第4話『こ~の、いやしんぼめっ!!』





 第四話『こ~の、いやしんぼめっ!!』





 ふぅ……。


 本日のお勤めが終わった。

 一時間掛かってないかな? 


 日が高くなってから女が小石を持って来たが、もうヒマになった。


 今日もまた、魔石的なアレにMPっぽいソレを注ぎ込んだが、最近は少し気怠い程度で気絶する事もなく、酷い頭痛も襲って来ない。


 あとは翌日悪女が来る時間まで寝るだけ……だったはずだが、少しばかり状況が変わった。


 正確に言うと、俺が少し変になったから状況が変わった。



 俺の中に在る何らかの器官?から出たMPっぽいヤツは、体内から放出した分を時間経過による回復で補うが、実体験からの推測によると、このMPは枯渇する度に超回復して放出出来る総量を増やす。


 これは仮定の話だが、実際は魔石による急激なMP吸収で俺はほぼ死んでいる、しかし死ぬ間際に超回復で総量と共に少しだけMPも回復、それの繰り返しで魔石が満タンになり、ようやくMP吸収を終えて気絶しながら回復しつつ眠りに就いていたのではないか?


 赤ん坊が持つ平均的なMP総量は分からん、だが少なくとも俺の場合は小さな石が瞬時に全て吸い上げられる程度の量、赤ん坊である俺の少ないMPゆえの即時枯渇と超回復の繰り返しによって死をまぬがれた……


 有り得ない話、とは言えない……と思う。



 これは所謂いわゆる『鍛錬型パーティーアタック』に近いか。


 故意に仲間を傷付けて戦闘終了後に各ステータスを上げる技だ。


 日本のロールプレイングゲームなどでこの仕様はまれに有る。


 しかし、赤ん坊にそんな荒業をいては肉体的な負荷に耐えきれるとは思えない。だが、超回復でMPの容器である俺の肉体も鍛えられている事が分かっている。


 鍛えられている根拠としては、異常ともいえる体調の良さと、驚異的な飢餓耐性だ。


 乳幼児が一日一回の授乳で何日も健康のまま生きられるわけがない。


 あの布に染み込ませた『何らかの乳』と思われる飲み物が、やたら体に良い飲み物である可能性もあったが、三日ほど飲むふりをして空腹状態を維持したところ、少しノドが乾いた程度で、体調に問題は無かった。


 しかも、断食中は体の内側と表面を体の芯から溢れる何かが見えない膜として張り付き身体を護っていた。


 この膜は自己防衛本能による生体恒常性維持措置とか言うヤツだと思うが、その際、爪の先ほどだがMPが消費されたのを感じ取っている。


 その膜は有る意味『障壁』と言って良い。この家に隠れむネズミのような小動物は俺の手足をかじる事が出来ず毎回退散する。


 しかも、都合の良い事に悪女は俺に触っても障壁に気付いていない。弾き飛ばす型の障壁でなく助かった。


 コレが魔法か念力的な超能力なのか判らないが、一先ひとまず障壁の事は横に置き、MPとの関連性など仮説を基に検証する事にしたのだが……


 如何せん、障壁を消す事は出来るのに自由意志で展開が出来ない。つまり意識して自由にMPを消費することが出来なかった。むを得ず断食での障壁展開を選択。


 その結果、自由なMP消費は出来なかったが、断食を使った防衛本能によるその障壁は、検証を重ねるごとに厚みを増している事が確認出来たし、体感でのMP消費量は変わらない事も分かった。


 つまり、練習量や使用回数で障壁の強度と言うか効果を上げる素となった『何か』が有ると推測出来た。


 恐らくこの何かと偶然が重なった強運のお蔭で乳幼児の俺は今まで簡単に死ななかったのだろう。



 これらの検証結果を基に、その鍛えられている何かを仮に『魔力』と名付け、その魔力はMP大量消費や障壁の展開回数等で鍛えられていると結論付ける。


 思うに、魔力とMPは別物だろう。魔力は血肉、質が悪くなる事はあっても枯渇する事は無い。MPは魔力から出たガス、一時的にガス欠にはなる。


 この数日間で分かったのはこの程度だが、自分が今やるべき事は理解した。


 障壁展開の数をこなしつつ、MP枯渇と超回復を繰り返す。


 以前の俺は小石へのMP詰めノルマが終われば翌朝目が覚めるまで寝て過ごす毎日だったが、現在の俺は一時間あれば女に渡された石をMPで満タンに出来る。そして、昼寝の間にMPは全開だ。


 しかしそうなると、小石による吸い上げでMPの大量消費が出来ず、魔力とMPを鍛え増やす事が出来ない。


 有り余るMPで障壁展開の数はこなせる、だが如何せんMPの消費が少ない、自然回復がまさって枯渇まで行かない。


 これはマイッタと少しばかり頭を抱えた。


 石の供給や障壁展開に深く関わる魔力とMPの増加は、あの悪女が支配するこの場にいて常に死と隣り合わせである俺の切り札であると認識している。


 赤ん坊の時に意識して魔力とMPの両方を鍛えられる時間が有る、これほど貴重な期間は無い……にもかかわらず、だ。



 ヤレヤレ何とかせねばとうなっていたある日、恐らく石へのMP注入で魔力と俺自身が鍛えられた為と考えられるが、第六感か何感か知らんがそれも発達したようで、通常では見えないモノが見えるようになった。


 いよいよ脳ミソがやられたかと思って絶望したが、どうやら違った。


 初めはボンヤリ見えていたソレが、日を追う毎に細部も見え始め、先日ソレらが『人型』であると分かった。


 まぁ控えめに言って幽霊です。


 つい先日、いつも俺のそばをウロチョロする一番大きな一体を観察していると、俺が見ていたのに気付いたのか、向こうも俺を見つめてきた。


 正確には分からないが仕草や雰囲気的にその幽霊は少女だと思われる。


 そして昨日、いつものノルマを熟して昼寝に入ろうとした時の事だ。


 俺が視認出来る事を確信した為だろうか、意を決した様子で傍に居る幽霊少女が何かを訴えてきた。


 彼女は俺が握る石を指差し、俺を指差し、最後に自分自身を指差す。その繰り返し。


 初めは意味が分からなかった。


 だが『指差し』をする少女を見つめながらフと思った。


 この子はMPが欲しいのか?

 小石と同じようにMPを渡してくれと言っているのか?


 しかし俺はMP放出のやり方が分からない。


 魔石のように自動で吸い取ってくれれば、MPを消費したい俺としては利益しかない。


 取り敢えず少女の方へ左手を差し出してみた。


 その行為に驚いたのか少女はビクンと膨張してしばらく動きを止め、膨張した体を元のサイズに戻しつつ腰を屈めて俺の顔を覗き込み、霞のようにぼやけた顔でニッコリ微笑むと俺の小さな手を両手で包んだ。


 あぁ、吸われている。

 そう感じたが、少しばかり吸い上げに勢いがない。


 そこで俺は吸われている感覚を意識しながら、吸引元である少女にMPを送るイメージを強く意識した。


 結果は成功。いや、大成功だったな。


 こうして、俺はMPの効率的な消費先手に入れた。




 そして本日も少女に左手を包まれたままMP枯渇による穏やかな睡魔に襲われ、『また午後にね』と念を送りつつ深い眠りに就く。


 さぁ今日は昨日より多くMPを持って行きたまえ。


 では、お休みなさい……


 ちなみに、俺の寝床は小汚い木箱の上蓋うわぶたに敷かれたワラの上へとグレードダウンした。


 麻布はどうしたって?

 俺がお漏らししたら捨てられましたが何か?










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