第5話『私も同じ気持ちですっ!!』





 第五話『私も同じ気持ちですっ!!』





 幽霊少女にMPを流したまま眠り、昼過ぎに目覚める予定だったが起きたのは夜だった、少し寝過ごしたようだ。


 MPは全快……してないな?

 体の調子も……良くはないな?

 しかし今夜はやけに……暗いな?


 ん?

 何だ……?


 何故だか右手に冷気を感じた為、その手を見る。


 アレレ~、おっかしいぃぞぉ?


 幽霊少女ではない誰かが俺の手を掴んでいる……

 クッ、暗い室内では手掴み犯を視認し辛い……


 ヤツか、あのクソビッチなのかっ!?

 何で夜中にヤツが……!?


 クスクスと女性の笑い声が聞こえる。


 おや? あのクソの声ではない……?


 俺は右手を掴むその手を辿りながら視線を上げる、だが暗闇が邪魔をする。いや待て、それにしても闇が濃くないか?


 一旦目を閉じ暗闇に目を慣らし、また開いて再び視線を上げる。やはり暗すぎる……が、先ほどより視界はマシになった。


 目を凝らして謎の人物を見上げていく。


 黒い衣装だ。なかなか意匠が凝っているな。

 この服は薄い革製だろうか、やたらつやが有る。


 俺の視線は相手の胸元に到達した、胸が大きく膨らんでいる、笑い声で察していたが大人と思しき女性だ、ヤツは腰を屈めている。


 それは俺の寝床を覗き込んでいる体勢だ。

 何コレ怖い……


 俺はゴクリとツバを呑み込む。

 視線をあと少し上げればツラが拝める……。


 ……脱糞覚悟で視線を上へ移した。


 女の衣装はタイトで、首元までしっかり包んでいる。その首から細いアゴ、そして赤い唇へ視線を上げ、ついに女の視線と俺の視線が交差……しなかった。


 女の目は……えぇぇ……


 眼球が無い。眼孔の中は何かが黒く渦巻いている。


 ウソやろ……って、あっンフゥ……


 ブリブリッ!!


 俺の驚きに赤ん坊の体は耐えきれず、脱糞はすみやかに行われた。俺はその不快な音と香りを誤魔化す為にニッコリと微笑んだ。


 まさに『ブリッ子』である。やかましいわっ!!


 そんなブリッ子たる俺の顔を、女は優しく撫でた。ビクっとする俺を更なるブリッ子にしたのは言うまでもない。


 下半身からブリブリという音を聞きながら、俺は撫でられた心地良さで眠らされた。エナジードレインかな?



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ほぼ無理やり眠らされたが、そのお陰で落ち着いた俺は目覚めると自身の無事を確認した後、『まだるんかーい』とすぐ横に立つ女の存在を認識し白目を剥く。


 しかし、俺が起きても女は何もしない。

 女は優し気にニコリと笑うだけだ。


 なので、いつまで経っても俺から離れない黒衣の女を観察する事にした。って言うか女が白髪を後頭部で結い上げた髪型だった事をこの時知った。



 観察の結果、害意は無いようだった、むしろ好意的にあやされていた。


 頬擦りされたり頬をつつかれたり真っ赤な唇でチュッチュされたり……


 女は無口で……と言うより喋る事が出来ない様子だったが、その身振り手振りで次第に女の正体が判ってくる。


 俺の手を最初に取った少女の雰囲気が漂う黒衣の女。少しばかりMPを与え過ぎたと思われる。


 これは進化か、成長か、MP吸収による強化は理解できるが、少女から大人の女性になった理由は分からない。しかし、おぼろげな幽霊姿だった以前とは違ってハッキリ見えるようになっていた。




 これが、一昨日の話である。


 そして昨日、いつものように悪女が石を持って来たその時、黒い衣装の悪魔お姉様がドス黒いモヤを放出しながら出現した。


 お姉様は仲間を連れて来ていた、三人も。悪女にお姉様方は見えていない様子だった。


 悪女は俺の右手に石を縛り付けると、昨日の分を回収していつも通り部屋を出た。


 悪女が去ると、お姉様が手振りで俺に『この子達も』と伝えてきた。


 俺は一気に群がって来た幽霊三人組を見て無意識に驚愕し固まる体を叱咤し、三人組にニッコリ笑って両手を差し出した。あ、お姉様もですか、ハイどうぞ……



 その日、新たに三体の悪魔が誕生した。

 眩暈めまいがした。



 今度は全員男だった、黒いタイトな革製の衣装はお揃いだ。こいつらは幽霊少女時代のお姉様の周囲を代わる代わるウロチョロしていた幽霊だった。


 三人の目もお姉様とお揃いで黒い渦だった。結い方は違うが、美しい白髪をきつく結い上げているのもお揃いだ。


 お姉様以外は口と鼻が無いのもお揃いでした。口と鼻が平面な皮膚だったのです。僕はそっと目を伏せ、再びブリッ子になったのです。


 彼女らはそんなブリッ子の頭や頬を交互に撫でた。


 まぁ、慣れると俺の赤ちゃんボディも緊張しなくなる。やたら優しいし愛情に近いモノも感じられた。


 恐らく、彼らはこの家で殺された怨霊的な存在だと思うが、どう見ても悪魔になってしまいました。



 彼らがどこの誰かは知らんが、もし俺と同じあの苦しみを味わって死んだ子供だったとしたら……もう安らかな成仏は叶わんのだろう。


 現世に残るのはむしろ願った結果か。


 解るよ、ヤル事が残ってるもんな?


 たとえ神の慈悲で昇天出来る選択が有ったとしても、それをドブに捨てる価値は大いに有る。



 今の俺はそう思う。









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