第7話『次はオマエダ』





 第七話『次はオマエダ』





 逃亡を計ると思われる悪女、そんな悪女の首に『やっぱそれ地獄で買ったんだよね?』と聞きたくなる凄いナイフを当てるお姉様が俺を見ている。目は黒い渦だが見ている。


 ふぅ……

 もうっちまって良いスよとうなずきそうになる。


 他のブラザーズも限界っぽいな。俺も限界です。

 宜しい、ならば逃亡先の確保だ。殺即離脱でいこう。


 逃亡先を確保したのち、次の来客と共に始末しよう。逃亡先は先行して三兄弟が見つけてクレメンス。町や村以外が望ましい。


 町や村以外って言うから大都市にしましたーっ!! とかは勘弁して下さい、洞窟とかいいですな。フリじゃないですからね、人が居ない場所でオナシャス。


 そんな意思を姉弟達に伝えると、四人は歓喜の暗黒オーラを放出した。ヤメテ下さい周囲の子供幽霊達が瘴気にてられて悪霊になったじゃないですかヤダー。


 俺の左手に布を巻いていた悪女がガタガタ震えて半泣きになり、俺に汚い愛想笑いを向けた。


 それを見ていたお姉様が悪女の耳元で何か囁く。呪いの言葉だろうか、悪女が白目を剥いて倒れた。


 失禁して気絶している悪女の髪をヤンチャな悪魔三兄弟がムンズと掴み、部屋の外へ引き摺って行く。


 屠殺場のワンシーンにしか見えない。

 悪霊キッズも後を追った。

 あの子達も俺達と一緒にここを離れそうだな……


 悪女屠殺後、ブラザーズ達はそのまま逃亡先を探しに行くようだとお姉様が伝えてきた。やはり悪霊キッズも同行するらしい。


 悪女が溜め込んだ金銭等は四姉弟の暗黒空間的な場所に保管するとの事。亜空間収納的なアレだろうか、便利だな。



 もう誰かの目を気にする必要がなくなったお姉様が俺をヒョイと抱っこして揺らし、四ヵ月ほど過ごしたこの汚部屋から出してくれた。


 お姉様は向かいの部屋に入ると迷い無く化粧台に近付き、その化粧台に立て掛けてある小汚い鏡に俺を映した。


 なるほど、俺は金髪だったのか、黒髪だと思っていた。瞳は青いな、なかなかの男前だ。


 俺は自分の容姿を見せてくれたお姉様に礼を伝えた。お姉様は微笑むと俺の頬お一撫でして部屋を出た。


 次はどこへ行くのだろうか?


 お姉様は薄暗い廊下を音も無く歩き、突き当りの部屋へ入る。


 ……あぁ、ここは屠殺場か。


 皮を剥ぎ取られた血まみれの物体が俺を見て泣き叫び、必死で何かを伝えてきた。


 恐ろしいか? 空中に浮かぶ赤ん坊は。

 恐ろしいか? 見えない何かに皮を剥がれて。


 その物体が俺の方へ両手を突き出し、必死で何かを語りながら許しを請うような仕草を見せた。


 だがスマンな、俺こっちの言葉が解かんねぇんだ。


 物体への興味を失った俺を再び揺らし始めるお姉様は、物体の叫び声を無視して屠殺場を出た。


 程良い揺れに俺の目蓋まぶたが重くなる。


 このまま寝てしまおう。要注意人物が消えた家で寝るのは初めてだ、眠りの深さが違うかもしれんな。


 起きたら両手の魔石は完成して……もうノルマは無いんだった、でも鍛錬になるから良いや。


 ではお姉様、お休みなさい。


 あ、胸の谷間に俺の顔を埋ずめるのヤメテもらっていいスか?

 息が出来――……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 悪女を始末し、時々この家に訪れるクズも消す為に穏やかな数日を過ごす。悪辣な家の主が消えたので自由度は増した。


 男悪魔三兄弟は悪霊キッズと共に新居を探す日々、お姉様はひたすら俺を甘やかしていた。


 このままこの家で静かに暮らせれば何の問題も無い、が、そうはいかない。


 悪女と繋がりが有る客をまだ仕留めていない、殺即離脱の計画はついえた。


 そんなモヤモヤした生活を送っていたある日、ようやく事態が動き出した。


 悪女をブッ殺して一ヵ月ほど経った頃だろうか、何やら符牒ふちょうらしき文字が並べられた紙切れが玄関のドアに挟まっていた。


 俺にはその内容が読めなかったが、お姉様が『時候の挨拶』的なモノだと教えてくれた。


 こんな紙切れに?

 バカかよ。


 翌日の深夜、『ココン、コン、コン』と玄関の扉を叩く音が聞こえた。


 悪魔三兄弟の次男坊が姿を隠して扉を開ける。


 扉の向こうには陰気な顔の小男。そいつは植物のツルで出来た編み籠を右手に持っていた。


 殺意が湧く。


 誰も居ないのに開いた扉をいぶかしみつつ、男はソロリと家に入る。


 さぁ狩りの時間だ。


 姿を消したままの悪魔次男坊が男から籠を奪う。


 仰天して固まる外道。


 宙に浮いた状態の俺が廊下の暗闇から出現。

 驚きの余り腰を抜かすアホ。


 悪魔四姉弟が男の周囲を囲み、その恐ろしい姿を現す。

 ついでに悪霊キッズも出現して男の頭上を飛び回る。


 男はついに失禁した。気絶しなかったのは褒めてやろう。


 だが、今から奴に訪れる凄惨な責め苦を考えれば、気絶を通り越してショック死していた方が良かったかもしれない。


 次男坊がお姉様に籠を渡し、三男が男の首を掴み持ち上げ、長男が俺とお姉様以外の皆を引き連れ屠殺部屋に向かった。


 俺は籠の中を覗く。

 小さな、とても小さな赤ん坊が入っていた。


 あぁ、分かる、この子も俺達と血が繋がっている。


 スヤスヤ眠るその子の頬に手を伸ばし、軽く撫でた。

 もう大丈夫だ、お兄ちゃん達がお前を護ってやる……



 暗い廊下の奥から、苦痛に満ちた絶叫が響いた。


 ゴミクズにしては良い声で鳴きやがる。







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