第8話『ほぅら入った、まだ入るだろ?』





 第八話『ほぅら入った、まだ入るだろ?』





 う~んムニャムニャ、もうお腹一杯だお……


 ウプッ、いやマジ、お腹一杯で……


 ウププッ、ちょ待てよ、もう食えないって言って――



 息苦しさで目を覚ます赤ちゃんな俺。

 そんな俺の視界に入ったのは笑顔のお姉様、ではなく……


 クッソデカい昆虫の顔だった。

 体全体は成人男性ほど大きさか?


 ウソやろ……


 素早く視線を走らせ周囲を確認。


 俺は寝かされ土色の壁に囲まれている、出口は昆虫が居る一ヵ所のみ、逃げ場は無い。


 昆虫はその巨大な複眼で俺を見つめている、その容姿をよく見れば蜂だ。


 すると、俺が居る場所は蜂の巣か?

 僕はエサになってしまうなの?


 そんな考えが浮かんだ折り、入口の端からお姉様達がヒョッコリ顔を出した。


 他の兄弟や悪霊キッズも皆ニコニコ笑っている、狂人かな? 何が楽しいの?


 蜂にはお姉様達が見えていないのか、彼女らを無視して俺にその巨大な牙を寄せた。


 身構える俺、口からドロリと何かを吐き出し俺の顔に垂らす蜂。


 やめろアホと藻掻もがく俺。

 息苦しさでついその液体を呑み込んでしまう。


 ッッ!!


 ほんのり甘いソレを飲み干す俺。腹がパンパンだ、寝苦しさを招いた正体はコレだったか……


 液体を飲み干した俺を見届けた蜂は立ち去った。

 何だったんだ……?


 蜂の行動に困惑しつつ、顔や手に付いた液体にウンザリしていると、四姉弟の背後から悪霊キッズがワラワラ出て来て、穴の中に居る俺に群がった。


 何だ何だと思っていると、キッズの一人が俺の手を取り自分の口に運んでパクリと加えた。えぇぇ……


 そしてペロペロ舐め始める。


 あぁ、この謎液が欲しいのか。

 甘いからなぁ……しょうがない。


 次々に俺の顔や手を舐め始めるキッズ。


 ところで、君達はいつの間に実体化を?


 あ、俺が持ってた大きい魔石が二つとも空っぽ状態で頭の横に置いてある。


 なるほど、摘まみ食いしたんですね。

 悪魔までもうチョイってところかな?

 じゃぁ好きなだけ摘まみ食いすればいいじゃない。


 君達は俺が立派な悪魔に育ててあげよう。あ、君、そこに謎液は掛かっていない、変な液は出るが今は出ない、いいね?


 キッズにペロペロされながらお姉様に視線を送る。

 現状を説明して下さい。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ふむふむ、なるほどなるほど……


 つまり、人里を離れる→魔物がむ森に行こうぜ、メシは何とかなるさ、と?


 なるほど、一理……無いな、無いわ~。


 無いわ~、人里とは違う意味で危険度が増すわ~。

 バクチ打ちすぎやわ~……


 え? 俺達が住んでいた孤児院の近くに森が在るし人の目を避けて素早く移動出来たから?


 う~ん、そう言われると……有りかな?

 確かに『住』は手に入れた、でも『衣食』がなぁ……


 え? 蜂の魔物が用意してくれる? 賭けに勝った?


 何故、あの凄惨な悪魔の孤児院から逃げる緊急の家探やさがし状況で賭けに出ようと思ったのか……いや、緊急なら賭けに出るか……


 で、服とメシはどうするって?


 幼蟲が吐いた糸でグルグル巻きにすれば服になる?

 赤ん坊のうちはさっきの謎液が有るから大丈夫?


 いや君らの頭は大丈夫?

 まぁ服はそれで良いけど、あの液は何なの?


 いや待って、そもそも何で蜂は俺のお世話してくれてんの?


 はぁ? 巣の周囲を警戒していた兵隊蜂が、高魔力の俺を幼蟲と勘違いして、森を歩いていたお姉様から優しく取り上げた?


 いやそれ危険だったんじゃ?


 害意は無いようだったので任せてみた(キリッ)って言われても……その賭け要る?


 悪魔の直感か何かかな? 信用し辛い直感ですねぇ……


 それで、俺はそのまま他の幼蟲達と同じようにこの穴に入れられて、早速エサを与えられたと、ふぅ~ん。


 え? でも俺だけ他の幼蟲とは与えられたエサが違う?

 他の幼蟲は口から吐き出した肉団子なのに俺だけ謎液?

 ミツバチとスズメバチが同居してんのかな?


 う~ん、ひょっとすると謎液ってローヤルゼリーなのでは?


 すると俺はポコチン有るけど女王候補か、それとも王配候補か?


 いずれにせよ好待遇と特殊な育成環境を与えられたのは変わらんが、まだ断定は出来んので観察は必要か。警戒はお姉様達に頼みます。


 それじゃぁ俺は眠くなったので寝ますね。

 魔石を両手に持って、お休みなさい。


 あ、そうだ子供達よ、寝ている私の体に触れてMPを摘まみ食いしなさい、もう枯渇はしない自信が有ります。


 魔石が満タンになってもMPにまだまだ余裕が有るからね。


 じゃぁ本当にお休みなさい……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ウッ……、君、何度も言うがそこに謎液は掛かっていない、いいね?


 一応君も僕のお姉ちゃんだからね?

 解った? 大丈夫?


 悪魔少女の一人によって毎回爽やかな目覚めを体験する俺、蜂の巣に引っ越して今日で何日目だろうか、十日は経ったように思うが太陽の動きが判らないこの場所では正確な日時は確認出来ない。


 巣の中が薄っすらと明るい不思議現象も時間の感覚を狂わせる要因の一つだ。


 俺の顔をペロペロ舐める子供達の容姿が変化していくのは、俺が時間の経過を感じる数少ない手段と言っても良い。


 今ではみんな四姉弟と同じような悪魔スタイルになっている。多少はその成長度合いに違いは見えるが、全員が日本にける中学生以上の体格となった。


 男子は全員口と鼻は無いが、白髪を結い上げているは男女共に同じ、また、眼孔が黒い渦になってでクルクル回っているのも同じ。



 時間の経過を感じると言えば、俺をお世話する働き蜂数匹の体色が、何故か黒っぽくなった。しかも、俺の伝えたい事が解かる模様。


 これはテイマールート来たか?

 異世界転生最強格のテイマー来ちゃいましたかぁ~?


 などと考えている俺を余所よそに、悪魔っ子達はその黒っぽくなった蜂に憑依する遊びを覚えた。斬新な遊び過ぎて僕は困惑。


 最近は憑依したまま森を飛び回って探検するのが楽しいらしい。まぁ面白そうではあるな。


 この数日間でお世話係の蜂以外を観察していたが、特に何の問題も無かった。むしろ大事にされている事を理解したほどだ。


 お姉様達も居るし、黒っぽい蜂の数も徐々に増えている、この巣に棲む蜂を警戒する事は無くなった。


 だが油断は禁物だ、魔石鍛錬はほどほどにして悪魔キッズにMPをこう。


 彼らの成長を促すにあたって一先ずの目標はお姉様達との会話だな。成長して話せるようになるかは知らんが。


 蜂のテイムも積極的に行いたいが、このテイムと思しき状況は俺の魔力にてられたからなのか、お姉様達の黒い瘴気が原因か、観察が必要だ。


 いずれ時間が経てばこの巣に棲む蜂を全て黒く染め上げられると信じたい。


 あ、そうだ、取り敢えず一回だけお世話係さんにMPを注いでみるか。


 丁度良いところに、本日三度目のエサを持って来たお世話係さんが……君、ちょっと来たまえ、そう、そこでジッとして――


 ソイヤーーーッ!!


 ほぅら、まだ入るんだろ、ドクドク入ってるぜぇ、ローヤルゼリーのお蔭で何か溜まってる感じなんだ、ハァハァ、おいおいアヘ顔晒すのはまだ早いぜ?


 本番はこれからだっ……

 ソイヤッ、ソイヤッ、イッけーーーっ!!



 …………ふぅ、俺色まっくろに染まったな。


 真っ黒だ、真っ黒だよ……

 ………………君は蜂? ハエじゃないよね?






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