第11話 秘密の告白

 あれから二ヶ月ほど経った。私たちは平日は三日ほど、週末は大体ほとんど、上級ダンジョンに潜り、アイススライムたちを狩りまくっている。閣下のロックウォールは、順調にレベル7のタワー、レベル8のフォート、レベル9の要塞フォートレス、レベルマックスの城砦シタデルへランクアップしたが、5人で課題をやったりボードゲームをして時間を潰すには、小ぢんまりとしたブンカーがちょうどいい。なお、レベル5のトーチカ以上になると、出現する建造物の形や大きさが変わるが、一番大きな違いは耐久力である。トーチカやブンカーは、強い攻撃を食らうと消滅するが、レベルが上がるほどに頑丈になり、シタデルに至っては戦闘中は不壊で、一度設置すると、近接攻撃に参加しないメンバーを最後まで強力に守る。ゲーム上では最初に城砦のアイコンが出現して、その後は防御力アップを示す上向きの青矢印が表示されているだけだが。


 このゲームのスキルはどれを取ってもそうだが、レベルマックスにすると一気にぶっ壊れ性能になる。無理もない、レベル10まで上げるとなると、スキルポイントが550も必要で、それはレベル55相当のスキルポイントを全部投入するに等しいのだ。武闘系から属性系、全部のスキルをレベルマックスにしたことのあるプレイヤーなんて、日本に何人もいないだろう。そもそもこのRPG要素は、乙女ゲーのオマケであって、主人公には元々恵まれた属性に、伝説の武器防具や禁呪が用意されている。そして通常6人パーティーで、レベル50そこそこで魔王を倒してクリアできるようになっている。開発陣も、スキルを究めるまでやり込まれることを想定してゲームを作っていないのであろう。それよりお前ら恋愛しろよってことである。


 そんな私たちのステータスは、こんな感じである。




名前 アリス

種族 ヒューマン

称号 アクロイド子爵長女

レベル 174


HP 1,000

MP 1,000

POW 100

INT 100

AGI 1,440

DEX 100


属性 風


スキル

ウィンドカッターLv1

スカイウォークLv3

アクセラレイトLv10


E アイスピック

革の鞭

革鎧

キルティングジャケット(防寒効果・中)

革のマント(緑)


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 1,240


スキルの種子6個(計120P)使用済み




名前 ブリジット

種族 ヒューマン

称号 バートン準男爵四女

レベル 174


HP 14,400

MP 1,000

POW 1,440

INT 100

AGI 100

DEX 100


属性 火


スキル

ファイアボールLv10

ファイアエンチャントLv10

炎の羽衣Lv10


E 両断の剣

E 革鎧

E 皮の丸盾

E キルティングジャケット(防寒効果・中)

E 革のマント(赤茶)

アイスピック


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 90




名前 デイモン

種族 ヒューマン

称号 ダッシュウッド辺境伯次男

レベル 172


HP 1,000

MP 14,200

POW 100

INT 1,420

AGI 100

DEX 100


属性 土


スキル

身体強化Lv2

剣術Lv2

鋭敏Lv1

ロックウォールLv10

ゴーレム作成Lv10


E 鋼の剣

E 鋼の軽鎧

E 鋼の丸盾ラウンドシールド

E 銀のボリュームリング(効果無し)

E 刺繍のマント(防寒効果弱)

アイスピック


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 790


スキルの種子12個(計240P)使用済み




名前 エリオット

種族 ヒューマン

称号 エフィンジャー子爵次男

レベル 172


HP 1,000

MP 5,200

POW 100

INT520

AGI 100

DEX 1,000


属性 闇


スキル

杖術Lv2

幻惑Lv10

マジックドレインLv10

暗黒の雷Lv10


E オリパンダーの杖

E 魔力糸のローブ

E 銀のモノクル(効果無し)

E 蛇のロザリオ(効果無し)

E 指抜き手袋(効果無し)

E 刺繍のマント(防寒効果弱)

アイスピック


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 40




名前 セシリー

種族 ヒューマン

称号 貴族学院特待生

レベル 159


HP 1,000

MP 12,900

POW 100

INT 1,290

AGI 100

DEX 100


属性 光


スキル

ヒールLv10

ホーリーレイLv10

キュアーLv9


E 学生服

アイスピック


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 40




 もうみんなすっかり緊張感もなく、ブンカーが第二の我が家のようになっている。長期間潜伏できるようにデザインされているおかげで、簡単な水回りも用意されているし、ちょっとしたティーセットなんかも閣下のゴーレム馬車で運びたい放題である。


 そんな閣下は、剣で身を立てることをすっかり諦め、今はゴーレムをるのにハマっている。ゴーレムはレベル9で一人乗り、レベル10で全員が乗り込める、合体ロボのようなものが作れるようになるのだが、これが彼のハートを鷲掴み。しかし如何せん、ゴーレム馬車と違って揺れが激しくて乗り心地が悪いので、パーティーメンバーに著しく不評。搭乗用ゴーレムは、もっぱら彼専用のおもちゃと化している。


 一方エリオットうじは、念願の暗黒のいかづちを取ってご機嫌である。時々、格好いいポーズとセリフを考えついては、ブンカーの外で「その目に焼き付けるがいい」とか言いながら、雷を試射している。なお、以前「DEXきようさを上げましょう」と言ったまま、彼のDEXが1,000到達目前になるまで忘れていた。とりあえず愛想笑いで誤魔化して、他のパラメータと共にキリのいいところまで上げ、後はINTかしこさに振ってもらっている。期せずしてDEXお化けが出来てしまったが、見なかったことにしよう。


 ブリジットは、ファイアボールとファイアエンチャント、炎の羽衣を取ってしまって、現在手持ち無沙汰である。前衛で活躍するなら炎系の大魔法も必要ないし、ファイアボールもレベルマックスにすると、フェニックスの形になって飛んで行って、結構な威力になる。そもそもラスボス戦では、範囲攻撃は必要ない、結局このファイアボールの強いのが一番コスパの良い攻撃手段なのだ。後は学園にいる間に、取れるスキルを全部レベル1で取っちゃって、卒業後に好きなの上げたらいいんじゃないの、っていう話になっている。


 セシリーはすっかりこの状況に馴染み、受け入れている。なんせ放課後と週末に手ぶらでついて来れば、レベルは上がるし破格の小遣い稼ぎにもなる。行き帰り、ゴーレム馬車で蹴散らした分のドロップだけでも、一人数万ゴールドも得られるのに、オークションに出したら何億ゴールドもするというスキルの種子が、1日に何個もドロップする。これはパーティー解散の際、みんなで等分することになっている。これを売るだけで、もう孫子まごこの代まで遊んで暮らせるだろう。ただ、それを持っていると知られたら、確実に命を狙われるのではないかというのが、彼女の現在のもっぱらの悩みである。


 私はというと、あれから多少他のパラメータにもポイントを振りはしたものの、後は相変わらずAGIすばやさに全投入である。お陰様でAGIは1,400を超え、アクセラレイトを使うと余裕の一万オーバー。今でははぐれさえも止まって見える。お気づきかもしれないが、他のメンバーのAGIも100まで上げてもらって、全員にアクセラレイトを掛け、アイス狩りに付き合ってもらったこともあったが、結局私一人でポップするアイスたちを全て討ち漏らしなく刈り取れるようになってしまったため、アイス狩り協力隊は解散となった。以前と同じく、ソロで外に出て行っては、アイスを狩って帰ってくる日々である。スキルポイントがダダ余りしているが、まったく使い道に困る。身体強化や短剣術、鞭術べんじゅつでも取るべきだろうか。




 そんなある日、セシリーに呼び止められた。私に話があるという。その日の狩りはお休みだったので、二人でカフェに向かった。セシリーはしばらく深刻な表情で俯いていたが、意を決した様子で顔を上げ、私に切り出した。


「アリスさん、アリスさんは、前世って信じられますか…?」


「え、前世?私前世の記憶あるよ?言ってなかったっけ?」


「はぁ?」


「パーティーのみんなも知ってるよ?」


 あら、言ってなかったっけ。私は前世でこの世界を遊んだ記憶があること。9月のダンジョン氾濫事件をきっかけに、それらを思い出したこと。そして、その物語の主人公は、本来はセシリーであったことなど。


「最初の説明の時に言うとアタマおかしいって思われるかもだから省いたけど、いつか言おうと思って忘れてたよ、ごめんね☆」


 てへぺろ。


「なん…だと…」


「で、前世の話をするっていうことは、セシリーちゃんも何か心当たりあるんだ?」


「実は…」


 セシリーの話によれば、この学園に入学してから、いろいろおかしなことが起こったらしい。例えば入学式の日、落としてもいないハンカチを「落としたぞ」と王太子に声をかけられ、見覚えのないハンカチを渡されたこと。話したこともない宰相の息子にいきなり生徒会に誘われ、バイトが忙しいからと断ると「特待生だからといい気になるな」と因縁をつけられたこと。特に剣術が得意なわけでもないのに、Bクラスと合同の体育で一緒になった騎士団長の息子に「お前なかなかやるな」と絡まれたこと。二年に上がっていきなり、見知らぬ後輩が一年の教室からやってきて、「先輩よろしくおねがいします」と言われ、それが魔術師団長の息子だったこと。


 極め付けは、D組の男爵令嬢があれこれと世話を焼いてくれて、いい友達になれたかと思ったら、ある日いきなり壁ドンして迫られたこと。この学園はおかしい。もう恐ろしくて恐ろしくて、ずっと息を潜めて生活していたとのこと。


「普通ではありえないことがたくさん起きて、もう逃げたくて逃げたくて仕方なかったんですけど、あれ、これって姉貴がやってたゲームに似てるなって…」


「お姉さんいらしたんだ?」


「はい。姉貴がこういうゲーム好きで。あ、俺、鈴木裕貴すずきゆうきって言います」


 まさかの中身男の子。そりゃあ、恋愛も始まらんわ。


 私は、このゲームについてまとめたノートがカバンに入っていたことを思い出し、しばらく前にパーティーメンバーに話したのと同じことを、セシリーにも説明した。


「ラブきゅん…学園…」


 閣下と同じ反応である。


「まさかとは思ってたんですよ…デイモン様のあだ名が憤怒マッド・デイモンだったり、エリオット様の杖がオリ『パ』ンダーの杖だったり、剣に火属性付与してレーヴァテインて呼んだり…。どっかで聞いたことがあると思ったら」


「あ、ごめん。それ全部私発信」


「おめぇよぉ!」


 お、裕貴君の地が出た。

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