 鋼の軽鎧

E 鋼の丸盾ラウンドシールド

E 銀のボリュームリング(効果無し)

E 刺繍のマント(防寒効果弱)


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 160




名前 エリオット

種族 ヒューマン

称号 エフィンジャー子爵次男

レベル 44


HP 300

MP 500

POW 30

INT 50

AGI 30

DEX 330


属性 闇


スキル

杖術Lv2

幻惑Lv3

マジックドレインLv4


E オリパンダーの杖

E 魔力糸のローブ

E 銀のモノクル(効果無し)

E 蛇のロザリオ(効果無し)

E 指抜き手袋(効果無し)

E 刺繍のマント(防寒効果弱)


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 250




 デイモン閣下の指示により、今日はみんなで小さい折り畳み机を持って来た。アイス狩りの間、カードゲームだけでは手持ち無沙汰なので、いっそここで学園の課題や自習などをやったらどうかというご提案である。断じてカードゲームで勝てない腹いせではない。


 今日も順調にアイススライムを狩り、途中スキルの種子がドロップしたことで、私のアクセラレイトのスキルがとうとうレベル10に達した。レベルマックスになると、対象一人のAGIすばやさを10分の間10倍にすることができる。種子を取得した時点でレベル50、AGIは370だから、10倍で3,700。はぐれの1,999を大きく上回る。


 アイス狩りはここからが面白いのだ。既にノーマルのアイススライムのAGI 999をダブルスコアで上回っていたが、そうするとアイススライムに1ターンで2度攻撃できる。もうすぐ4倍の速さになるので、4回攻撃できる計算になる。通常のアイススライムのHPは3、3回刺せば必ず倒せるし、途中で20%の即死効果が発動すれば次のスライムを狙える。しかも私の方が素早いので逃がさない。相手の攻撃も当たらない。まさに、アイススライムの嫌らしい戦い方を、圧倒的速度でもって、私がやり返すのだ。はぐれも同様、奴らのHPは7程度だが、逃がさずに追いかけ、刺して刺して刺しまくる。これが、私がこの狩場を見つけて周回するようになって発見した、アイス狩りの最適解だった。AGI極は、この狩り場のために存在すると言っていい。


「私…恐ろしいものを見たんです。課題にも飽きて、こっそりお嬢様の狩りを手伝おうかと後ろから尾けて行ったら…怪しい人影がヒュッと通り過ぎたかと思うと、氷のスライムをカカカカッて…そしてまた、ヒュッ、カカカカッて…」


「見てはいかん、それは見てはいかんのだ…」


「失礼な、人を妖怪みたいに」


「妖怪より怖いですよ…必要な経験は爆上がりしているのに、それを上回るスピードでレベルが上がって行くとか…」


 閣下のロックウォールのレベルが1つ上がって、トーチカからブンカーにグレードアップした。ゲーム内では四角い建物のアイコンが表示されるだけだったが、実物はトーチカに比べて思いのほか快適である。ここからレベルマまで上げたいところだが、もうゴーレム作成が取得できるレベル50に達したので、月曜日に学園でスキルを取ってもらって、そっちに振らなければならない。


「ですけど、魔王討伐には伝説の武器防具も使えないわけですし、ヒーラーもいませんし、この4人でとなると、レベルどれだけ上げて行ったらいいか分かんないんですよね〜」


 そう、僧侶を入れずに「やみのころも」を剥がさないままで戦うようなもんである。


「その、ヒーラーなんだが…」


「閣下、どなたかご協力いただける方にお心当たりでも?」


「いや、その、物語の本来の主人公であるセシリー・クラムという特待生が、光属性なのであろう?その者に事情を話して、協力を仰いでみてはどうだろうか」


 なるほど、その考えはなかった。




 月曜日、休み時間に二年E組に赴く。E組は商人や特待生などの平民が学ぶクラスだ。学園内は一応身分差を撤廃してみな仲良く、という決まりになっているが、クラスや寮などは明確に分かれている。分かれていないと、下位の身分の者が、気後れしたり息が詰まるのだ。いくら無礼講だと言われても、部長の横では酒の味がしないようなもんである。


「失礼するわ。セシリー・クラムさんはご在席かしら」


「あ、はい、私ですが」


「今日、よかったら、放課後サロンの方に来ていただきたいの」


「えっと、あの、はい…」


 ざわ…ざわ…。C組から何の接点もない中途半端な貴族令嬢が現れて、クラス全体が警戒と好奇心の空気で満たされている。


「あ、絶対無理に、ってわけじゃないのよ、もしよかったらってことで」


「いえ、その」


 ああ、まあそうなるよね。貴族の誘いを断るわけにはいかないもんね。


「あの別に、取って食おうってわけじゃなくてね、ちょぉっと大事なお話があって、ちょぉっとだけ、聞いてほしいかな〜って…」


 言えば言うほど相手の表情がこわばる。周りも「あ〜あコイツ、やっちまったな」って顔をしている。ドツボである。


「じゃ、じゃあ、15時にサロンで待ってるわね、ダッシュウッド様の名前でお部屋取ってあるから!」


 それだけ言って急いで離脱した。なお、後にした教室からは悲鳴のような声が聞こえた。そりゃそうだろう、全く無関係の辺境伯家からの呼び出しなど、私なら生きた心地がしないはずだ。ごめんねセシリーさん。




 セシリーさんは、15時きっかりにサロンに現れた。顔が真っ青である。


「あ、クラムさんいらっしゃい」


「呼び立てしてすまなかったな」


「あ、あのう…アルバイトがありますので、早めに帰していただきたいのですが」


 セシリーさんガクブルで涙目である。


「アルバイトとは大儀である。だがしかし、君に力を貸してほしい案件があるのだ」


 セシリーさんが意外な表情をして顔を上げた。あ、そうか「力を貸して」って言えばよかったのか。「顔貸せ」だけじゃ、そりゃ怖いよな。てへっ。あ、ブリジットが氷点下の目でこちらを見ている。


「クラム嬢、あなたの職場には、今日はお休みさせていただきたいと話をしてあります。給与の補償もさせていただきますので、ご安心ください」


 お、エリオットうじやるな。ちょっとストーカーチックだけど。


「話というのは他でもない、クラム嬢、君に我々のパーティーに入っていただきたいのだ」


「私がですか?!」




 ここから先は、私が話を引き継いだ。


「と、いうわけなのよ。クラムさんが魔王退治とか、にわかには信じられないとは思うんだけど、それは私たちがガンガンレベル上げて絶対守るから、光属性スキルで協力してもらえると、とっても心強いかな〜って…どうかな?」


 セシリーちゃん考え込んでいる。


「いや、荒唐無稽な話なのは分かる。我らも最初は全く信じられなかったが、アクロイド嬢の未来予測や知識は正確無比、さすがの我らも信じざるを得なかった」


「もし魔王が復活するとなれば、とんでもないことになります。気付いた者が阻止しなければ、この平穏な世界も、我々の命も、未曾有の危機にさらされることになりましょう」


「あーこれ、いいバイトになりますよ☆お嬢様とパーティー組んだらバカみたいにレベル上がるし、小一時間で月給くらい稼げちゃったり♪」


 おいブリジット、余計なこと言うな。


「本当ですか?!」


 あ、ブリジットの話に一番食いついてる。


「とにかく、もし仲間になってもらえるなら、我らに遠慮することはない。皆同じパーティーの仲間だ。遠慮せず、私のことはデイモンと呼ぶがよい」


「私はエリオットと」


「あ、私ブリジットねよろしく〜!お嬢様はちょっとおかしいけど、気にしないでね!」


「あっはい、よろしくお願いします…?」


「じゃあ、職場には私の方から退職という形でお話をさせて頂きますね。大丈夫、パーティーの稼ぎから、ご実家の方には十分な送金をさせていただきますので」


 あ、こいつら強引に巻き込んだ。そしてエリオットうじが即座に退路を断った。貴族って怖い。




 翌日火曜日の放課後からは、一緒にダンジョンに潜ることになった。辺境伯家の馬車に乗り込み、冒険者ギルドでパーティー登録をして、上級ダンジョンに向かう。平日の放課後だから、そんなに長い時間は潜れないが、閣下がゴーレム作成を取得したので、あっという間に狩り場まで到着した。Lv8のゴーレム馬車、マジ優秀。途中の雑魚敵はいたり追い払ったり倒したりしながら、最短ルートで30分。到着後、閣下は慣れた様子でブンカーを展開、皆でせっせとお勉強セットとお茶セットを用意し、私だけアイスピック一本持って飛び出して行く。


「じゃ、後はよろしくね!」


「「「行ってら〜」」」


「何、これ…」


「まあまあ、すぐ慣れますから」


「今日の課題ちゃちゃっと終わらせちゃってさ、『ラスイチ』しようよ!」


「あ、騙されてはいけないぞ、コイツら強いからな」


「閣下、自分が弱いからって、ひがんじゃだめですよ☆」


「ぬうううううう…!」


「まあまあ、とりあえず課題から、ねっ」


 いつもの通りのお茶の間劇である。


「何、これ…」


 完全について行けない、セシリーであった。

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