第4話 接待パワーレベリング(1)
デイモン様の出した条件というのは、私たちのパワーレベリングに、自分たちも同行させろということだった。我々学園生は、学園内の実習用ダンジョンのみならず、近隣のダンジョンに潜入することが認められている。ある者は学費を稼ぎに、ある者はちょっとした小遣い稼ぎに、ある者は出世を見込んで鍛錬に。実に学園生の3人に1人は、冒険者ギルドで冒険者登録をして、王都付近の初級ダンジョンから挑んで行く。もちろん中級ダンジョンにまで挑戦する者も、いなくはない。
だが、女学生2人でいきなり中級に潜り、同じ魔物を大量に狩って来て大金を稼いだ例は存在しない。しかも、これまで学園のダンジョンでさえまともに入ったことがない生徒だというではないか。
この子女たちは、一体どんな攻略をしているのか。侍女を学ばせてやりたいという動機はわからなくもないが、学ばせて何がしたいのか。何が彼女らをこんなに突き動かすのか。大量の
私たちとしても、彼らの申し出は渡りに船であった。一つの賭けではあるが、もし彼らが私たちの事情を知って、魔王攻略の味方になってくれるなら、こんなに心強いことはない。なんせメンツが足りないのだ。普通、パーティーは最大6人まで組めるのだが、少なくとも4人は欲しいところである。デイモン様と、側近のエフィンジャー子爵のご子息、エリオット様だったか。彼ら、権力も財力もあるし、ここで強さの秘訣と引き換えに、抱き込んでしまえばいいのではないだろうか。
お互い腹を探り合いながら、結局週末に一緒に中級ダンジョンに潜ることになった。私たちは週末まで休んでいられないので、平日も放課後中級ダンジョンに挑むことにした。ブリジットの入学については、デイモン様に仲介していただくことにより、無事に手続きが完了して、来週から学園生として学園に通うことになったが、入学金と学費を肩代わりしてもらったままではよろしくない。デイモン様は返さなくていいと言ったが、借りを作ったままだと後からどんな要求をされるか分からない。貴族は怖いのだ。「返さなくていいって言われてんだからいいじゃないですかぁ」などと駄々をこねるブリジットに、強くなればなるほど旨味のある狩が出来るよと吹き込んだら、目を金貨マークにして冒険の準備を始めた。嘘は言っていない。戦闘の難易度がどんどん上がるだけで。
とにかく、月曜日はカマキリを狩って狩って、翌日の火曜日もカマキリを狩って狩って、ドロップ品のカマキリの鎌を冒険者ギルドに持ち込んでいると、さすがにもう通常価格では買い取れないとのことで、カマキリ狩りはこれで終了。残念。だがこのタイミングで、ちょうどレベルが上がって、取得できたスキルがある。風属性のスキル、
スカイウォークとは、読んで字のごとく、空中に足場を作って移動できるスキルである。ゲームの作中では、キャラクターが三角飛びするエフェクトが出て、一定時間命中率二倍、飛行型モンスターにはさらに攻撃力が二倍になる効果がある。さっそく、飛行型モンスターを狩りに行って、その効果を試してみなければなるまい。
果たして、スカイウォークは驚くべき真価を発揮した。極振りした
一方、私の狩りについて来るだけだったブリジットも、能力値が上がって行くにつれ、戦いに参加したがるようになった。コウモリを狩るのに使っていた槍を渡すと、時々投げてハーピーなんかを落としている。デイモン様に借金を返し終えたら、彼女の装備も良いやつに換えて行こう。
多くの冒険者が忌避する飛行型モンスターの素材は品薄で、私たちの持ち込んだ大量のドロップ品は喜んで買い取られた。一体あたりの収入は、カマキリほどではないが、数をこなせばカマキリ狩りと同等かそれ以上の収入になることが分かった。周回速度大事。効率厨の面目躍如である。
順調に経験も積んできたし、そろそろ中級をクリアする段階に入ってもいいかもしれない。6人フルメンバーのパーティーでの適正攻略レベルは30、2人ならば45くらいあれば何とかなるんじゃないだろうか。今のところ、攻撃手段がほぼ私の物理攻撃に限られているので、デイモン様に借金を返し終えたら、グループ攻撃用の武器を入手しよう。来週になればブリジットも入学するし、そうすれば火属性スキルも覚えるだろう。上級ダンジョンには火属性スキル必須なので、彼女に期待する役割は大きい。
水曜、木曜と順調に狩を続けて、私たちの所持金は120万ゴールドを超えた。当初の目標額をクリアできたことで、ようやくブリジットも「一週間で100万ゴールドを稼ぐ」ということが荒唐無稽ではないと確信できたらしい。しかもレベルは私が27、彼女が26である。これからはグッとレベルが上がりにくくなり、敵も強くなっていくが、「これひょっとしてウチら魔王ヤれんじゃね?」という手応えが、彼女の意識を変えていった。結果にコミットする、大事。
金曜日は、買い出しに出かけた。まずは来週から入学するブリジットの学用品。ほとんどのものは学園から支給されるが、こまごまとした私物は自分の好きなものを揃えたいだろう。そして週末のデイモン様たちとの冒険用品。いつも入り切らないドロップ品は背嚢に括り付けて、まるで商人ト○ネコのようないでだちで帰って来る私たちだが、高位貴族の前でそれはマズいだろう。せめてこう、エコバッグみたいなものがないか探して、結局風呂敷を何枚か買ってきた。縛って丸出しよりは、幾分マシなのではないだろうか。
土曜日、寮の正門の前に、辺境伯家の立派な馬車が待っていた。中から無表情のデイモン様と、常に笑顔だけど目が笑ってないエリオット様が降りて来て、私たちをエスコートしようとされたが、店売りの廉価品の革鎧を着た我ら、どうしてその誘いに乗れようか。御者席ですら違和感満載である。だが、その格好で馬車の後を付いて来られるのは余計にまずいということで、私たちは大人しく馬車の中に格納されて行った。
馬車の中はしばし無言だった。ピッカピカの軽鎧に身を包んだデイモン様、目立たない色だが仕立てが良くて丈夫なローブに身を包んだエリオット様。そうそう、貴族って普通こういうもんだよな。でも一方で、私たちがダメかって言うとそうじゃないと思う。自分たちの身の丈に合った、動きやすい装備。あちこち傷が入ってるのは使い込んでる証拠。冒険者ってこういうもんである。
「昨日教務課より、デイモン様へ100万ゴールドの返金がありました」
エリオット様が口を開いた。
「あ、ありがとうございます」
「驚きましたよ、あなた方のようなレディが、こんな短期間で100万ゴールドを本当に稼ぎ出すとは」
「うむ、大儀であった」
「ダッシュウッド様、エフィンジャー様、ありがとうございます」
「良い。それから、デイモン、エリオットで良い」
そんな恐れ多い、と言おうとしたところ、
「こないだからずっと、名前で呼ぶように伝えるにはどうしたらいいか、考えてらしたんですよ。名前で呼んで差し上げてください」
エリオット様が困ったように笑った。仏頂面のデイモン様の頬が、少し赤らんだ気がした。
そこからは、にぎやかな道中になった。ほとんどはエリオット様の問いに対し、私が受け答えする感じだったが、次第にブリジットも加わり、相槌だけだったデイモン様も会話に入って来るようになった。話してみれば、みんな年相応の若者である。そうだよな、なんだかんだ言って、前の世界で言えば高校生だもん。立派そうに見えるけど、上級貴族は上級貴族で、いつも気を張ってないといけないから、大変なんだろうな。
さて、一旦冒険者ギルドで降りてパーティー登録をし、それから中級ダンジョンに向かう。二人とも、私たちに同行を求めておきながら、「本当に中級に行くのか」という顔をしている。中級に行かずして、どこへ行くというのか。もうすぐ上級を目指すんですけど、と言うと、二人とも言葉を失っていた。
そんな彼らのステータスだが、
名前 デイモン
種族 ヒューマン
称号 ダッシュウッド辺境伯次男
レベル 15
HP 500
MP 300
POW 50
INT 30
AGI 35
DEX 35
属性 土
スキル
身体強化Lv2
剣術Lv2
ロックウォールLv3
E 鋼の剣
E 鋼の軽鎧
E 鋼の
ステータスポイント 残り 0
スキルポイント 残り 30
名前 エリオット
種族 ヒューマン
称号 エフィンジャー子爵次男
レベル 14
HP 280
MP 480
POW 28
INT 48
AGI 32
DEX 32
属性 闇
スキル
杖術Lv2
幻惑Lv3
E 水晶の杖
E 魔力糸のローブ
ステータスポイント 残り 0
スキルポイント 残り 50
うん、頑張ってる方だと思う。辺境伯家って軍事力大事だから、彼らも次男とその側近として、真面目にレベルを上げて来たんだろう。武器防具も良いとこのオーダーメイド品っぽい。
一方、私たちのステータスはこんな感じである。
名前 アリス
種族 ヒューマン
称号 アクロイド子爵長女
レベル 27
HP 900
MP 200
POW 90
INT 20
AGI 140
DEX 20
属性 風
スキル
ウィンドカッターLv1
スカイウォークLv3
E 両断の剣
E 革鎧
ステータスポイント 残り 0
スキルポイント 残り 200
名前 ブリジット
種族 ヒューマン
称号 バートン準男爵四女
レベル 26
HP 900
MP 700
POW 90
INT 70
AGI 50
DEX 50
属性 火
スキル
-
E ショートスピア
E 革鎧
E 革の丸盾
ステータスポイント 残り 0
スキルポイント 残り 260
二人とも、欲しいスキルが取得できたら全振りするために、スキルポイントは取ってある。
彼らは、私たちのパーティーに入った途端、自分たちのステータスが見られるようになったこと、いや、ステータスを数値化して見られること自体に、想像以上に驚いていた。そして、私たちのステータスを見て、更に驚いていた。自分たちが長年地道にコツコツ修練を積み重ねて、やっとここまで強くなったのに、この一週間で荒稼ぎしたポッと出の女子が、このステータスである。
しかも、装備は店売りの普及品の革鎧、まともな武器は両断の剣くらい。一体どうやってここまでステータスを上げたのか。いや、このステータスでたった二人で、一体どうやって中級ダンジョンに挑んでいるのか。緊張のためか、考え事のためか、一気に寡黙になった男子組が、意気揚々と迷宮に入る女子組の後を追った。
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