第6話

あれから私は沙織と一緒にいるのをなるべく避けていた。なるべく、私は沙織と接触を避ける。でも、沙織に不信感を与えないように。



幸い、進級してクラスが離れ離れになったし、沙織と会う時間も少なくなったし。それに――。



「杏奈ー!お昼、一緒に食べようー!」



そう言って教室の入り口で私を呼ぶのは沙織だ。……沙織は変わらない。あの日以来、彼氏は変わっていないらしく、ずっと付き合っているらしい。



いつも別れているのを繰り返していたのに今は長く続いているようだ。そのことに安心したし、同時に嫉妬もしたし、何とも言えない気持ちにもなった。



沙織も今の彼氏に本気みたいだし。……だから最近お弁当を食べる時間も減っていたというのに……



「……今日はいいの?彼氏」



「うん!なんか用事があるんだってー」



サラリと答える沙織。……こういうところは相変わらずだなと思う。本当に沙織は変わらない。



「じゃあ、食べよっか?」



そう言って沙織は笑う。私は少しため息をつきながらもお弁当を広げていく。沙織も同じように広げた。……昔と変わらない関係でいらていることが嬉しい反面、寂しくもある。



「ねぇ。久しぶりにおかず交換しない?」



久しぶりのお弁当の交換に私は承諾すると、沙織は嬉しそうに頷く。そして、お互いにお弁当を差し出した――。




△▼△▼



放課後。私は教室の窓を見る。そこには、沙織と彼氏がいる。……最近、この二人を見ても何にも感情が出なくなっていた。極端な話で、慣れてしまったのだ。

 


好きという気持ちに踏ん切りがついたのだろうか。……それとも、諦めたのか。わからない。それでも――。



「(……馬鹿馬鹿しいや)」



そう思いながら、ため息を吐く。もう、どうでもいい。私は鞄を持って席を立ちながら――。



「杏奈ー。帰ろー」



声が聞こえてくる。これは沙織の声ではなく――。



「……ええ。春香」



……私でも、新しい友達が出来たから。だから、もう――。



「(寂しくないよ……)」



と、私は心の中で呟いた。



△▼△▼


もう、私は独りじゃない。沙織だけに依存していたあの頃とは違う。今じゃ、友達が出来たし……二年の頃じゃ絶対に考えられようなことを今私はしている。それが凄く楽しい。



沙織に彼氏が出来て、沙織の恋心を自覚して。そして、沙織を諦めるって決めたあの日からずっと私の中にあったモヤモヤした気持ちは消えていった。



沙織以外の友達とも、今は楽しく話せるようになったし……でも――。



「杏奈ー!」



沙織の声が聞こえてくる。……また、胸の奥が痛くなる。だけど、それを顔には出さないようにして――。



「沙織。一緒に帰りましょう」



私は笑顔で答えた。



△▼△▼



たわいもない話をしながら歩いていく。話の内容は……いつも通り、昨日見たテレビとか、雑誌の話だ。

本当につまらない内容。……だけど、それは私にとって大切な時間だった。



「それでね、最近、彼氏からプレゼント貰ったんだ~!」



嬉しそうに話す沙織を見て、またチクリと心が傷む。……ダメだなぁ……。こんなんじゃいけないのに。

もっと、笑わなくちゃ。だって、私は沙織の親友なんだから。



「良かったわね」



「うん! これ、ペアリングなんだけどさ……」



――沙織も変わった。今は一途になっているし、何より……幸せそうだ。だから、見ていると、胸が痛くなる。沙織の隣にいるのは私じゃない。その事実をまざまざと思い知らされているようで……。



――それでもいい。この時間が続けば、それでいい。……そんなことばかり考えている。私が今一番恐れているのは、沙織との関係が崩れてしまうことだ。今の幸せな時間は、私が望んでいるものだから。



――君に好きな人がいても、私は君の隣で息を吸おう。それが私の生きがいであり、幸せでもあるから。



「(……隣で、笑いたい)」



いつか来るでろうその時まで、私は笑っていよう。……私には……それしか出来ないから――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る