鼻歌でクリスマスソングを歌いながら雑誌に目を通していると、お風呂上がりの先生がやって来た。こうしてリビングでまったりと過ごすのはよくあること。


「テレビ見るの?」

「凪ちゃんが見てないならニュース見ていい?」

「どーぞ。リモコンあるよ」

「ありがとう」


ソファーに並んで座る。

首にかけたタオルで頭を拭きながら、先生はリモコンを操作した。中身はそのまんまだけど、スウェットで寛いでいる姿は学校とはかけ離れてると思う。……いつの間にか缶チューハイも出してきてるし。


テレビには東京の有名なイルミネーションが映っている。クリスマスまであと5日というカウントダウンの字幕付きだ。


「あ、先生」


そう呼び掛けたら不満げな顔をされた。


「家では“先生”禁止って言ってるだろ。凪ちゃんにそう呼ばれてると他人行儀に聞こえて寂しい」

「慣れておかないと咄嗟の時に失敗しちゃうじゃん」

「言い分は分かるけど……、いつものやつがいい」


このままだと拗ねそうだ。名前のことは譲れないらしく、仕方がないので昔からの呼び方をする。


「ねぇ、ひぃ君」

「何かな?」


目尻を下げて嬉しそう。お酒が入って楽しいのもあるのかな?

ご機嫌の理由はあとで聞くことにして、本題に入る。


「今年はクリスマスに予定出来ちゃった! 」

「……へ? えっと……友達と過ごすのか?」

「ううん、好きな人と」

「…………そう、そうか」


間が空いたのは何故だ。「良かったね」と言うものの、あんまり心がこもっていないように聞こえる。

もしかして先生にはそんな人がいないから、先を越されてショックとか? モテるのに仕事が忙しいのか暫く彼女いないみたいだもんね。休日は私とゲームしたり映画を見たりして家で過ごしていることが多い。


「……同じ学校の人? 俺が知ってる生徒なのかな」


相手が気になるのかそんなことを聞かれた。シロくんのことを聞きたかったから、名前を出すつもりではいた。

クラスと苗字を告げると一瞬顔が強ばったように見えた。しかし、いつものように微笑んで「そっか」と頷いているから気のせいかな。


「格好良い子だよね。オーラがあるっていうか集団の中に居ても目立つなって思う」


教師の目から見てもそうなんだ!


「でも、凪ちゃんが過去に好きだった子達とはタイプが違わない? 意外だなって思ったよ」

「言われてみればそーかも」


シロくんのことは声に惹かれたのがきっかけだから、見た目も中身も二の次なんだからタイプが違っても不思議ではない。


「不特定の女の子とよく一緒にいるのを見かけるけど……あ、いや、教師でもある俺がそこまで口にする話じゃないよな」


ひぃ君は残っていた缶チューハイを一気に飲み干した。


「明日早いの思い出した。ごめん、先に寝るね」

「うん?」

「夜更かししないで寝るんだよ。おやすみ」

「おやすみなさい」


いつもならここで頭を撫でられるのに、今日は何もなくリビングを出ていった。……まあ、そんな日もあるよね。


再び鼻歌クリスマスソングを歌いながら雑誌のページを捲った。



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