第8話 ラブきゅん学園
「
デイモン閣下は溜息をついた。
「ですが、アリス嬢の異常に詳細なダンジョン攻略知識を考えると、あながち空想とも思えません」
「私もお嬢様の頭がどうにかしちゃったと思ったんですけど、木曜日までに本当に100万ゴールド貯めちゃったし、もう信じるしかないかなーって」
「ならばその、物語の詳細と、これからの流れを聞かなければなるまい」
「えっ、お力添え頂けるんですかぁ?」
もう頭数に織り込み済みだが一応、顎に両拳を添えて「やだぁ素敵ぃ、きゅる〜ん♡」というポーズを取ってみる。お約束である。
「魔王が復活してこの国全体の脅威になるならば、我々とてみすみす看過するわけには行かん」
「私たちが然るべき手順で相応の能力を身につけた暁には、倒せる相手なんですよね?」
「うーん、伝説の武器防具と禁呪なしでどこまで行けるか分かんないんだけど、レベルとスキル上げまくったら何とかならないかな〜って思うんですよね〜。あとやっぱりどうしても、ヒーラーが欲しいんですけど、誰か入ってくれないかな〜って。」
「ヒーラーか…」
「とにかく、物語についてはザッとレポート書いて来ますんで、後日ご報告しますね。とりあえず、しばらくの間は私たちと一緒にレベル上げにご同行いただけるということで」
「うむ、それはこちらからお願いしたいところだ」
「よろしくお願いいたします」
「なら、ブリジットが火属性のスキルを取得次第、すぐに上級に向かいますので、防寒着をご用意くださいね!」
「「「上級だと(ですって)!!!」」」
お時間なので解散して帰って来たが、ブリジットはまだブツクサ言っている。
「こないだ中級から始めたと思ったら上級なんて、お嬢様ホント頭おかしいんじゃ」
「何言ってんのよ、美味しい敵が周回できるんなら、中級で稼ぎ続ける必要なんてないでしょ」
「そうですけどぉ!」
「まあ、中級よりも楽に狩が出来るところがあんのよ。まーかせて!」
「また出た、まーかせて」
「イライラするとお肌の敵よ。寝ましょ」
考えたって仕方のないことは考えないのだ。
火曜日から木曜日も攻略をお休みして、火曜日は防寒装備の準備を、水木は私の知る乙女ゲーの物語の説明をするために、大まかなレジュメを用意した。
水曜日、教官に無理を言って、ブリジットに火属性スキルの単位を取らせてもらった。本来は基礎学習に数ヶ月かけてから、実践スキルに進むのだが、ブリジットは私のテキストを見て、二学年のところまで独学で終えている。デイモン閣下の口添えもあり、無事ファイアボールのスキルをゲット。とりあえず、上級攻略に必要なので、レベル5まで上げてもらった。
ブリジットは火属性なので、最初は後衛から固定砲台になってもらおうと思っていたのだが、闇属性の後衛も加入したことだし、何より本人が前に出たがっているようなので、
私はもっぱら
金曜日、サロンを借りてメンバーで集まり、作戦会議を行なった。まずは私の知る、この物語についての報告からである。
・この物語は、「ラブきゅん学園♡愛の魔王討伐大作戦♡」というタイトルであること
・物語の主人公は光属性の平民で、一学年上の王太子、宰相の息子、一学年下の宮廷魔術師団の団長の息子、同学年の騎士団長の息子、同じく同学年の隠しキャラのいずれかと恋仲になり、共に魔王を討伐する流れであること
・魔王を倒すために、高位貴族の特権を使って禁書を読んだり宝物庫から国宝を持ち出したりして、魔王を倒す準備をすること
・魔王は来年の12月に復活すること
・魔王復活の前兆として、先日の学園のダンジョンの氾濫が起きたということ
「ここまでで何か質問は?」
「ラブきゅん…学園…」
「平民が王太子と恋仲とかありえないでしょう!」
「そういう物語ですから」
「だが今のところ誰もそんな兆しは」
「だから問題なのです」
氾濫が起きた時、違和感を感じて色々思い出したはいいものの、思い出した時には既に二年の九月、もう誰かといい感じで恋仲になっていなければならない。そうでなければ、誰も魔王の復活に気づいて討伐に向かわないのだ。まだ死にたくないなら、覚えている私がやるしかない。それでブリジットを学園に送り込み、スキルを覚えさせて、とりあえず二人から討伐を始めようかと
「ひっどいでしょー、うちのお嬢様」
「そんな理由で侍女を編入させたかったとか」
「ぼっちなんだから仕方ありません。そもそもブリジットを含めて誰も信じてくれませんでしたし」
「そのほかに覚えている情報はあるか?」
・パーティーは最大6人まで、6人フルメンバーで伝説の武器防具を装備して、聖女として覚醒して禁呪を用いて、だいたいレベル50で魔王を倒せる
・主人公とパートナーの二人だけで攻略することもできるが、伝説の武器防具と禁呪を使ってレベル80は必要である(攻略メンバーが減ると魔王の能力値に制限がかかる安心設計)
・伝説の武器防具を手に入れないとストーリーが進まないので、ぶっちゃけ武器防具なしでどれだけレベル上げたら勝てるかは未知数
・プレイした限りでは、レベルの上限は99ではなかったが、育成時間が足りず、どこまで育てられるかは不明
「…我々は1回の狩で、レベル15から20を超えてしまったが」
「乙女ゲームは恋愛攻略も大変なんですよ、色々イベントこなさないといけないんで」
なお、
・王太子とのトゥルーエンドは、婚約者の公爵令嬢を押し退けて王妃に、バッドエンドは塔に押し込められて監禁ヤンデレ
・宰相の息子とのトゥルーエンドは、周囲の反対を押し切って二人で海の向こうへ留学に、バッドエンドは婚約者の令嬢に嵌められて修道院へ
・宮廷魔術師団団長息子とのトゥルーエンドは、共に翼竜に乗って冒険者になって共に旅立ち、バッドエンドは婚約者のメンタルが病んで「君とはずっと友達で」
・騎士団長の息子とのトゥルーエンドは、二人は結婚して騎士団長と聖女としてこの国を末長く守りました、バッドエンドは息子が鈍すぎてそのまま婚約者とゴールイン、主人公は聖女として一生独身で彼らを見守りました
・隠しルートは親友ルート、親友だと思っていた男爵令嬢が実は魔王の手先のインキュバス、トゥルーエンドはインキュバスが主人公にほだされて、魔王を倒すのに加担したせいで魔王の死と共に消滅、バッドエンドは魔王の元にスカウトされて魔王軍へ、この世界は阿鼻叫喚だけど二人は幸せに暮らしましたとさ
「なんか最後すっごい情報ブッ込んで来なかったか?!」
「私が考えたんじゃありません、こういうゲームなんで」
「殿下の性癖なんて聞きたくなかった…」
「いやこういうゲームなんで」
「っていうか、この学園に魔族が入り込んでるとか、危険極まりないじゃないか!」
「いや危険っていうか、既に宮廷にも何人か、教師の中にも2人ほど紛れてますし」
「「「なんだってーーー!!!」」」
「だってほら、紛れてなかったらダンジョンコアの異常とか起こせないですし」
3人とも真っ白になって押し黙ってしまった。軽い気持ちで話の流れを聞いたつもりが、聞くんじゃなかった感満載である。
「そ、その先生方っていうのは…」
「安心してください、みんな下級魔族なんで、魔王倒したら全部消えますよ」
その、「履いてますよ」みたいなノリで安心を主張するのはやめてほしい。みんな、エラい話に乗ってしまったと俯くのであった。
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