第9話

――あれから数年が経った。



卒業式以来、沙織とは会っていない。連絡先を交換していたはずなのに、それすら使わなかった。でも、別に淋しくはなかった。だって私はもう一人じゃないから……。



「杏奈~~!久しぶりー!」



そう言って私に抱きついてきたのは春香だった。彼女はあの日から私と一緒にいてくれる女子だ。流石にずっとではないけど、学校にいる間は常に一緒にいると言っても過言ではないと思う。



春香はいつも笑顔で明るい性格をしている。そしてとても可愛らしい容姿をしていて、男女問わず人気がある。まぁ……春香は彼氏持ちだからマスコット的な感じだけどね。そして今日は同窓会である。



卒業してから早六年……みんな大人になったんだなぁって実感する。……本当は出席するつもりなかったんだけど、この日は本当に暇だったから来ちゃったんだよねぇ……後、親が行きなさいってうるさかったから仕方なく来たっていう理由もある。



「………春香。久しぶりね」



三年生の頃は春香とクラスが同じだったけど、それ以降は違うクラスになってしまった。だから会う機会もなかったわけだし、こうして会話するのは何年ぶりになるだろうか? そんなことを考えながら、私は春香に微笑みかける。すると春香は満面の笑みを浮かべてこう言った。



「本当にね~~」



「春香ー!」



人気者の春香はたくさんの人が話しかけてくる。それは、見慣れた光景でもあった。昔は少しだけ羨ましく思っていたけども……今は感じない。寧ろ、大変そうだなって思うくらいには成長した気がする。



「(………春香と再会できたし帰ってもいいな……)」



私は基本的にこういう集まりとか好きじゃないし……それに春香以外に会いたい人なんて――。



「………杏奈」



声が聞こえた。その声を聞いた瞬間、私の心臓は大きく跳ね上がる。この声を久しぶりに、聞いた。否、忘れたフリをしていただけだ。だって……この人は……ゆっくりと振り返る。そこには、予想通りの人物が立っていた。



「沙織……」



そこには、予想通りの人物が立っていた。



△▼△▼



「久しぶりね」



「………久しぶりね」



――久しぶりに見た沙織は、相変わらずの美人だった。この六年間、あんまり考えないようにしていた。だって考えたら辛いから。でもやっぱり考えてしまうのだ。



どうしようもないほどに、私は沙織に恋してしまったんだ。



「………あのね、私この六年間、ずっと考えていたの」



不意に沙織が言った。何を、と聞く前に沙織が続けた。



「私ね、杏奈が隣にいないとダメみたい。あなたがいないと何もかもがつまらない。今まで当たり前だと思っていたことが、全然違うものに見えてくるのよ」


「………え?」



思わぬ言葉に戸惑う。

私がいなくても、普通に生活していけるんじゃないのか? 私の疑問を察したように沙織は首を振った。

そして少しだけ寂しげな顔で、言葉を紡ぐ。

その声音はまるで、迷子の子供のようだった。



「私……あんたのこと、好きだわ。話しやすいし一緒にいて楽しかったし。今の職場も嫌いじゃないけど、杏奈と一緒にいた方が楽しいの」



そう言って微笑む沙織。……あぁ、もう本当にズルいなぁ。そんなこと言われたらさ……。

私は思わず俯く。

何て言えばいいか分からなかったから。

嬉しくて泣きそうになるなんて初めて知った。

胸の奥が熱くて痛い。

私は小さく息を吸って吐いてを繰り返して、



「…私も沙織とクラスがバラバラになってから、ずっと考えてたよ。離れていたときに友達は出来たし、それなりに充実しているなって思ってたんだけど……やっぱり沙織が一番話しやすかったよ」



この六年間で友達は出来たし、そこそこ楽しかった。けれど一番の親友は沙織なんだ。

私の言葉を聞いた沙織は一瞬驚いた顔をして、



「私たち同じこと思ってたんだ……」



そう呟いて同時に笑みを浮かべた。何だか可笑しかった。私たちは二人でクスリと笑う。

しばらく笑いあった後、沙織は……



「私たちさぁ……また友達に戻らない?……ダメかな?」



遠慮がちに聞いてきた沙織。不安げな瞳が揺れている。その言葉に対し、



「…私、沙織と友達辞めたつもりはないよ……?そりゃ、疎遠してたし連絡もしなかったけど………」



少しだけショックだ。私は沙織のこと友達だと思っていたのに、沙織の中では違ったんだろうか。

私の答えを聞いて沙織はびっくりしたような顔をした後、すぐに……



「…私と杏奈はまだ友達でいたの?」



「………そのつもりだったわよ」



拗ねたふりをすると、沙織は慌てた様子で何度も謝ってきた。……ちょっと意地悪をしたかっただけだなのに、そんな必死にならなくていいのに。何だか、それが可笑しくて吹き出してしまう。それを見た沙織もつられて笑った。……何年ぶりだろう。こんな風に笑ったのは。



「あはは……可笑しい……!ふふっ……うん。友達……になろう!」  



そう言って差し出された手を私は握り返す。

久しぶりに握った手は暖かくて柔らかくて安心する手だった。……きっとこれから先、沙織とは沢山喧嘩をすると思う。でも最後には仲直りをして笑い合える気がした。

だって私たちは親友だから――。

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